第11話

夢を見る。いやこれは今の焚が過去にあった出来事を思い出すように夢に出てきた記憶だ。

事故があってから病院に入院していた焚はまだ記憶の混乱で自我が揺らいでただぼんやりと廃人のように窓の外を見るだけの日々だった。

そんな時とある一人の少年が病室に花を持ってお見舞いに来たのだ。


「だれ…?」


しかし記憶の混濁が酷かった焚には見覚えがない人物でそう言ってしまったのだ。

そうすると少年は目を見開いて絶望したような顔をするのだ。

だから胸が少し痛んだ。でもその時焚はその痛みが謎で仕方なかった。少年が絶望した理由が分からないし、焚がそれを見て心が傷んだ理由も廃人擬きには理解できなかったのだ。


「先輩は?先輩は何処ですか?」


少年は俯きながら焚には理解できない言葉を言うもんだから焚はただただ首を傾げていた。


「ねぇ先輩を返してくださいよ!俺には先輩がいないとッ…!」


そう言って少年は涙をこぼす。でも焚はその感情も言葉も分からない。


「先輩ぃ…帰ってきてよ…」


「…まこくん?」


でもあまりにも悲痛な声を出すもんだから焚はつい意味を分かっていないのに口から名前であろう言葉がぽろりと落ちる。

焚も呟いたつもりがなかったから不思議に思って、自分の口を触る。


「…あぁ…まだそこにいるんですね先輩。良かった、よかったぁ…」


少年はその言葉を聞くと絶望から希望に変わったような嬉しそうな声を上げて焚に抱きつく。


「…?」


焚はされるがままにただ抱きつく少年を不思議そうに見るだけだった。でも少年には先程の言葉だけで満足だったようで嬉しそうに笑う。


「先輩、俺先輩に愛してもらえるように頑張ります。だから先輩今度は俺を選んでくださいね」


少年は縋るようにそう言う。珍しいアルビノの白髪に赤目がキラキラと光った目立つ少年だったのに何で今まで忘れていたんだろうと夢を見ている焚は思う。

その白髪の頭を撫でてあげたいとあの時思ったのも思い出す。

きっと彼、いやまこくんは昔の焚にとってとても大事な人だったんだろうと考えたところで意識が浮上する感覚がする。

夢から覚めて明日が来た。

憂鬱な朝は焚の身体を重くする。でも今日見た夢は今の感情を知るための一歩かもしれない。あのまこという人物に会えば焚は何かを思い出すんじゃないかと思う。

ならば裏町の殺人鬼を追うついでに探そうと考えた。

そしてふと気づくのだ。まこという少年は少し夏ノに似ているなということを。年齢が全く違うから本人ではないんだろうけど何か兄弟かなのかもしれないと思い今度夏ノに出会ったら聞いてみようと思う。

そうしていつも通りの朝の支度をして焚はいつも通り学校に行く。

部室には寄らないつもりだった。

しかし学校の校門にはあからさまに不機嫌そうに焚を待ってるであろう烏真の姿が見えた。焚は知らないフリして通り過ぎようとするがそれは出来なかった。

烏真が焚を見つけた途端すごい速さで歩いてきて焚の腕を掴んだからだ。


「あのさぁ、いつまで部活サボるつもり?」


「…サボってるつもりはない」


つい焚は苦し紛れの言い訳を言ってしまう。それを聞いて烏真の眉間の皺が増える。機嫌がまた下がったのだろう。むしろ今皮肉を言ってない事が奇跡に近いのだろう。


「報告、連絡、相談は当たり前だよね?今日は僕からの話もあるから、せめて昼休みだけでも部室に来てよね」


「…分かった」


これは全面的に焚が悪いから何も言い返せずに承諾する。すると烏真はふふんというそれでいいんだよといわんばかりの顔をする。


「あぁそれと教室に寄る前に廊下に貼られた作文でも読むと良いよ。春に書かされたでしょ?あれ先生が良いと思ったのが何枚か貼られてるみたいだよ」


「何でそんなもん見なくちゃいけないんだよ」


「はぁ?君に拒否権はないんだけど」


烏真は拒否するとまた不機嫌そうな顔をして「君がいない間困ってたんだからね」なんて罪の意識でも持たせてでも作文を見ろと圧をかけてくるもんだからため息をつきながら軽くハイハイとうなづいて教室に向かう為に歩き出す。

春に書いた作文のことは焚は覚えている確か人生についてなんて言うどうでもいい事を書かされたはずだ。焚は完璧人間になりたいと書いた覚えがあるがそれが貼られていたら少し嫌だなと思ってしまった。

でも烏真があんだけ見ろと言うもんだから凄く面白い作文でもあるのかと考えて廊下の壁を見る。


「…僕の救われた人生」


そう一つ目に入った作文のタイトルを読む。それは真群が書いた作文だった。


『僕は一人ぼっちな人生を歩んでいました。

長い孤独とはつらくて苦しいもので誰かに縋りたくてもその誰かがいない人生。

そんな地獄のような人生だったのです。

でもその地獄から救いあげてくれた人が一人いました。

その人はきっとただ目があったからだからほっとけないというお人好しな人間で孤独に慣れすぎて人が側にいることすら怖くなった僕が何度拒絶しても少しずつ、本当に僕の歩みに合わせてゆっくり僕に何度も近づいてくれたのです。

この人がいたから僕はやっと人と関わり合う方法を覚えました。

そしてその人のおかげで沢山の人ととも繋がりを得て僕の人生はまるで一変して普通の人間と同じような道を歩めるようになりました。

そしてその人が僕に言葉を、心を、暖かさをくれたから僕はそのうち愛という感情が芽生えました。

愛はワクワクしたりドキドキしたり色んな音や感情を溢れださせて僕は本当に満たされたのです。

それは救ってくれたあの人がまるで人が変わったような雰囲気になっても変わらない、燃えさかる炎のように僕の感情は消えやしなかったのです。変わったあの人は可愛くて儚い雰囲気だったのが強く綺麗で美しい人になっていて僕はまたその鮮やかさに惹かれていくのです。

僕を救った人は僕を二度も満たすのです。

だから今のあの人を今度は僕が守り続ける人生でありますように』という感じの文章がつらつらと書かれている。まるでラブレターだ。

焚は見ていて恥ずかしくなった。だってこれは今の焚と昔の焚両方に対しての気持ちをそのままありのまま書いてるもんだから段々と恥ずかしさが嬉しいのか悲しいのかよく分からないごちゃごちゃとした感情で埋め尽くされる。

救ってくれたあの人はもういないのに。

真群はずっと忘れない。

__ずっと嫌いだった自分を忘れてくれない。

焚は悲しくて嬉しいのだ。この感情が昔の焚のものか今の焚のものかと問われたら両方だろう。どちらも愛をもらっている。それはあのデートでよく分かっていたはずなのに焚は自身への感情すら分からなかったのだ。

でも焚はまだこの愛にどう返事すればいいか分からなかった。

焚はまだ自分の感情が分からないということを分かっている。昨日裏町で自分を探したのも死を追っているのも全部、全部自分と真群の為なのに感情が言葉にできないのだ。

それはまるで魔法使いに愛を禁じる呪いをかけられたように。

焚には愛を理解できない。

でも真群の好意が本物だと理解した。

だからこその矛盾が焚を苦しめる。

無意識のうちに作文を見つめながら胸を握るように服を強く掴む。

そうしてやっと焚は自分は苦しいんだど理解する。


「…分かりたいから、か?」


それを理解した焚はまた泥の女王に出会うための方法を早く知る為に教室に行き今日は何をするか考えながら授業を受けることにする。

教室に入ると教卓に花が置かれているのを見た。ウィリアム先生が死んでからずっと誰かが色んな花をかわりかわりに教卓に置いているのを焚は知っていた。焚も何度か花を置こうか悩んだが他の生徒がこれほどウィリアム先生を愛してこまめに花をあげているならば焚のはいらないなと思いまだ一度も花をあげたことはないし墓にも行ったことがない。

墓の場所は烏真から教えてもらって知っているのだがどうしても行く気にならない。だってもし死んだ要因が自分じゃないとしても一度はウィリアム先生を傷つけたのは事実だ。そんな焚が墓参りなんて行くべきじゃないだろうとまで考えて自分の席に座る。

そうして考え事を少ししている間に教師が入ってきて授業を始める。

担任のウィリアム先生がいなくなったから当分は朝のHRはないままそのまま授業が始まる。教卓の花はどの教師もウィリアム先生が愛されている証だからと注意はしない。

教師陣からもウィリアム先生は好かれているような良い先生だったようだ。

授業が始まってからずっと焚は泥の女王について考えていた。

もし本当に神様なんてものが存在していてその神様が死を無くしたというのであれば何故そんなことを今更したのかや自分はいつどのタイミングで泥の女王と会話したのだろうかと色んな疑問で溢れるがどれもこれも考えても思い出せなかったり分からなかったりするもんだからやはり鍵は裏町の住人の誰かが握っていると焚は思う。

記憶さえ思い出したら焚はきっと泥の女王に会えるキッカケも分かり泥の女王と話したら全てが解決すると思ったのだ。

そんなことを考えていてふと焚はそう言えば冬世が自分のことを夏ノの金魚のフンだと言っていたなということを思い出す。

夏ノなら何か殺人鬼のことも自分のことも知ってるんじゃないかと焚は思った。前に会った時は疲労で倒れて目が覚めたばかりだったから頭がイマイチ回ってなくてあまり深く自分のことを聞いていなかったと思い。今日は水未と共に夏ノの所に行こうと考えた。

そして思考が終わる頃には昼休みが始まるチャイムが鳴った。


「もう昼か」


そう小さくて呟いて焚は少し部室に行くのを躊躇してしまう。しかし烏真なら少しでも来ないと今度は教室まで迎えにきそうだと考えて意を決して部室に行く為に立ち上がり足を動かす。

廊下を歩く途中で泣いてる女生徒とそれを慰める男生徒がいた。


「ウィリアム先生は死んじゃったし、遠之宮先輩も目覚めないらしいしこの学園呪われてるだよぉ」


「大丈夫だよ。僕が守るからね。絶対に君だけ守るよ愛しているから」


何て会話をして二人見つめあった後抱きしめあってるもんだからこんな目立つとこでよく出来るなと焚は考える反面、男は皆愛している=守るに繋がるのかと考えていた。そして真群が焚に対して言葉で「君を守る」なんて言っているのを想像してゲェーとなった。作文で読んだ時はあまり気にしていなかったいざ言われたら焚は守られたいとは思わないだろう。守られるとはつまり弱く見られているも同然だと考えたからだ。

焚の思考は至って単純で守ると聞くと物理的なことだと思ってしまうのだ。精神的に守るなど守るにも種類があるだろうが真群は果たしてどの意味であの作文に書いたのかは本人にしか分からない。

やはり守られたくないということは自分は真群の事を愛していないのかなと考えはするも守る以外にも愛があるかもしれないと思いとりあえずこの思考を端に追いやる。

そして部室に着いたことで少しドアを開ける前に大きく息を吸って吐う。

心が落ち着いてると自覚できた瞬間焚はガラリと部室のドアを開けて中に入るのだ。

部室の中は春の時と至って変わってないように見えるがよく見れば机に紙が乱雑に置かれているように見える。そして部室にはまだ誰もいないのをいいことに焚は机に置かれた紙を覗き込む。


「呪生(じゅせい)宗教団体について…?」


そこにはカルト宗教団体であろう者達の事が調べまとめられていた。呪生宗教は生の呪いを信仰する団体、生とは苦しみであり生とは廻るものであり生とは永遠であると書かれている。その呪生宗教団体はつまり今の死がない世界の異常さを崇めているということだ。

生がある限り苦しむのを理解しながら生を望むイカれた奴らの集まりという事が分かったが。

烏真が何故そんな宗教団体について調べているのかが気になった。確かに焚達の目的とは相違う集団だが、まだ敵対してないし何か事を起こしてるようなことは書かれていない。だから所詮はイカれた奴らの集まりだろう、そんな奴らを調べ尽くしてるのは烏真の行動にしては珍しい気がする。だから書かれてないだけでこの集団がこちらに関わる事で何か起こしたんじゃないかと考えて烏真が来たら聞いてみようと思う。


「盗み見なんて趣味が悪いね」


その烏真の一言から焚は思考の海から浮上する。焚は常に警戒心を持って周りを注意してるのに烏真のあまりの気配の無さに声には出さないが驚いた。

焚に気づかれずにあのガラガラ鳴るドアを音も出さずに開けて背後に立っているもんだから一瞬暗殺者でも来たんじゃないかとこの現代にしては変なことを考えた。


「机に置きっぱなしにしてるお前が悪いんだろ」


「えぇ〜僕が悪いの?せっかく君が来ると思ってスイーツを買いに行ってたのに」


そう言って烏真は購買で買ってきただろうマカロンにシュークリームにチョコを机に乱雑に出した。


「お前が食いたかっただけだろ…。俺は食わねえぞ。そんなことよりこの呪生宗教団体って「えぇ〜!勿体無いなぁ仕方ないから僕はが全部食べちゃうからね」…はぁ」


スイーツなんかより早く情報交換したさにすぐさまこの宗教団体に聞こうとする焚の言葉に最初から全部自分で食べるつもりだったようなわざとらしい声で烏真は遮りスイーツを開けてもぐもぐと頬張っていく。


「おい!話を遮るなこのスイーツ魔人!呪生宗教団体がなんかうちに関係ありそうだから調べてるんだろ?!」


モゴモゴーゴキュ、ごっくん


「んー別にうちのとは多分今の所関係ないよ。ただ僕の古い友人がそこに所属したって聞いたから、一応親切心で調べといてあげようと思ってね。でもそこまで何か企んでるとか事件を起こしてるとかは出てこなかった」


こいつスイーツを食べる音にしては変な音があったぞと焚は変なとこを気にするがすぐに烏真の返事にガックリする。烏真みたいな人を見下して生きてる人間が友人の安否や未来を心配する優しさなんて持ち合わせているとは思ってなかった。


「まぁイカれた集団ってのは変わりなかったから古い友人には所属し続けるのはやめたほうがいいと言おうと思ったんだけど結局会えないままなんだよなぁ。避けられてるねこれは」


まぁ烏真の性格を考えたらこの集団から抜けるように説得するときに使う言葉は棘だらけで下手したらナイフ並みに鋭いもんだから古い友人が避けるのも分かる。


「それは置いといて。ウィリアム先生が自殺出来た理由を探っていたんだけど、

これ実は自殺に見せかけた他殺っぽい。

誰かがウィリアム先生をビルの屋上に呼び出して落としたみたい。

まるで先生が自殺したように遺書を置いてあったんだけどそれをよく調べたら先生っぽくない字と文章でね。

そもそもウィリアムは悪魔の歌を聞く前から壊れていたみたいでね。あの時自分が誰か分かったことで精神がおかしくなってたから綺麗な遺書なんて残すような精神状態じゃないんだよね」


烏真は焚に口を挟ます暇もないままベラベラとウィリアム先生の事件について話していく。


「じゃあ…俺がやったことは間違いだったのか」


焚が真っ先に引っかかったのはウィリアム先生の精神を壊したのは自分のせいじゃないかって所だった。


「間違いではないよ。ちょっとミスはあったけどこのままウィリアム先生をほっといたら意識不明者が増えていく一方だったからね。君は正しい選択をした」


「…そうか」


その弱気な言葉に烏真リーダーらしく事実を言って焚を励ます。焚はその言葉を複雑に思いながらもでも間違いじゃないと自分で自分に暗示をかけて安心する。


「…で他殺ってことは誰かが人を殺す手段を持っているということか?」


そして一番重要なことを烏真に問う。すると烏真はすこし悩んだ後うなづいて言葉を紡ぐ。


「誰かがそういう能力を持っているのか、それか条件があるのか、でもこの世界で確かに誰かが人を殺せるんだ。でもその誰かは見つからなかったし誰かが人を殺せると確信があって殺したのかも分からない」


やはり分からない事だらけだ。でももしその人間が死がない世界だと知りながら自分が死をもたらせれると確信しているのであればそれは確かな一歩だ。


「僕はその誰かを探すことにするよ」


「俺が手伝えることは?」


殺人者を追うと言うのだから少しでも力になろうかと問うが烏真は首を横に振る。


「それより君の方はどうなの?何か変化はあった?」


「俺は裏町に」


烏真が次は君の番だと言うから焚が口を開いてすぐに裏町と聞いた瞬間。ドンッ!と大きな音と共に焚は驚いて言葉が止まる。どうやら音の原因は烏真が強く机を叩いのが原因だったようだ。どうして突然机を叩くほどの動揺が起こったのか焚には理解できなくて少し烏真の様子を伺って黙る。


「はぁーーー…。裏町に行ったの?」


すると烏真は大きなため息と共にあからさまに不機嫌そうな声でそう問う。

その言葉に焚はそう言えば裏町を仕切ってる夏ノと烏真は仲が悪いと水未が言っていたなということを思い出して今のは失言だったなと思うが裏町に行ったお陰でこの集まりの目的を達する為の情報を手に入れたのは事実の為それだけは話そうと口を開く。


「偶々たどり着いた。でもそこで死がない世界が作られた原因についての情報が手に入れたから問題はないはずだ」


「……夏ノには会ったの?」


死へと近づいてるはずなのに烏真はそんなことより気にしていることを口に出す。


「…あったが。こちらの情報は誓って流してない」


やはり夏ノと烏真は敵対関係でもあるのかと少し自分が裏切り者かと疑われてるのかと焚は心配になる。


「そうじゃないんだよなぁ。あのね、焚、君の、「たっだいま〜!烏真!コーヒー買ってきたよ」…チッ」


烏真が何か重要な事言うであろうタイミングで部室のドアがガラガラと勢いよく開けられて明るい声と共に立橋が入ってくる。

いないと思ったらまた烏真にパシられていたのかと焚は呆れる。


「それで夏ノが俺の何なんだ?」


「…何でもない。確証のない事だ。それより立橋コーヒー寄越せ」


「はいはーい。…大事な話中に入っちゃった?ごめんね〜」


焚は何だっかと問い返すが烏真はそう言うと口を閉じてこのことに関しては何も言いませんって態度を取る。その烏真を見て立橋はコーヒーを渡しながら軽いノリで謝ってくる。

烏真はコーヒーを一口飲んで切り替えたようでこちらを向いて口を開く。


「で、死がない世界を作った原因って何だったんだい?」


そう興味深そうに聞くから焚は先程の話はまぁいいかと思い泥の女王、脳の小人という神様擬きについて丁寧に泥の女王と交渉できたら死が戻るかもしれない、でも泥の女王と話すためには女王が目につく行動というものをしなくちゃいけない、だからその女王に会う為の手がかりを得るために今裏町で起こってる行方不明事件について追うことにしたまで説明する。


「神様擬きねぇ…こりゃ話がでかくなってきたけど、まぁこんな馬鹿みたいな現象起こせるのは神の力ぐらいだよね」


「神様かぁ…地面に神様がいるなんて常に神様を踏んでるってことじゃん!不敬って怒られない?まぁ怒られようがどうでもいいけど」


烏真も立橋もとんでもない話を簡単に受け入れる。やはりこの異常さには焚より二人の方が慣れているのかもしれない。


「でも本当にその行方不明事件が神に繋がってるとも限らないんでしょ?もし繋がってなかったらどうするの」


「昔俺も泥の女王と出会った事があるらしい。だから行方不明事件に関係していない可能性も考えて自分の過去を思い出す為の繋がりを探す」


そう返すと烏真はまた少し不機嫌そうな顔になる。


「あぁ〜焚くんこの烏真の表情は心配してますって意味だよ」


「…そうなのか?」


「違う!」


立橋が言う通りそう訂正されると顔を真っ赤にして恥ずかしそうに必死に否定するもんだから焚は何だ、心配されていたのかと納得する。


「心配いらない烏真、今度はあんなミスしないように傲慢さを捨てるさ」


焚は烏真が心配してるところとは全く違う見当違いな天然が入った発言をするもんだから烏真は本日二度目のでかいため息をつく。


「その心配はしてないっつうの。いやそのって何だ!焚に対して心配なんて感情抱くかっての!」


「そうか、それは良かった」


焚も心配されるほど弱くないと考えていた為烏真の言葉をそのまんまに受け取る。それを見て立橋が大爆笑してるもんだから焚は不思議そうにして烏真は怒りで震えていた。


「あぁー!もう!立橋笑うな!お前も報告あるだろ!しろ!」


怒りで大きな声を出す烏真に焚はまたしても何で怒ってるのか分からないまま立橋の報告を待つ。


「あはははははは!…ふふあぁうん俺は毎日兄弟のお見舞いに行ってたんだけど、怪我は完治してる。だからもうすぐ目が覚めるんじゃないって感じ。あ、これ兄弟センサーね。これは大体当たる」


「…それはよかった」


兄弟センサーって何だと思ったが焚はそれよりも真群の目が覚めるかもしれないって情報にホッとした反面少し怖くなった。

目が覚めた時自分が何を言えばいいのか、真群が何を言うのかまだ想像できないのだ。

だから早く目が覚めて欲しい気持ちとまだ待ってくれと言う気持ちがせめぎ合っていた。


「真群が目覚めたらまたコンビを組んで働いてもらうからね。二人とも仲良くするんだよ」


「仲良く…は出来るが分からんが目的の遮りにはならないようにはするから安心しろ」


仲良くしろと言われても焚はまだ感情の整理がついていなんだから不可能に近い。でも目覚めたらまた真群は自分の後を着いてまわるんかと思うとそれは受け入れてもいいかもしれないと焚は思った。


「そろそろ昼休みが終わるな。俺は放課後行方不明事件を追うから部室には来ない」


「りょーかい。気をつけなよ」


焚は時計を見て立ち上がりそう言えば烏真から珍しくストレートな心配の言葉を貰う。先程の心配していないっていう発言は何だったんだと思いながらもそれは口に出さない。


「じゃあまた明日」


「うんまた明日ね〜!」


烏真は心配の言葉を吐くだけ吐いてそれからはガン無視を貫く態度をとっていたから、代わりに立橋が返してくれる。

焚は今の焚になってからこうやってまたねの挨拶をするのは真群に対して以来だなと思いながらも何だかポカポカするような不思議な気持ちになっていた。

これを人の温もりと呼ぶのだろうが焚はそれすら理解しないままその場を去った。

そしてゆっくり歩きながら教室のドアの前まで行くと生徒達が大きな声で噂していた。


「これ不謹慎かもしれないけどさぁ、俺ウィリアム先生が死ぬ前にウィリアム先生が女子高生と裏路地に入っていくの見たんだよね」


その声に周りは「えぇー!援交?確かにウィリアム先生一時期様子がおかしかったよね」や「ウィリアム先生尊敬してたのにがっかりだなぁ」や「俺も裏路地にフラフラ入っていくところは見たけどそういうことだったのか」なんてそれぞれ喋っている。


「援交がばれそうになって自殺したんじゃね?クズじゃん」


至って冷静に噂を聞いてその女子高生がウィリアム先生の死に繋がる鍵かもしれないて考えていたのにその生徒の一言で焚から怒りの感情がカッと湧き上がる。

ガシャンッ!と強くドアを開ける。生徒達はその音にびっくりして皆焚に注目していた。


「くだんねぇ噂話してんじゃねえよ。ピィピィとうるせえんだよ」


焚で予想以上のどす黒い声が出る。皆その言葉にビビり散らかして「…ご、ごめん」って皆小さな声で謝った後集まっていた生徒は蜘蛛の子のように散り自分の席に戻り教科書の用意をしてますよみたいなポーズをして焚の怒りから逃れようとする。

焚はそれを見て呆れた気持ちが余計怒りを加速させてあからさまに怒っているという態度で大きな音を立てながら椅子に座る。すると周りが小さな声で「確かにあいつらも言葉悪かったけど態度悪りぃ」や「こわ〜。やっぱり焚さんに近づかなくて正解だったわ」などと懲りずに噂をしている。

でも焚は自分自身の噂に対しては何も感情が湧いてこなかった。あれだけあからさまに聞こえるように悪口を言われてるのにウィリアム先生の悪口の方が数倍いや比べるほどにないほど焚にも不思議なことに怒りが湧いたのだ。

焚はウィリアム先生が生きてた頃は何度も話しかけてくるウザい先生なんて思っていたはずなのに。

心の奥底ではもしかしたら焚も先生を好ましいと思っていたのかもしれない。

それが事実味させる様にウィリアム先生がいなくなってから授業が前よりもつまらないと感じる焚がいるのだ。

だけどそれに気づかない焚はただただ何故こんなにも怒りが湧いてくるのか疑問に感じながら残りの授業をふて寝することで怒りを収めようとするのだった。

他人に興味を示さなかった焚がこんなにも他人に感情が振り回されているということは焚が自身の感情を理解する日は近いのかもしれない。

そんな昼の話だった。

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