第8話
朝になった。でもやっぱり焚は昨日の言葉への返事は分からなかった。ふざけてんじゃねえと断れば良かったのにあの真剣な瞳を見ていると全て冗談にして断るのは駄目なんだと思い、焚はちゃんと真剣に返事について考えたのだ。
でも真群の言った通りいくら考えても答えは出なかったから、だから困ったように朝からずっと頭悩ませている。
悩みすぎて頭痛がしてくるぐらいだ。
あんまり寝れなかったし頭痛はするし散々な一日の始まりだがそろそろ学園に行く準備をしなければいけないから布団から出る。
そう言えば起きた後、こんなに布団でぼんやりした時間を過ごすのは今の焚(おれ)はしたこと無かったな、なんて思いながら「これは無駄な時間だったか?」なんてまた悩みの種が増えてしまう。
決してはこれは無駄な時間じゃないのだが今の焚になってぼんやりしながら長時間考えるなんてこと暇で仕方ない授業中以外したことない訳で今の自分の状況に困惑してしまうのだ。
こんなんで完璧と名乗れるのか、完璧だからこそ今の焚が存在しているのにそれが揺らいでいくのをここ最近ずっと感じていて困惑した気持ちになる。
完璧でいないといけないという強迫観念が焚を追い詰めているというより新しい情報や感情をどう今の焚に馴染ませればいいのか分からなくて困るのだ。
焚は今の自身の感情すら理解できない。
感じるのも薄い状態、そこにいきなり愛だの恋だの感情を貰う為の受け取り皿が全く完成していないのだ。真群の真っ直ぐとした感情は溢れて焚の心を無駄に揺らがせるだけで終わらせてしまう。
だから真群は返事は今いらないと言ったのだろう。焚が感情を理解できないのを見越して。
でも焚はこのまま返事を引き伸ばして自分がどうなるか分からない状態がとても、とても怖かった。
だって自分が本当に真群が嫌いでも好きでも結局今の自分が変わってしまう気がして、そして変わった自分は昔の焚(わたし)みたいに生きるのが上手くない人間になってしまったら一度完璧を知ってしまった焚はきっとそんな自分が許せないし今度こそ本当に壊れてしまうのが見えていて。微かな恐怖でも狭い心だからその感情に支配されるのだ。
「…今は忘れるか」
またモダモダと考え込んでしまったと思い焚はどうせ真群はまだ返事はいらないと言ってるのだから今は一旦忘れることを決意する。
忘れると言っても頭の片隅に必死に追いやるだけだから心にはずっと残っているのだが。
そうして洗面台に行きいつも通り朝の用意をする。今日も両親はもう家にいない。焚が起きた時間にはいたが布団で考え込んでるうちに何処かへと出かけたようだ。
いつも居ないから、もう焚は一人暮らしをしてる気分でこの家に住んでいる。
でも一人で生きることを志にするのであればいずれ学園を卒業する頃には家を出て、本当の一人暮らしをするつもりである。
まだ一年生だからと言って焚が将来を考えていないわけがない、ちゃんと学園を卒業したら就職して働くことを視野に入れてる。大学に行くつもりはない。
ふと人類シュウマツクラブの皆は将来どうするのかと考えた。烏真は確か死ぬ為にあの部活を作ったから将来のことは考えていないかもしれない。立橋も喧嘩以外といえば烏真の世話をしている所しか見たことなかったから烏真が死んだら生きているのか分からない。
なら真群は何故、人類シュウマツクラブという部活に入っているのか疑問に思った。将来何をしたいかも聞いたことがない。もしかしたら真群も死にたいのかもしれない。そう考えると何故焚なんかに告白してきたのか全く分からなかった。
心中でもしたいのか、と考えたところで頭がズキズキ痛み始めて、また忘れると思ったところなのに考えてしまったと思い必死に思考を端に追いやる。
でも真群の将来の事を考えると自然と学園を卒業した後、あいつはここ最近みたいな感じに付きまとうことは出来ないし、いつのまにか離れていくのが普通ではないかと考えるとやはり断るのが一番なんじゃないかと思う。
それに真群が死にたいと考えていたとしても焚には共に死ぬことは選べない。
結局今の焚は真群の為になる事は何にもできないのだ。
そう思うと根本的に何故真群が焚に惚れる要素があったのかが謎になるのだ。確か人類シュウマツクラブに連れて行かれた時、既に烏真達が真群が自分を好ましく思っているみたいな発言していた事は覚えている。
ならばそれ以前に惚れるような要因があるはずなのだが、あまり思い当たらない。
唯一あるとすれば最初の会話の時、焚と同じ自分殺しの罪を背負っている、自分達は同類だって言った、あの言葉だけである。
真群は自分が同類だから付き合いたいのだろうか、そんなくだらない理由で、共感をして欲しいという気持ちから自分に告白してきたのだろうか、そんな事を考えると胸が痛む。
ズキズキとカッターナイフで軽く切った後にくる滲むような小さな痛みだけどじわじわとそれが広がっていって泥みたいに胸に溜まっていくの感じる。
この泥みたいなモノの感情の名前が焚に分からない。理解できない。
永遠にずっと同じ問いに辿り着く思考に陥ってしまってる。
どうしようもない焚の思考を止めることは不可能だった。
だから考えながら動くことで学園の時間に遅れないように朝の用意をする。
人は一度考え始めたら納得のいく答えが出るまで考えてしまう生き物だから。
だから忘れるなんてこと完璧な焚でも、人間なのだから出来るはずがなかったのだ。
朝の支度が終わる頃には真群のことで頭がいっぱいいっぱいになってる自分に気づいて嫌気がさしていた。
忘れろ忘れろと何回も念じるほど真群のこと考えているから、もう嫌気も合わせて呆れの感情も湧いてくる始末だ。
それでもしっかりと朝の用意をする為に身体は動いていて、いつも通りいつもの時間に朝の支度が終わる。
ちなみに今日の焚の朝ごはんは卵焼きと白ごはん、そして味噌汁だ。
健康を意識して作ったが、作ってる中でも考え事していたから少し味噌汁がしょっぱくなっているが焚はそれに気づかずに全部食べていた。
やはり考え事しながら何かをするといつも完璧にこなせるものもこなせなくなるのが人間という者のようだ。
完璧主義の焚がそれも気づかないほど参ってるのも珍しいのだが。
そうこうしてるうちに焚にとって珍しく完璧じゃない朝の支度が終わる。
いつもの登校時間も少し過ぎて焚は玄関で靴を履く。
「今日もあいついるのかな」
告白した、次の日にも真群が迎えにくるのか疑問を呟く。まぁ外に出れば分かることかと思い緊張している手を見ながら焚は玄関を開ける。
「おはよ焚ちゃん。今日も良い朝だね」
「…嘘つけ。天気がくもりだからイマイチ元気がない癖に」
焚が外に出ると真群はいつも通りの調子で玄関に待ち構えていて、話しかけてくる。だから適当な事を抜かした真群に刺々しい言葉をいつも通り返す。そうして焚の内心もいつも通りの冷静な思考に戻る。
「あははバレた?でも焚ちゃんに会える日は曇りでもプラスだよ」
何て軽々しく好意を伝えてくるから呆れた焚は無視して学園まで歩き始める。すると真群はそんな焚の隣に来て軽い話題を振りながら歩く。
「今日は焚ちゃんの放課後の面談の為に朝に部室に寄るね」
「ふーん分かった」
その話題の中でも重要な部分だけ返事を返しながら歩き続ける。いつもの朝だ。
「あ、焚ちゃん昨日の告白は一年後ぐらいでいいからね」
だったのに真群のたった一言でまた焚の思考の波が来る。焚は驚いた様な顔をして真群を見た後、ため息をつく。
「お前、本当に俺に告白してたんだな。いつもの冗談だと思った」
嘘だ。あの真剣な顔は今でも新鮮に思い出せるだから、あれは嘘でも冗談でもない事は分かりきっている。
「酷いなぁ。嘘じゃないよ。焚ちゃん困らせちゃうほどに」
「お前…困らせたって理解してるのか。なら今断っていいか?」
真群は焚が困ってる事を理解していた、昨日も困るだろうけどと言っていたほど。だから焚は仕返しに断ってやろうか?とまだ答えが出てない状態なのに言ってやった。
「それは俺が困るよ!あ、でも一度や二度、断れた程度じゃ諦めないからね俺は!」
「お前は俺を困らせたいのかよ」
そう自信満々に言う真群に揶揄う様に焚はまた彼が困りそうな言葉を言う。すると真群は困った様にへにゃっと眉を下げた笑顔見せる。
「うんごめんね。何回でも困らすよ」
それでも真群は曲げない強い意思を持っているようだ。この意地の硬さは何処から来てるのだろうかと疑問に思った、焚はついポツリと言葉こぼす。
「何でお前は俺のことなんか好きなんだ」
溢れた言葉は完璧主義の焚らしくない。"俺なんか"という自分を下げる様な、自分の主義に反した言葉だった。
「焚ちゃんは優しくて可愛くて。そして俺を救ってくれたから」
そして真群から返事は焚には全く理解できなかった。
いつ真群に優しくしたか。
いつ真群が可愛いと思うような行動をしたか。
いつ真群を救ったのか。
覚えが全くないのだ。
反対のことなら覚えがある。
焚は真群に冷たい言葉を吐いた。
焚は真群に世間一般的な女らしくないと言われるような、可愛くない行動をとった。
焚は真群を困らせた。
そう何度も焚は真群にキツイ言葉や行動を投げかけた。
だから何故救われたなんて言葉を使うのか心底理解できないのだ。
「いつ俺がお前を救ったんだよ」
「…覚えてない?ずっと昔のこと」
救った覚えがないから焚は聞くことを選択したがそれを後悔する。真群は縋るような声で記憶にないかと問うてきたのだ。ならば今の焚の記憶にないということはこの男はあろうことか焚が嫌う昔の焚(わたし)に救われたと今頃言うのだから怒りの感情が湧き上がってくる。それはもう止められはしなかった。
「今頃、昔の焚(わたし)を殺した俺(今の焚)に!好きな人の命を奪った張本人に!殺人鬼に告白なんかするなよ!ふざけるな。ふざけんじゃねえ!そんなのって報われないだろ…昔の焚(わたし)が。今更故人に重ねられたって困るんだよ俺だって。せっかく完璧になったのに!」
そう感情のままに喋る。
だって最初に昔の焚(わたし)を殺したのは焚だって言ったのは真群なのに
だって焚は完璧な人間だからそれを肯定してくれてるんだと思ったのに
だって焚は期待していたのに、昔の焚(わたし)が夢見た人生が歩ませてくれることを
やっと昔の焚(わたし)に償えると思ったのに
裏切られたその感情が焚を支配して胸が痛くて仕方ない。今度はカッターナイフで擦ったような痛さの比じゃない。ナイフを胸に突き刺したような痛みが広がっていく。血なんて流れてないのに頬に血がつたっている感覚がする。ぼたぼたと血が流れ落ちたような感覚がして頬を手で擦るが、そこには血はおろか涙すら流れていなかった。
__当たり前だ今自分は怒っているのだから。
そう気づいた時にはやっと冷静になろうと、こんなことぐらいで怒ってどうなる、罪など元から完璧になることでしか償えないのだから、こんな他人に焚が振り回されてる暇も期待する暇もないのだと考える。
そう考えてやっと俯いていた顔を上げるとそこには悲しそうな顔をした真群がいた。
「ごめんね。困るよね、怒るよね。でも俺はキッカケがどうであれ、昔の焚ちゃんも今の焚ちゃんも全てを含めて好きだからそれは間違いないからだから…」
「うるさいッ!」
焚はもう真群の言葉なんか聞きたくなかった。だってこれ以上今の焚を崩したくはなかったから前の焚の為にも。
だから真群の言葉を遮って叫び、走って真群から逃げる事を焚は選択した。
その選択を後悔することになるなんて知らずに焚はひたすら逃げるように学園まで走り続けた。
焚が走り疲れて学園に着く頃には後ろに真群の姿は無かった。
真群は追いかけることを諦めてしまったのだ。諦めたと言うより今は追いかけても話を聞いてくれないだろうと理解したからやめたのだが、それを知らない上に感情が昂ってる焚は諦めたと思うのだ。
そして焚は部室には寄らずに真っ直ぐと自分の教室に歩く。部室に行ったらいずれ真群がやって来てしまう。今は会いたくない気持ちから焚は部室に行くことをやめたがでも、それすら認めたくないから一人でも今日の面談で異常者の話は解決出来るから、部室には明日寄ればいいと自分に言い聞かせて教室まで歩くのだ。
「あれ焚。今日はちょっと早いね…って大丈夫?」
息切れしたまま教室に入ると掃除をしているウィリアム先生が心配そうに焚を見ていた。持っていた箒を放り投げて焚に駆け寄ってくるレベルにはウィリアムは心配している。
「あんた、は何で俺のこと妹みたいだって思うの?俺が、変わっているから…?」
今の焚は正気ではなかったのだろう弱々しい口調でそうウィリアム先生に問う。
するとウィリアムはあからさまに悩むように手を顎に当てたポーズをしてニカっと笑う。
「焚は確かに変わってるな。無駄に完璧主義だし人とは関わらないようにしてるし先生にとっては不思議で仕方ない!でも先生もな昔は完璧主義で人と関わるのを拒否してたんだ。でも弟のおかげで変わった。俺は俺が夢見てた人生を歩めるようになった。焚もそうなんじゃないか?焚は焚が望んだ姿になったように見える。だから俺と似ているから妹のように思うんだろうな。あ、ちなみに焚は俺の弟とは全く似てないから被せてみてるとかはしてないよ」
そう言ってウィリアム先生は少し恥ずかしそうに頰をかく。その言葉を聞いて焚の顔が上がった。
__そうだこいつは俺しかしらないんだ。
そう考えたら気が楽になった。
「夢見てた人生…俺が望んだ姿…」
「そうそう。今の焚を見てて楽しそうだって思ったんだ。俺みたいに自分の人生を歩んでる途中みたいで」
完璧な焚を肯定されてやっといつも通りの呼吸ができる。今まで息が詰まっていた気分だった。まるで深海にいるような感覚がずっと焚を襲っていたが段々とウィリアム先生の言葉を聞いて"いつも通り"を取り戻していく。
「俺は一人で何でも出来る人間になりたい。それは間違いか?」
「人生に間違いも正しいもないよ。自分の人生は自分で選ぶんだ。それが一番自分の為になる。知ってるか焚。人という漢字は二人いて支え合うもので出来てるけど一番って漢字は一つしかないんだ、一つだけのものなんだ。結局人は何かしらの一番を望む。ならば一つで生きるのも一つの人生だ。先生はな今の焚しか知らないけど焚が頑張ってることは知ってるからお前が報われる事を祈るよ」
正しいも間違いもないそれがウィリアム先生の答えだった。この時だけはウィリアム先生の先生らしさに焚は感謝した。いつもうざったいと思っている教師の言葉がこんなにも焚を冷静な焚に戻してくれる。
「俺は完璧を貫く。それがきっと今の焚(おれ)の為に繋がるはずだから」
「そっか!じゃあ先生いっぱい応援してるな。焚の邪魔にならない程度に。さて掃除は終わったし焚も疲れてるだろうし教室で休んでなよ。俺は職員室にいるからさ。当分は人が来ないだろうから久しぶりの教室の貸し切り楽しめよ〜!」
「HRまで授業に集中できるように睡眠をとるから誰がいようと関係ねえよ」
今まで揺らいでいたのが嘘のように今の焚は落ち着いている。それを見て安心したのかウィリアム先生は笑いながら箒を持った手で手を振るという何とも教師にあるまじき危険行為をしながら職員室へと帰っていく。今からテストの採点などしないといけないから心なしか早足で。
そんなウィリアム先生を見ていつも通りの無表情に戻れた焚はいつも通りの先生に対しても容赦ないツンケンドンした態度をとって先生の背中が見えなくなるまで突っ立っていたが見えなくなった後は今日はあまりにも早い時間に起きすぎたことを考えて別に眠たくはないのだが健康の為にも自分の机に突っ伏して仮眠をとる体勢になる。
そしてふと本当に先生が異常者だった場合一度殺さなきゃいけないのかと考える。しかしもういつも通りの焚なのだからそれも完璧にして見せて先生を元の先生に戻してあげることが出来ると逆にそう考えると胸が満たされる気がした。今の焚が人を救うことが出来るのだ、それは完璧を通り越して人間として何も欠けていないまるで聖人に近い状態になれるんじゃないかと考える。
ウィリアム先生は元から良い人間だからきっとこの事件も簡単に終わるのだろう、そんな楽観的な思考の流れに流されながらゆっくりと意識を闇に沈ませていく。
焚は腕で完璧に突っ伏した顔を隠した猫背の状態で眠りに落ちたのであった。
__夢の中
真っ黒な空間で焚は白髪の少年を見ている。
ただただ見ているだけだ。
思考はぼんやりしていて身体は燃えるように熱い。
「先輩、どうか俺のこと忘れてもいい。だけど、だけど死ぬのだけはやめてください。全てを捨てるのなら俺も連れて行って、謝らないで俺は先輩となら何処へとも行けます。だから行かないで、消えないで、お願いします先輩。先輩が先輩だけが大事なんです。先輩だけが俺も分からない感情を大事にしてくれるんです。先輩…せんぱい…どうか幸せになってください」
私の手を掴んでる。
祈るように掴んでる。
まこくんが何を言ってるのかは聞こえるけど理解しようとする頭が動かない
あぁ熱い。
熱いただただ熱くて痛い
_____もこんな気持ちだったのだろうか?
なら怒るのも当たり前だ
何私は救った気でいたんだろうか
私は何も救えない何も出来ない欠陥人間
それがわた__し
でもそんな私に
生きる意味が__
ハッと焚はガバりと勢いよく顔上げて目覚める。嫌な夢を見ていたようで汗がびっしょりで寒気がして手が震えてる。でも夢の内容は全く覚えてない。ただ恐怖だけと寒気だけは残っている。
焚が起きた頃には朝のHRが終わって皆一限目の準備をしている。
こんな時間まで寝るつもりなかったのに、なんて思いながら寝てしまったのは仕方ないから汗臭くさくなる前に消臭スプレーをかけて焚も一限の準備をする。
一限は国語の時間で丁度ウィリアム先生の担当で好都合だなと思いながら教科書やノートをロッカーから取り出す。
「今日は教科書とノートいらないよ〜。スペシャル授業デーだよ」
すると朝のHRが終わったから一旦職員室に戻っていたと思ったウィリアム先生が忘れてたと言わんばかりに慌てて教室にひょっこり顔を出してそう言う。その手には作文用紙らしきものが持っていたから何か書かされるんだと察したら生徒達がウゲ〜みたいな声を出している。
「何だよ。作文は嫌〜?小学生の頃の気分に戻って貰おうとせっかく企画したのに。そんな声出さないでよ〜」
「ウィリアム先生の事だから歴史についてとか書かされるんでしょ?」
焚はロッカーから筆箱だけ出して生徒と先生の会話を聞きながら席に戻る。焚的には作文はアリかナシか聞かれると無い。だって作文って言うのは大体自分の感想をつけて書かないといけない、自分の感情が気薄な焚にとっては感想なんて凄いですねとか簡単な言葉しか浮かんでこない。でもこれも勉強の一種と言われれば完璧にこなす以外焚に選択肢はない。
「いや違うぞ。今回のテーマは"人生"だよ!
ある意味人生とは自身の歴史であり現代的な言葉で自分の根本的な芯が何か考えて書いてみて。もちろん難しかったら詩で表現してもいいよ。好きな方を選んで」
よりよって焚の苦手というか書きにくいお題を出してきたウィリアム先生にイラッとくるが先生は先生できちんと考えた結果生徒に人生を見直す時間が必要だと判断した結果のお題である。こればっかりは仕方ない事だろうと割り切るしかない。
「先生達のスペシャル授業デー提出して良い文が書けてた子の奴は廊下に貼るらしいからそこら辺考慮しながら書きなよ。ちなみに全学年、全員が書いてるからその中から選ばれるの凄いことだから。ちょっと頑張ってみよ」
「えぇーじゃあ先生達も書いてよ」
全校生徒が書くイベントなど去年のこの学園には無かった。しかしウィリアム先生が発案してそれに乗っかった先生達が多かったのが幸いとして、いや焚にとっては災いとして今年から伝統行事になるだろう。焚はこれが終わってもあと二回は作文を書かないといけないのかとゲンナリした。そんな中ウィリアム先生と生徒は話していた。
「じゃあ俺も書こうかなー!書くからには負けないぞ!」
「まじで書くじゃん!先生ノリが良い」
生徒一人が言った軽口を真面目に受け取ったウィリアム先生は教壇で皆と同じく作文用紙に文を書いていく。すると先生が真剣に書いて黙り始めたからか生徒達も静かになって皆書き始めた。
焚以外は。
焚はもう最初の一文で何を書こうかウンウン悩んでいる。
焚が授業でこんなに困ることは滅多にない。そもそもプライベートでも真群さえ居なかったらあんなに心揺らされることなどないはずなのだ。
悩んで、悩みまくった結果最初の一文は「完璧から始まった人生」なんて小学生の自由研究並みに文章力がない入りになってしまったがそれ以外は思いつかないから諦めて次の文章を書き始める。
『完璧から始まった人生。
私は欠陥だらけの身体、心の状態で産まれた。
色んなこと失敗して色んなことを間違い続けた日々を中学生時代まで送っていた。
でもそれは人間だから神が与えた試練だと思ってやってきました。
そんな中自分に努力という完璧を司る才能が手に入るのです。
それを手に入れる為には多くのものを捨てました。大切だったもの、嫌いだったもの、とにかく沢山失ったのです。
しかしその代わりに自分の人生が始める為の才能を貰ったのです。
きっと試練を乗り越えた人間への報酬みたいなものだったでしょう。
私の完璧は人から見たら異質なものかもしれない、独りよがりと言われれるものかもしれない。
しかし私は私が欲しかったものを手に入れたのだからこれを芯にしたって誰にも否定されてたまるものかと思うのです。
だから私は私の為にも完璧を目指すだけの人生を歩みます』
みたいな文章を少し言葉を言い換えたり長くなるように調整して焚は授業が終わるまで少し時間があく程度作文を書き終えた。
その達成感は凄かった、自身が苦手なものをやり遂げた時は完璧に凄く近づいた気分になれるのだ。
だから焚は作文を提出してやっと肩の荷が降りたとスッキリした気分で背伸びしながら授業の終わりを待つ。
すると先生も作文を書き終わったようで顔上げて皆の様子を見ていた。そして焚と目が合うとニカッと笑って手を振るもんだから焚は睨み返してしまった。
今のは睨む必要がなかったなと反省しながら焚は余った時間に自習をする。
「お、焚、偉いじゃん。でもあんまり気を張り続けるなよリラックスしときなリラックス」
そんな焚を見て心配になったのか近くまで寄ってきて小声でそういうもんだから仕方なく焚は自習をやめて適当に窓の方を向く。
「暇なんだけど」
「もうちょいでチャイムなるからそれまで我慢な」
そう一言二言小声で会話してるうちに周りの生徒達も作文を書き終わったのか皆暇そうに欠伸したり落書きしたりする者達が現れる。
それを見かねたウィリアム先生が教壇に戻り喋り始める。
「今日人生について作文を書いてもらったが来年は将来の夢とか書いちゃうのもいいな。何歳になっても夢を持つことは大事だからな。だから今回も人生を見直す機会として皆の良い機会になることを祈るよ。人生まだ短いけど意外に見直したら色んなことがあったでしょ?人の人生は5歳から25歳までが一番濃ゆくて楽しい日々を送ってるって言われてるからな、きっと色んな道があったと思う。そしてこれからも色んな道がある。だからこまめに過去を振り返りながら自分が志した芯となる感情を大事にしながら自由を謳歌出来る様にがんばれ」
そう生徒に語りかけていく。もちろんまだ終わってない生徒には「焦らなくていいから先生の話は聞き流してくれ」と言ってから話し始めたのだ。先生の話を聞いていた焚はふと自分は自由なのか少し悩んだ。あまりにも完璧にこだわりすぎた焚の道は一本しかない選ぶ余裕など焚には無いからだ。
でもこれが焚が望んだこと、だからある意味自由から掴み取った変えられないものそう認識するしかないのだ。
自由とは何か、その答えは永遠に焚の中には出ない気がする。
そうこう考えてるうちにウィリアム先生の話はくだらない雑談に変わっていき最終的には終わりのチャイムがなるまで関西人の面白さを語り尽くしていた。
そうして一限目が終わり二限三限もいつも通りの授業が進んでいく。
四限目、美術の授業を選択した為教室を移動する必要があった。だから焚は教科書やノートを持って美術室まで早足で歩く。
「待ちなよ」
すると途中ですれ違った烏真に後ろから腕を掴まれて焚は止まることになる。いつもならここで口喧嘩を始めるのだが朝部室に行く予定だったのをすっぽかしたのを思い出して焚はバツが悪そうに目線を逸らす。
「へぇその顔、君でも罪悪感っていうものがあったんだね。意外だよ。君なら図太く自分は悪くないと言わんばかりの偉そうな態度を貫くかと思ったけど」
「別に…そんな反省してるわけじゃない。ただ一度行くと言ったのに行かなかったのは悪いと思ってる。でも今回の事は一人で解決出来ると判断した結果だから」
ため息を吐いて焚を煽るように刺々しい言葉を吐く烏真に反省はしてないし後悔もしてないけど悪いとは思ってるとキチンと自分の気持ちを伝えた。焚にとってこの言い方が謝罪となるからそれを理解してる烏真はそれを聞いて調子が狂うよと言わんばかりに訝しげな目で見る。
「ふぅん、一人で解決できるから、ね。真群と喧嘩したから顔を合わせにくくなって逃げたの間違いじゃない?」
でも烏真はそんな謝罪なんてする珍しい焚にもお構いなしに煽り続ける。そんな言葉を聞いて焚は驚いたような顔をした後言葉を詰まらせる。
「真群が一人で落ち込みながら部室にやってきたから喧嘩でもしたんじゃないかと思ったけど図星だったみたいだね。自分の気持ちすら分からないデクの棒の焚ちゃんは唯一怒りの感情だけは豊富だもんね。怒ってばっかじゃきっとこの先やっていけないよ」
「…うるさい。何も分かってないくせに口出ししてくんなよ。このお節介老害野郎。デクの棒はどっちか今日で分からせてやるよ」
売り言葉に買い言葉。話してる内容は物騒だがいつもの二人の口喧嘩の雰囲気に戻ってくる。そして自分の感情が気薄なことを言い当てられてカッとなった焚は余計後戻り出来ないように今日事件を終わらせてやると自分を追い詰めていく。
「なら頑張ってみなよ。どうせ一人じゃどうしようもなくなると思うよ。さっさと真群と仲直りすることをオススメしとくよ」
「真群とはもう会わない。だから仲直りすることはねえし。俺は一人でも全てをやってみせる。いらねえ世話を焼かれる覚えはない。解決したら報告だけしてやるよ。じゃあなうすのろ野郎」
そう罵り合って焚はさっさと逃げるように烏真から離れて美術室に行く為に振り返る。すると後ろから「うすのろはお前だっつの」何て言葉が聞こえてくるから一瞬だけ顔だけ振り向いて舌を出して挑発してから焚は美術室に急ぐのであった。
焚には真群と仲直りする気などチリもなかった。そもそも焚が一方的怒って怒鳴っただけであるから真群と喧嘩をしたと言っていいのか分からないレベルだ。
でも焚は今真群に謝られてもそれを受け入れるつもりはないし許すとか許さないとかそういう問題じゃないから、もう会いたくないが正直なところの気持ちだ。
だから烏真にああ言われた程度で変わる気持ちは持ち合わせていない。
そんなことを考えながら四限目を終わらせる。焚は四限目が終わったらこっそり持ってきていたお弁当箱を持ってそのまま焼却炉がある裏庭へと向かった。
もちろんこれも真群に出会わない為にしている。万が一教室で食べてやってきたら今度こそ怒りから殴ってしまいそうなのを考えたら一人で昼休みを過ごすのが一番だ。
そうして裏庭の茂みに座ってお弁当をモソモソと食べる。
一人で食べる時間は落ち着けて嫌いじゃない、いやむしろ好きだと思う。
わざわざ歩く時間を考えると無駄な時間を食ってしまうと今まで考えていたがこんな落ち着いた時間を過ごせるならば歩く時間ぐらい作っても良いなと考えるほどだ。
別に教室で食べるのも真群が来るまでは落ち着く時間に属するものだったから気にしなかったのだが真群が来るようになってから騒がしいし視線が痛いしで落ち着かない日が続いていた。
でもそんな時間を嫌っていた訳じゃない、好きでもなかったが。
そうこう考えてるうちに弁当は食べ終わって腹も満たされた。
やはり焚は一人が一番かもしれない、そう思った時背中を預けていた壁から話し声が聞こえてきた。
「真群はバカだねぇ。最初から焚くんの全てを好きって言って誤魔化せばよかったのに」
「それは違うだろ」
立橋と真群の喋り声が聞こえてきて焚は咄嗟に屈んで窓からは見えないようにする。盗み聞きをするつもりはなくただ単に会いたくなかったら、そんな理由で。
「俺が前の焚ちゃんに救われたのは事実なんだから、それは言っとかないと。いつかはバレるんだろうし」
「まぁそうなんだろうけど。今言うことじゃなかったと思うね。俺は」
焚とした朝の会話について二人は話しているようだった。真群が言ったことにそれはないんじゃない?って非難してる立橋の会話は段々と今日の面談はどうするの?って話になっていく。
「今日は近付くのはやめとくよ。焚ちゃんなら大丈夫だろうし」
「ふーん本当にそれでいいの?俺だったら嫌だなぁ」
そう問われた真群は言葉が詰まったような悩んだ後困ったように笑う。真群の悪い癖だ困ったらすぐに笑って誤魔化してしまう。
本音を言えば真群は焚の側にいたいと考えてるが今無理に行ったって逆効果なのが目に見えていた。
だからせめて今日一日は近づこうのやめとこうと思うという意思を立橋に伝えていた。
だけど立橋にはその感情が理解できなかった。心配なら好きならば、側にいたいのであれば我慢なんかせずに自分がしたいことを貫けばいいのにと考える。
だって立橋は我慢などほとんどしたことないし、したくない。自由という言葉こそ立橋の生き方だ。
「兄弟は本当にはっきりと言うね。だけどこれでいいんだ。今焚ちゃんに近づいたって焚ちゃんは理解できない感情で苦しむだけだから」
「あはは兄弟は優柔不断らしいからなぁ。ちゃんと自分が欲しいものを逃すような迷いはしないようにね」
そんな会話を聞いてた焚は今日は一日は近づいてこないことにホッとした反面真群の知ったかぶりな言葉に怒りを覚える。確かに焚は自分の感情に疎いことは理解している、でもそれで苦しむほど弱くはない。
「あ、そろそろ烏真の所行きたいからじゃあね兄弟」
「分かったバイバイ兄弟」
焚がそんなことを考えてるうちに会話が終わったようで立橋がそう言って真群からの返事を聞いた後ぱたぱたと走り去っていく足音が一つ聞こえてくる。
真群はまだこの廊下にいるようで焚は立ち上がれないまま、ただ去っていくのをジッと待っている。
「…今度は間違えない」
そんな静寂な時間が少したったあと真群はぽつりと小さな声で呟いて去っていった。
それを聞いた焚はなんとも言えない気持ちになった。それどっちの焚に対して言ってるのか分からないからだ。
もしかしたら焚に関係なことだったのかもしれないが話の流れ的に自分に関係することだろうと思う。
「…もう間違えたんじゃねえか」
焚はそう独り言を呟いて立ち上がる。いつまでも裏庭にいる意味はない。だって今日は真群はやってこないのだから。教室で静かに本でも読もうと考え教室に帰るのであった。
そうして教室に帰った後も本当に真群は来なくて静かな昼休みが過ぎていった。
そして午後の授業も問題なく過ぎていき放課後になった。面談の準備をしながら焚は今日で異常化の事件を終わらせると決意しながら教室に二人だけ残ったウィリアム先生が用意した二つの机の片方の椅子に座る。
「先生、あんた最近…」
「ちょちょ待って焚。先生に興味を持つのは嬉しいけど今日は先に先生の質問に付き合ってくれ。この面談の内容一応まとめて提出しないといけないからさ」
先生の仕事もあると言われれば焚も引き下がるしかない。一応異常者かもしれないとはいえ普通に生きている人間だ。仕事はしっかりとこなさないといけないだろう。だから焚はその言葉に承諾して面談が始まる。
「焚最近家ではどうだ?」
「特に何も変わらない」
家のことを前にも聞かれたが特に家族とは仲良くも悪くもないと曖昧に答えておいたのを覚えている。
「ご両親とは今もあんまり喋んない感じ?誰か心を許せる人はいる?」
「親とは喋る必要がないから喋ってないだけだ。心許すとかそういうのも必要ない。朝に言ったろ俺は一人で生きてくって」
そう言うとウィリアム先生は困ったように笑い「焚は完璧だからそれも出来そうなのが凄いね」と言って焚を肯定してくれるのだ。
そう言う所に安心ができる。ウィリアム先生は良くも悪くも人を否定するようなことは言わないから。
「じゃあお兄ちゃんの俺にも心許せなさそう?」
「は?」
焚はあまりの意味のわからなさについ教師にも強めの声を出してしまう。多分この前妹の様に思っているという発言からきた言葉なんだろうけど焚には理解できなくて本当に変な奴を見る目で見ている。
「あははごめんて。先生、焚のこと妹の様に思ってるって言ったろ?だから焚を見てると弟の様に心開いてくれないかなって、つい思っちゃうんだ。本当にごめんね?」
「あんたの妹になるつもりはない。俺の兄弟は姉さんだけだ」
そう言うとウィリアム先生は驚いた様な顔して「もう兄弟がいたんだ」なんて呟きながら少し嬉しそうな顔をする。
「いいね。確かに兄弟はただ一人いたらいいよね。俺の弟もさ、俺のこと大好きでさ。いつも後ろに着いてきてた。赤い綺麗な髪の三つ編みがふらふら揺れて尻尾みたいになってるの見るのが楽しかったなぁ」
「…弟は先生と同じ髪色で髪型してたのか」
「え?」というウィリアム先生の言葉に数秒教室に静寂が訪れる。だってウィリアム先生の髪の色も髪型もさっき言った弟の特徴と全く同じだから焚は同じ髪型をしているのかと思ったがどうやら違う様だ。
「俺は…青い髪で短髪だよ?」
そうウィリアム先生が言った瞬間サイレンのように歌が鳴り響き始める。そして焚は身構える。どう見たってウィリアム先生の髪色は赤だし、髪の毛も長いのを三つ編みにしている。どう見たって今のウィリアム先生は"異常だ"。
「俺は…俺、オレ…だよ?違う兄さんはもっとかっこいい喋り方で、僕は?僕じゃない、違う俺は、俺はウィリアム…ウィリアム・キャンベル違う」
「先生…?」
ブツブツと違うと何度も、何度も、何度も言い聞かせてはまるで自分に暗示をかけているみたいな言葉を吐いている。
「いやお前は誰だ?」
そう焚が問うとウィリアム先生は困惑した様に片腕をガリガリと血が出るレベルで強く掻き始めてまるで何かに乗っ取られてたように目が真っ黒になる。
「俺は…僕は…あぁ。あぁ、焚、焚焚焚焚焚焚」
ウィリアム先生からでる言葉はもうこちらに話しかけてるような言葉じゃない。ただ、ただ狂ったような狂人の言葉しか出てこない。もう終わらせてあげようと隠し持っていたナイフを取り出す。
「ぼくのいもうとみたいにな、ぼくの鏡写の様な同じきょうだい殺し」
ナイフで一思いに刺してやろうと構えた瞬間ウィリアム先生が放った言葉に焚がピタリと止まってしまう。
___同じ兄弟殺し
その言葉は焚の深い深い眠っていた心に突き刺さる様な鈍い痛みを感じさせる。
その間にウィリアム先生は距離を詰めて化け物みたいにデカく爪が鋭く、そして鱗が生えた手をこちらに振りかぶってくる。
「焚ちゃん!」
避けられない、そう焚が思った瞬間。目の前に焚を庇う様な背中が見える。そしてその背中はウィリアム先生によって鋭い爪で切り裂かれて血が飛び散って倒れていく。
焚を庇ったのは真群だった。
焚は遅れた反応を取り戻す為、このまま二人して殺される前にナイフをウィリアム先生の心臓に突き刺す。
そしてウィリアムが倒れた瞬間焚の頭に記憶が流れ込んでくる。
ウィリアム先生、いやラディー・キャンベルが尊敬していた兄を殺すまでの記憶。
ラディーはアメリカの田舎町に産まれた。両親は産まれた時からおらず5歳離れた兄、ウィリアムがずっとラディーの世話をしていてくれたのである。
しかしその村はマフィアが支配している村で普通の人間にとってはとてもじゃないが生きにくい世界だった。
それは兄弟しか身内がいないキャンベル家も同じ、いや普通より酷いレベルで毎日泥水を啜る様な日々を送っていた。
そんな中ウィリアムはラディーを学校に通わせるためにマフィアの下っ端になることを決意した。
そうすることでラディーは学校に通える様になり卒業した後その恩を返す為にジャーナリストになって働く様になった。
そして20歳地獄の様な日が来る。
ウィリアムが仕事で小さな子供を殺してしまったのだ。
その罪悪感からウィリアムは仕事もよく失敗する様になり毎日夢で苦しむほどになった。
そうしてウィリアムはラディーに言うのだ。
「俺を助けてくれラディー」
そう言ってラディーに銃を握らせる兄の想いは殺してくれという意味だった。だからラディーは大切なたった1人の肉親を殺したのであった。これは愛のためだと言い聞かせながら。
そんな記憶が焚に流れ込んできた後ハッと現実に戻ってくると真群がまだ血を流して倒れている。死なないとは分かっているが急いで駆け寄って真群の怪我の様子を見る。
「や、くちゃん。だいじょうぶ?」
「お前が大丈夫じゃねえだろうが!」
こんな大怪我をしてまで真群は焚を心配するのだ。だから焚はつい怒鳴ってしまう。そうしてるうちにも何故か止まらない血を必死に止めようと自身のシャツを破って応急手当てをする。
「どうして血が止まんねえんだ…!」
「焚ちゃん…きみが、あなたが、そのすべてがすき、だよ」
そう言って真群は目を閉じる。まるで死んでしまうかの様に。だから焚はウィリアム先生を刺したナイフを隠すのも忘れて急いで救急車を呼んだ。
その後ウィリアム先生と真群は救急車に連れて行かれてるのを焚はぼんやり見ていることしかできなかった。
「どうして、俺なんかを好きになったんだよ…」
焚も警察に事情聴取だけされて無事家に帰ることも事件を終わらせることも出来たのだが、焚はこんな傲慢で自分勝手だった自分を真群が何故好きになったのかわからなくて、ただ、ただ苦しみだけが残りこの事件は幕を下ろした。
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