星を追って
@akimaru423
第1話
「この世はクズばっかり。皆死んじゃえばいいんだ。…あぁそう、天誅ってな」
そう言って電車の音がゴトンガタンと聞こえるプラットフォームで寒殻 水葛(かんがら みくず)は一人の人間の背中を押して線路へと突き落とした。
人が一人落ちた瞬間電車は酷い音を掻き鳴らしながら駅に止まるが既に遅い。
駅に落ちた人間は肉塊と変わり果て死んでいた。
「ふふ…またクズが死んだ」
そう小さな声で呟いて笑った水葛もまごうことなきクズの一人だった。
水葛は昔クラスメイトから虐められてそれが原因で不登校になるほどの気弱な少年だった。そしてそれは友達からその気弱さを"優しくて善悪の区別ができる善人"だと評価される元になっていた。
そう寒殻 水葛は被害者側で奪われる側でどうしようもなく弱者のはずだったのだ。
ある日この特殊な能力を手に入れるまでは。
水葛は標的が死んだのを確認した後駅から早足で離れる。そして裏路地に入って誰もいないのを確認をしたら自身の顔面を剥がすように掴み何と今まで黒髪好青年の姿だったのがガラッと変わる。
真ん中分けの金髪に目つきの悪い赤い三白眼、服もスーツから青いパーカーに変わっていた。
「今日のお仕事も達成っと。後で掲示板に書き込んどかないとな。俺の成果を」
ポケットから携帯を取り出してニュースを見ている姿はどう見てもただの少年にしか見えない、先程の青年の姿が嘘のように。そう水葛はとある日からどんな姿にもなれるという変身能力を手に入れたのだ。
それから水葛はこの世に復讐をする為に嫌いな奴をネットに晒して殺して良いやつランキングなどというくだらないものを作っては一位になった嫌いな奴を殺している。
しかも水葛はこれを仕事だと言って自分は依頼された殺し屋何だとネットでは名乗っているあたり、本当にどうしようもない人間になっていた。
「ニュースは…まだか。マスゴミも大したことないな」
先程起こったばかりだからニュースはまだなのは仕方ないなと思いながら水葛は携帯に集中していた顔を前に向ける。
「は…?」
「あ、ようやっと気づいた?」
水葛の目の前にはこちらに銃を向けている、黒髪が肩にはつかない程度には少し長い髪に銃を持つにはあまりにも似合わない童顔な男が立っている。
いつのまに、というか何故自分が銃を向けられているのか水葛には理解できなくてポカンっとした表情で固まってしまう。
「いい表情だね。でも殺される理由なんていくらでも思い当たるんじゃない?」
「殺される理由なんてあるわけないだろ!ただの一般人ですよ?ねぇ、そのおもちゃ下ろしてくださいよ…こーいう冗談は知らない他人にやるのは良くないですよ」
嘘だ。殺される理由など山ほどある。だって水葛は今までこの能力で何人の人も殺してきた。でもこの能力があるから嘘を突き通せると見て震え声で否定したのだ。それはそうとして人は焦ると早口で長い言葉を発するという噂は嘘じゃなかったな、なんて水葛は思考の端でくだらない事を考える余裕がまだこの時にはあった。
「今日12時54分駅にて黒髪青年の姿で線路に人を落とす。一昨日14時30分に商店街にて金髪の少女の姿で裏路地に誘導して刺し殺す。12月2日、6時25分学校の屋上にてメガネの大人しそうな同級生の姿を借りて屋上から人を突き落とす」
「は…?え、何でそんな事知ってんだよ。掲示板にだってそんな詳しく書いてない…!」
そして水葛はハッとする。この言葉完璧に間違えた。これでは殺したことを肯定してしまったようなものだ。咄嗟に口を手で覆うが既に遅い。銃を持った男はクスクス笑いながら水葛を見ている。
「はは…お前探偵か何かかよ」
「俺が探偵に見えるの?」
銃で脅してくる探偵なんてこの現代にいる訳ねーなと思いながら水葛は首を横に振る。そうすると男はまた面白そうに笑いながら銃の安全装置を外して水葛を追い詰めていく。まぁ水葛は銃に詳しくないから何をしたか分からないけどとりあえず殺す準備が整ったんだな、とだけ察する。そして水葛は全てを諦めるように後ろに隠し持っていたナイフすらあからさまに地面に捨てて手を広げて撃たれるのを待つ。
「ありゃ。そんな早くに諦めちゃうの?」
「クズはクズでも綺麗に終わりたいんだよ。それにどうせこの世はクズばっかり、だぁれも俺みたいな奴が生き残ることを祈ってはくれてないって理解できたからな」
そう言って水葛は男の目をじっと見つめる。人生最後に見る顔だから最後まで見つめようと思った。だってそうしたら一人で哀れに死んだ負け犬なのが薄れる気がして、誰かが側にいたという事実がきっと水葛の死を少しでも報われされる。そう思って男の顔を見ただけなのに目があった途端男は腹を抱えて笑い出す。
「あはははははははは!ただの殺人鬼が綺麗に死にたい?誰にも生きることを望まれてない?あははッ!君は綺麗に死ねるような人間じゃないし、君が生きることを望まれてないのはその通りだ」
「な、んだよお喋りは飽きた。早く殺せよ」
そう言うと今度は男の方から水葛の目をじっと見つめる。口は笑っていてでも目は笑ってない、そんな歪な表情でじっと見つめてくるもんだから水葛は段々恐れの感情が湧いてくる。水葛だって死が怖くない訳ではない、ただ実感が湧かなかったのとこの男からは逃げられないと本能的に察した結果諦めが早い性格だった故に早く殺してくれと降参のポーズをしただけで。
怖くて手が震えてくるのを感じる。目の前の男の異質さを感じ取って逃げたくなる。でも本能が言うのだ、「逃げたってどうせクズの世界。生きてる意味などない」そう言って足を鎖で地面に縫いつけたように動けなくする。
「あぁそうだなチャンスをあげるよ!10秒あげるからそれで逃げて見せてよ」
そう言って男は10、9と数え始めるが水葛は逃げる気は起きなかった。だって最初からこの世界に諦めの感情しか抱いていなかったのだから。だから水葛なけなしの勇気を振り絞って逆に男へとゆっくりと震える足で近づく。
「殺せよ。どうせ逃す気なんてないんだろこのクズ野郎。まぁ俺もクズだから同類だな」
そう言って水葛銃口を掴んで自分の頭に向ける。すると男は驚いたように、そして嬉しそうな顔をしたかと銃を下ろして水葛にグイッと顔を近づける。
「面白い子だね。諦めが早いだけかと思ったけど大胆なことをする勇気もある。うんうんこれは面白い」
「こ、ろさねぇの…?」
いきなり銃口を下ろしたと思ったら顔が目の前まで迫ってきたことに水葛は内心凄くビビりながらも殺さないかと問う。このまま見逃してもらえるなら水葛だって死にたくはないからラッキーみたいなノリで家に帰るのだが目の前の男がそれを許すかどうか考えた結果無理そうだなと思ってこれからどうなるか分からなくなった展開に戸惑うしかなくなった。
「うん殺さない」
「じゃあ!帰っていい「飼うことにした」…は?」
衝撃の言葉に水葛はポカンとした顔で思考を止めてしまった。
「ちょうどペットが欲しかったんだよね。金色の猫ちゃんって可愛いし仕事時に持っていけばカッコよくない?いいじゃんうんうん今日から君は俺のペットってことで…ってあ、」
言ってる意味が理解できないがとりあえず死ぬよりも地獄を見ることになることになったことを理解した水葛は本能的に今度は反対に逃げることを決意して地面に捨てたナイフを拾って男に投げた後水葛は表通りまで行くために必死に絡まる足を走らせる。
しかし投げたナイフは男にかすりはしないしドンッという音と共に水葛は倒れる。
「…ッ!」
撃たれたのだ。足を。だからどれだけ身体を起こそうとも水葛は立ち上がることもできず激痛がする足を押さえながら必死に這いずり男から離れようとする。
「駄目だよ。逃げちゃあ。もう決まったんだ。君というクズはこれから裏社会のクズに昇進するんだからさ。ほら受け入れて、今は目を閉じると良い」
「ふざけんな!俺は!俺は誰かの下で地面舐めて生きる生活なんてごめんだ!」
叫ぶ水葛にゆっくりと男は近づいてきて痛みで起き上がれない水葛の上に座って逃げられないようにされる。血が溢れ出る足も上に乗っている男も嫌になって水葛は地面を睨みつける。
「ちくしょ!何で…何でいつもいつも俺ばっかり、俺ばっかり!人間以下の扱いをされるんだよ!俺が欠陥品だからか!俺がクズだからか!…あぁ俺だってぇ!普通が欲しかっただけなのに!」
「普通か。普通が欲しいならあげるよ。殺し屋としての普通を、だけど。だから今はおやすみしようね」
叫び散らかす水葛に男は笑いながら水葛の口に睡眠薬を放り込んで飲み込むように口を手で押さえる。暴れる水葛の抵抗も虚しく睡眠薬を飲んでしまったからか、血が出過ぎたせいか水葛の意識は男の顔を最後に見て闇に落ちていく。
____
「ここだよ!えーちゃん!へへ私見てたんだぁ!ここに黒髪な好青年風のイケメンが入っていくの。しかしえーちゃんも不思議な子だねぇ!駅にいたイケメンに一目惚れ何て!」
そう言って路地裏を指さすのは紫リボンが特徴的のセーラー服を着た金髪を二つくぐりした八重歯がチャームポイントな女の子、藍胎 微真(あいばら かすま)。
「あぁありがとう微真さん。貴方のおかげで告白できそうだよ」
「えぇー!もう告白するの!?出会って1秒でカップル誕生!凄いねぇー!」
そう言うのは紫のネクタイをつけたセーラー服を着た黒髪ロングの糸目の少女、白倉 英(はくら えい)。彼女はどうやら駅で見つけた青年を追ってここまでやってきたらしい。微真に頼ったのも彼女がその男の側に丁度いたから顔をよく見ただろうと考えて白倉が「あの人に一目惚れしたの。追いかけたいのだけど…どこに行ったのか分からなくて」と言ってどこに行ったか案内してもらったのだ。
「ふふ告白しても成功するとは限らないからね」
「えーちゃんなら可愛いから絶対に大丈夫だよー!えーちゃんってば最近の美女転校生で有名だったんだからね!そんなえーちゃんに話しかけられた時女の私ですらドキドキしちゃったんだから」
そう白倉は最近転校してきたばかりの有名な少女だ。その有名さも美しくて綺麗な見た目をしているし成績も入った途端に一位を掻っ攫っていったから余計に転校してきた当初は白倉の周りに人が絶えなかった。
そんな話題の中心にいる少女が、ごく普通の、いや少し成績が悪いが明るい雰囲気で周りを照らす様な性格をしている微真に話しかけてくるのは珍しくて最初は驚き戸惑ってドモリもした。
「えーちゃんの告白見守ってあげる」
しかしこれは学校カーストの下らへんにいる微真にとってはチャンスなのだ。学校の中心人物が味方になればこれからの学校が楽になるに違いないそう思って裏路地に入る白倉に着いていく。
白倉は一度こちらを見て、本当に着いてくるのかと言わんばかりの目線を送ったが微真はバカだから気付かなかったというフリをして無理矢理でも着いていく。そうでもしないと微真は学校で息をするのも辛いのだ。
「は…?な、なにこれ?えーちゃん、ここから離れよ?何かおかしいよここ」
そうしてついて行った先にはまだ新しい血痕がべったりと地面に残っていた。それはとても生々しく這いずって逃げようとしたのであろう血が引きずっている跡まで残っていたものだから微真は怯えに怯え必死に白倉とここから逃げようと訴えた。
「あぁ遅かったか。兄さんに星が取られてしまった」
なのに白倉はあろうことかその血痕に近づいて周りを調べ始める。じっくりと血痕を見た後に引きずって出来たような血の跡の先を見てふむと考えるように手に顎を置く。これは白倉が考える時にいつもするポーズだ。
「ほ、ほし?にいさん?何のことか分かんないけど早く離れようよ!ねぇ!」
そう言って白倉の手を引っ張ってここから離れようとした微真だが、その手はあっけなく振り払われる。
「きゃっ…!」
振り払われたことによって微真は転んでしまうがそれでも白倉の興味にはならなかった様で見向きもされなかった。そのことと大量の血痕を見てしまったことからか動転して微真からはつい本音がポロポロ漏れることになる。
「あんた何なのよ!人が協力してあげてるからっていい気になって!気持ち悪いのよ!気持ち悪い気持ち悪い!血なんて見て興奮して!イカれてんじゃないの?やっぱり頭の良い子は特別だからこんなことじゃ動転しないって?はぁ?厨二病かよ!こんな気持ち悪い女なんであたしより人気があるの?!なんであたしがこんな女より下なのよ!」
叫び散らかしたら微真は今までバカな女を演じていたのに、せっかくこのカースト上位に入るチャンスを反対に自分のカーストを落とす様な発言をしてしまったことに気づき咄嗟に口を手で閉じる。
「おや言いたいことはそれだけでいいのかい?ずいぶん酷い劣等感を抱いていたようだね。ふふ可哀想に」
「は…?可哀想?可哀想にって何よ!あんたみたいな優れた人間が私みたいな女の苦しみ何一つ知らないくせに!知ったかぶりしないで!」
その言葉にカッとなった微真は転けた時に側に落ちていたナイフを見つけてしまい。ナイフを持ち立ち上がり白倉にそれを向ける。
もうヤケになってしまったのだ。カースト上位の白倉にあんな事を言ってしまった時点で明日からの学校で地獄を見ることは分かってる。だからここで何もかも消してしまおうと
ナイフを構えて白倉に向かって刺そうとする。
「死ねッ!」
しかしそのナイフはあっけなく微真の手から離れていく。白倉が刺される寸前で微真の腕を掴みそして腹に蹴りを入れられたせいで微真は衝撃と痛みからナイフから手を離してしまったのだ。
「ぅう…何なのよ。何なの、あんた…!」
あまりにも完璧すぎる対処に微真は怯えさえ見せた。目の前にいる白倉が何者なのか分からなくなったからだ。ナイフで刺そうとしても血痕を見ても何一つ眉も動かさないほど動じないまま対処される。微真には目の前人物が化け物にしかみえない。
「あぁ…もういいわ。もういい」
だから微真は諦めて落としたナイフを拾って今度は自分の首に向ける。
「今度は死んであんたを呪うことにするわ」
そう言って首を切ろうとした。しかしそれは白倉によって止められる。ナイフを持つ手を掴まれて顔はキスされるんじゃないかと言うほど近くに来ていた。
「へぇ面白い。ここまで諦めの悪い人間は初めてだ。しかし死んで呪うとは何という素敵なプロポーズだろうか」
「はぁ…?なによ!手を離してよ」
それでも白倉は手を離さない。それよりも喜びの感情を見せている白倉に微真はまた恐れの感情抱く。何回この女に恐怖を抱けばいいんだと微真は自分に対して呆れの感情さえ抱いていた。
「いいね。プロポーズされたからには返さないとね。私は君と一緒にこの地獄で楽しみたい。だから私の助手になりなよ、レディ」
これが本当に地獄への言葉だと微真は知らないまま意味のわからない白倉をじっと見つめてナイフを下ろす。
「好きにすればいいわ。どうせ貴方みたいな人間のおもちゃなんだから私は」
意味の分からない言葉、だけど逆らえないのも逃げられないのも理解した。だから諦めの言葉を恨み言のように吐き捨てた。
そうこれが始まり。
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