第4話
春の草木がそよぐ季節。生暖かなでも、まだ少し冷たさを感じる風の中授業を受けていた。春の風はとても心地よくてまるで布団に寝転んでいる気分になる。
焚はノートは取らない先生の話は聞いてるふりだけそうして窓の外をぼうっと見るのが少し好きだった。
教科書を読めば大体のことは理解して分かってしまう焚にとっては授業は退屈なもので仕方なかった。
しかし子守唄の様な先生の声、春の風を感じながらただ座ってるだけの時間は嫌いではなかった。
前の焚(わたし)ならば教科書を読んでもちんぷんかんな上に先生の話を一生懸命聞こうとした結果うたた寝して怒られて笑われてまた落ち込む日々だっただろうけど今の焚には眠気なんて来ないし一見見ると優等生の部類に入るだろう。
制服は着崩していていつも中にヒートテックを着ているが規定には反してないし誰も文句は言わない。
けど偏差値が高くプライドが高い者が多いこの学校では着崩してる者は珍しく焚達はとても目立っている。
それでも何も言われないのは成績の良さからだろう。
前までは意識していなかったが焚や人類シュウマツクラブのメンバー皆いつもテスト順位の上位に名前がある。一位はいつももちろん焚だがそれに負けずに烏真の名前も二位から四位の間をいつもキープしている。
遠之宮兄弟も必ず15位以内にはいる。
そう考えると鬼とは優秀な者がなるものなのかと焚は考えたがどちらかと言うと問題児がなると言った方が正しそうだと人類シュウマツクラブメンバーのことを思い浮かべてそう思う。
それもこれも人類シュウマツクラブに入ってから数日たった今人類シュウマツクラブのメンバー達の変な噂ばかり流れてくるからだ。
遠之宮 真群は女の子達を操ってこの学園を支配しようとしている腹黒で裏の支配者と呼ばれているとか。
栞廼 烏真は人を騙して遊ぶのが好きで人を奴隷だとしか思っていないだけど力がありすぎて誰も逆らえない学園の表の支配者、学園の女王だとか。
遠之宮 立橋は出会った人全てに喧嘩を売って買わなくて買っても半殺しにされて病院送りされる、その上女王の番犬だから誰も止められはしないとか。
真群は腹黒なのは合ってそうなのと烏真は絶対に悪戯好きだと思っていたが立橋の喧嘩好きは意外だった。
でもそれも真実だった。
人類シュウマツクラブに入って次の日、真群に付き纏われながら学校に登校するとなんと校門に何人もの他校生が倒れているのだ。そしてその中心に立橋が立っていてこちらに気づいたと思うと笑顔で手を振りながら、倒れてる人を踏みこちらに寄ってきた時は流石に焚は「は?何してんだテメェ」なんて言葉が漏れたまぁ立橋の返事は「え?喧嘩だよ楽しいよね人と殴り合うのって」なんて言うからもうドン引いてなんも言葉が出てこなかった焚の代わりにニコニコしながら真群が「今日も派手にやったね」なんて言うもんだから常習犯かと思いながら巻き込まれないうちに教室に行ったのを覚えてる。
しかしあんなに派手にやってなんの処罰がないのが不思議に思うがまぁ烏真がバックにいるからなぁと思うと自然に納得してしまった。
あの後烏真が教師に全力の猫かぶりをして甘ったるい声で何かを話しているのを見たその話していた教師の顔はデレデレだった。流石女王様と呼ばれるだけあると思った、人の使い方に長けている。
ふと焚は人類シュウマツクラブに入ってからの自分の日常が変わった気がした。
というか確信できる。変わったのだ。
毎日のように付き纏う真群にちょっとしたことで喧嘩する?って聞いてくる戦闘狂の立橋、会ったら口喧嘩になるが同レベルの喧嘩の為それなりに関係が続いてる烏真達が焚の日常に嫌でも入ってくるのだ。
でもそんな日常を嫌いだとは思ってはいなかった。うざったらしいとは何回も思ったけど周りに人がいること1人で昔のことを思い出す時間も減った。
きっとこれが正しい普通の人間の過ごし方というものなのだろう。ならばそれを拒否する必要もない、少しなら人と付き合っていく時間も必要だと考えた。
まぁ完璧な人間には不要だと思っているが前の焚(わたし)が望んだ普通の幸せというものを叶えることも悪くはないと思った。
でも人類シュウマツクラブという問題児と深く関わりすぎるのはダメだとは思っている、人と関わりすぎると碌なことにならないのは前と変わっていないだろうから。
そんなことを考えてるうちに焚の耳にキンコンカンコンと聴き慣れた音が聞こえてくる。そしてその音と共に午前の授業の終わる。
「や!焚ちゃんお昼ごはん一緒に食べよ」
その音を聞きながら出していただけの教科書とノートをカバンに片付けていると人類シュウマツクラブに入ってからの日常になった真群の付きまとい、ストーカー一歩前の行動が炸裂されて焚は呆れた顔とこいついつも鈴が鳴ってすぐ来てるが授業はちゃんと受けているのかという疑心の目で見つめる。
「そんな目で見ないでよ。俺がまるでストーカーで授業ほっぽり出してまで君を監視してるんじゃないかって目」
「心読むなや」
監視してるんじゃないかと思っていたことまで読まれていた事実にドン引きする。正直この男、真群が一番分かりにくく読みにくい一緒にいて相性が良くない焚は思うタイプなのだ。この男とバディを組むぐらいなら烏真と一緒にいた方がマシじゃないかと考えたことはあるが烏真には立橋がべったりくっついてつきまとっていてさすが血の繋がった兄弟と思ったレベルである。しかし烏真はそのべったり具合はあまり気にせず奴隷のように立橋を使いながらもフォローもするから息があった2人としか言いようがない。
まぁ焚が烏真とバディ変しない一番の理由はその事を烏真に言おうとしたら立橋に凄まじい殺気をおくられしかも真群にも邪魔されたからである。
焚はイマイチ真群が自分を気に入ってる理由がわかっていない。同族とは言え焚は真群のことを全く理解していないのである。しかもあまりいい対応をした覚えはない。なのにこの男は常にバディという理由からか焚に付きまとい、昼ごはん食べるの学園に行くのも帰るのも常に一緒なのだ。
「見て。またあの子真群先輩といる。付き合ってるのかな」
「え〜。やだなぁ。あの子噂の子でしょ?」
しかもこの真群という男は世間的に言う優男風イケメンといわれるものだから女子達の視線が痛くなる。
焚的には今にも付き合ってないと撤回したいのだが、わざわざそれを言う為だけに他人に話しかけたら、今まで孤高を貫いてきた自分が崩れる気がして出来ないままにしていたら真群は付き合っていると言う噂を否定も肯定もしないままにするから、余計生徒からの噂の的になってうんざりしている。
今まで孤高を貫いて人が話しかけにくい雰囲気を作り上げていた焚だから良かったもののもし他の女子生徒だったらいじめでも起きていたんじゃないかっていうレベルで女子生徒からの目線が痛いのだ。
「お昼ごはん食べないの?あ、もしかして俺のパン一口欲しい?焚ちゃんになら
いいよ」
「いらねぇ。俺は俺の弁当だけで十分だ」
そんなこと知らないような雰囲気でまた女子生徒から目線が痛くなりそうなアーンなんてシチュエーションをしてくるな、とすぐ様断った。女子生徒に見られていなくてもやらないが。
そもそも焚は栄養管理まで完璧なのだ。ご飯の量も副菜、主菜のバリエーションも完璧に管理してる。その上飲み物は裏庭にある自動販売機で買った大きくもなく少なくもない丁度いい量の牛乳を買って飲んでる為、前の焚(わたし)はガリガリだったところ。今の焚は程よく肉がついてるし骨も丈夫だ。
「焚ちゃんのお弁当いつも美味しそうだよね。バランスもいいし可愛いしいつもこんなに作ってくれる両親に感謝だね」
「バランスが完璧に決まってんだろ、俺が作ってるからな。だから親に感謝する気はない」
そう言うと真群の弁当への目線がより一層強くなった気がした。まさかこいつ自分の弁当を狙ってるんじゃないだろうなと焚は訝しみ真群からそっと弁当を守るように食べる。
「凄いね!自分で作ってるんだ。俺そんなに器用じゃないからいつも購買のパンばっかり食べてるからさ焚ちゃんの色鮮やかな弁当すごく美味しそうに見えるよ。いや実際美味しいんだろうな。その卵焼きとか金色みたいにピカピカ光っていて美味しそう」
「やらないからな」
やはり焚の弁当を狙っていたみたいで今にもよだれを垂らしてそうな顔で焚の弁当を見つめる真群に咄嗟に弁当を隠すがそれは逆効果で今度はその顔を焚の方に向けてきてキラキラとした目線でジッと見てくる真群に耐えきれなくなった焚は思わず箸で卵焼きを一切れ掴み真群の口に突っ込む。
「一切れだけだから!精々感謝しろよ。俺の作ったものを食べさせたのなんてお前ぐらいなんだらな」
「むぐっ……」
真群は突然口に卵焼きを入れられ驚きながらも無言でもぐもぐして味わって食べている。焚はこういうところは行儀の良い奴だなと少し好感度上がるがパンの時は口が大きく飲み込むのも早いからすぐ食べ終わるくせに今回の卵焼きはあまりにも味わいながら食べている為思わず不味くて飲み込めないのかとつい心配になってしまう。自分の完璧な卵焼きを美味しくないと言われた日には縁切りを決意すると思うほど自信があったのだ。
「美味しい!この舌に広がる甘さ。やっぱり焚ちゃんの料理は天才だよ!やっぱ将来の夢はシェフとか?」
やっと飲み込んだと思うと褒めの嵐で失いかけていた自信をすぐさま取り戻す。やっぱり自分は前も今も料理だけは美味いのだと焚はふふんと少し嬉しそうに当たり前だと言わんばかりの表情をする。
そして料理人は前の焚(わたし)が目指していたが才能もない上に拒食症になって諦めた苦い記憶があるなとぼんやりと考えながら自分好みに味付けした砂糖入りの卵焼きを一切れ自分の口に入れて、そしてハッとする。
「真群先輩があーんしてもらってる!」
「この前手作りクッキー受け取ってもらえなかったのに」
女子生徒達がこっちを見てざわざわしてるのだ。こちらに対してのひそひそ言ってる声がもろに聞こえて焚は自分が恥ずかしいことをしてしまったことを自覚する。この噂の先輩にアーンなんてことしたら炎上待ったなしだ。そんなこと分かりきっていたのに焚は衝動にまかして自分からアーンしてしまった。
これは明日から女子生徒からいじめが等々始まってしまうんじゃないかとうんざりした気分と自分と真群が付き合っていると言う噂に拍車がかかる未来が焚には見えてもう後悔の嵐の中、気分はどん底だった。
「あれ焚ちゃん顔が赤いよ」
そう言って揶揄うようニコニコ笑いかける真群を見た途端焚は恥ずかしからではなく今度は怒りから顔が赤くなり殴りたくなるのを我慢するように手をぐっと握る。
「うるさい。お前嵌めやがったな」
「え〜なんのこと」
もちろん嵌めるつもりなんてなかっただろう。弁当のおかずを強請ったのは真群だがアーンまでは予想外だったろうし。だが真群はこれきにと全力でこの状況を楽しんでいる為余計焚の怒りに火がつく。
「もう今後一切お前とは昼ごはんを食べない」
まぁそもそも初めから一緒に昼ごはんを食べようなんて塵も思っていなかっただろうが。
勝手に真群が来て勝手に焚の机で食べ始めたから移動するにしてもついてくるのが目に見えたから面倒くさくなって一緒に食べる形になっただけなのだ。
「ごめん、ごめん。焚ちゃんがあまりにも良い表情するからついつい揶揄ちゃった。許して」
「許すか。お前のせいで俺は、ずっと色んな感情に振り回されて頭ん中ごちゃごちゃになってんだよ」
そうここ数日ずっと真群に振り回されているのだ。学園に行くときいつも誰かが話しかけてくることなんて無かったのに真群は律儀に毎日待ち伏せて焚に一番に「おはよう」なんて声をかけるのだ。焚が焚(おれ)になってから事務的な挨拶をする先生以外に焚におはようやおやすみなんて言葉を自らの意思で毎日かかさず言ってくれたのは真群だけなのだ。しかも真群はその言葉にまるで喜びと慈愛の感情を乗せて嬉しそうな顔をして焚に毎日囁く。それだけでも焚の鈍くなった感情は荒らされてばかりなのにこの男はそれを超えて前の焚(わたし)が欲しかったであろう言葉を簡単に言ってくる。
だからムカついた。
だから困惑した。
だから虚しくなった。
前の焚(わたし)は死んだのにとっくの昔に殺されたのにこいつは今更昔の焚(わたし)を救うような行為をする。
だから焚の感情をぐちゃぐちゃになって訳がわからなくなる、自分が保てなくなる。
「お前一々うざいんだよ!その上つきまとってきて気持ち悪い。お前の言葉なんて雑音みたいで煩いから早く俺の前から消えてくれ!」
そんなぐちゃぐちゃになった感情が怖いから怒りの感情だと思い込んでまた真群を突き放すような言葉を言う。
でも裏腹に真群を傷つけるために言った言葉は焚の心にズキッと痛みを感じさせた。
でも焚にはそれは何故なのか、何なのか分からないから言葉を変える気も今更取り消すことも出来なかった。
だから焚はただぐちゃぐちゃになった感情のままにぶつけた言葉をどうすることも出来ない、相手の顔や反応すら見れないまま俯いて動けなくなった。
「こらこら!そこー!何喧嘩してんの?昼ごはん中だぞ」
真群が何か言葉を発そうとしたのかと思えばこの教室の担任の先生、ウィリアム・キャンベルが焚の怒鳴り声に見かねてやって来て注意してきたことにより焚は真群からの返事が来ることがないことにホッと息をついた。
「すみません先生。俺が余計なこと言っちゃたんです」
真群が猫を被ったっぽい甘ったらしい声でそういうが内心は一ミリも反省はしていないんだろうなという気持ちが何となく焚にも伝わってきてこいつ、こういう奴なんだったと思い出し。少し冷静になれる。
「そうだったらいいけど。先生心配だぞ〜!最近焚が仲がいい子が出来て嬉しいからこんなすぐ喧嘩になって縁を切るとかになったら先生悲しむからな!縁を切るかはちゃんとい〜っぱい考えてからするんだぞ。考えた上じゃないとその場の勢いで縁を切ると絶対に後悔するからな」
ウィリアム先生は海外から来た日本国籍を持つ珍しい先生だが日本愛が重すぎてやたらと日本人リスペクトなのか日本人教師によくある自身の感情を混ぜた説教くさい話を聞かされるため生徒からは「見た目だけ外国人」だと密かにバカにされているところがある。
しかしその分共感性が高く感情豊かな生徒のお悩み相談を聞く時は相性抜群でよく生徒から悩み事を持ちかけられるほど信頼力がある先生なのだが偶に、共感性の高さ故に生徒よりも感情が昂って泣きすぎたり怒りすぎたりする所もある為一種の日本の漫画によく出る「古典的すぎる、暑苦しい熱血体育教師」とも言われてる。
まぁウィリアムの担当科目は国語の教師であり古典を得意としているのだがあまりにもその噂が広がり一年の間ではウィリアム先生は体育の先生だと勘違いしたままの人も沢山いる。
「はは先生大丈夫ですよ。焚ちゃんと俺はすっごく仲良しなので」
「はははそうかそうか。それは良い事だよ!このまま大親友にまでなったら先生がお祝いの歌を歌ってやるからな」
「あ、それはいいです」
猫を被りながらだがウィリアム先生の言葉を即座に断る真群にも理由がある。この先生有言実行なのだ。確実に大親友になったと報告すれば大声で歌うのであろう。しかも焚達の名前を混ぜた下手くそなオリジナルソングを。
そうなれば余計皆から噂の的になりしかもその噂に「目立ちたがりな生徒」って尾ひれが着くのは一目瞭然なのだから。
流石にそれは真群にとっても嫌な気分になることなのだろう。
断る速度は何よりも早く何よりも機嫌が悪そうな声だった。
「遠慮するなよー!先生は本当に嬉しいんだ。お前たちがここ数日仲良さげなのはばっちり見ていたからな!」
「…見てんじゃねえよ」
大きな先生の声に対して仲が良く無いわの意味も込めて焚はボソリとそう呟くが先生には聞こえていなかったようでわははと笑ってるが真群には聞こえていたようで焚に共感するようにうんうんうなづいていた。
「…でところで先生内緒にするから教えて欲しいことがあるんだ。焚と遠之宮が付き合ってるって噂本当か?」
そう小声でこそこそ聞いてきたが今まで大声で話していたからあまりその行為は無意味のように思われたが一応この学園は偏差値が高くプライドも高い為、校則では学園内での恋愛行為は禁止となっているのだ。最初は何処の清楚なお嬢様お坊ちゃん学園に来たのかと思ったがこの校則以外に楽で中学までは今の焚になってからは何人か告白してきた者がいてそれを断るたびに悪い噂が増えたのだが今では近寄り難いに合わせてもしバレたら罰があると考えるとデメリットの方が大きいと皆考えたのか焚に告白してこようなんて人、誰1人いなくなったのである。
だから焚はこの校則意外に気に入っている。
「焚ちゃんとはまだ付き合ってませんよ。先生」
焚はまだとはどう言う意味なんだまだとはこれから先も付き合う気は一切ないと言いかけたが面倒くさくなりそうな予感してここは黙った。
「まだぁ?まだかぁ?へへ遠之宮付き合ったらこのウィリアム先生だけにはこっそり教えてね」
だからこれからも一切合切付き合う気はないと焚は叫びたかったがここで先生と真群の間に入って必死に否定したらそれはもう恥ずかしさからの否定なツンデレ女子だと認定されるのは目に見えていたから手を握りしめ必死に黙った。
「はい。先生にだけは教えますね。付き合ったら」
「よっしゃ!3人だけの秘密だね」
真群はニコニコした顔で今後付き合うかのような振る舞いをするしウィリアム先生はニヨニヨした顔で焚を見つめてくるわで我慢の限界が来たようで焚からピキッという音が鳴ったと思えばあからさまに音を立てて席から立ち上がる。
「…俺は…俺たちは付き合う未来はないしこいつと付き合うぐらいならそこらの雑草とキスするぐらいがマジだっ!!!」
焚はそう叫んで2人に対して指を指す。
「お前ら勝手に話を進めるなこの恋愛脳な脳内お花畑野郎共!」
「やーん先生にその口調は泣いちゃうぞ〜焚」
やはりウィリアム先生は恥ずかしさから叫んだツンデレ少女だと受け入れられ焚はやってしまったとどんよりと落ち込む。
感情に身を任せて怒るなんて事これでつい最近のことなら二度目のことだが、焚が怒る時は大体自分自身でしっかりと考えた故に非効率的な考え行動する者にキレるのがいつものことだった為こんなしょうもないことにキレるなんて烏真に煽られた時以来だ。
「まぁまぁ焚ちゃん落ち着いて先生泣いちゃったよ」
そんなことを言ってるがウィリアム先生の泣き方はどう見ても嘘泣きである。そして焚の荒い口調に対してもいつものことで今回は自分がからかいすぎたのが原因だからってあまり気にして無い様子だった。
「泣いてねぇだろ。はぁ…もう静かに昼飯を食わせてくれ」
そう言って焚はハッと周りを見渡す。先ほどからの会話のせいで生徒達の目線や話題が皆こちらの方に向いているのだ。「やっぱりあの2人付き合ってんだ」とか「ウィリアム先生相変わらず茶々入れるの好きだなぁ」とか、テストで一位を取った時とか目立つのはいいのだがこんなことで目立つのは心底嫌で焚は冷静になる為にため息をつき座る。
「あははごめんごめん焚。本当に先生心配になってたんだ。焚ってば自ら1人になろうとしてる所あっただろ?そんな焚が自ら人と関わろうとしてるのが嬉しくてな。いらんお節介を焼いちゃったよ。ほんとごめんな」
「はぁ…別にもういいっすよ」
ウィリアム先生のこの言葉は本心から言ってるのがよく見える。ウィリアム先生は良くも悪くも嘘がつけないのだ。だから焚も面倒臭いとは思いながらも仕方ないと片付けられる。一年生の頃からウィリアム先生が焚のことをとても心配してるのは焚自身よく知っていた。だって定期的に面談とか言いながら自分の悩みを必死に引き出そうと何回も2人で話す時間をくれたのだから。
でもそれは焚にとって迷惑にしかならない面倒な事なのだが心配という気持ち自体は前の焚(わたし)にとっても今の焚(おれ)にとっても要らないものであっても無関心よりはよっぽどマシだと思える感情だから。焚にとって心配は自分を見てくれる、自身の存在を認識させてくれるものだったから。だから焚にとってウィリアム先生は必要な存在なのだ。
「あ、焚最近できてなかったけど明日の放課後は面談な。デートは今日のうちにしとけよ〜」
「うっさい」
前言撤回焚はやはりウィリアム先生のことは面倒臭い存在NO1に君臨する存在だと改める。しかも焚にはウィリアム先生は別に焚は真群に恋愛感情を持っていないと分かっての発言であることがわかっいてただ単にお気に入りの生徒をからかいたいだけなのは分かりきっていた為そう言って去っていくウィリア先生につい長いため息をついてしまう。
「先生と仲が良いんだね焚ちゃん」
「…は?」
そして何故か意味がわからないことをまるで拗ねたように言う真群を見て焚はまた変な状況にため息をつきたくなる。
「何処が仲が良く見えたんだよ…ただの一生徒と先生の関係だっつうの」
「でも焚ちゃんウィリアム先生にはそれなりに気を許してたっぽいし。俺にもそうしてくれたらなぁって」
気を許した覚えがない為またちんぷんかんぷんなことを言ってるなと聞き流そうとしたが焚は真群の拗ねてるような顔を見てレアな表情が見れたなと少し良い気分になる。
「お前に気を許すかはお前次第だっつうの。まぁあり得ねえがな」
誰にも気を許す気などないいつもそう思っている。だから真群にも気を許す日などこないんだろうなとは思っていたでも焚は気づいていない。
人の表情一つで気分が良くなるなんてことが起こってること自体焚はもう少し、少しだけ気を許してることを。
「ふふそのあり得ないを覆してあげるよ」
そして真群はそれ分かっていた。でも言わない。いつの日か焚が全ての気を許してくれるまでは。
その日がいつか絶対に来ると来させると真群の中では決めていたから。
そうして真群は黙々と弁当を食べ始める焚をウットリと眺めながら思うのだ。
焚の全てを手に入れたいと。
焚の笑顔も焚の怒り顔も焚の困った顔も全てが好きだから。
真群はあの日からずっとそう思っている。
「あ、焚ちゃん。明日面談なら今日は町へ調査へ行こうか。そろそろクラブ活動しないと部長に怒られちゃうからね」
「それを早く言えバカ。お前はいつも要点を言うのが遅いんだ」
真群の言葉にまたキレかける焚がいたが流石にもうそろそろこういう所には慣れたのか今日何度目かのため息をつき諦めたように調査の件を承諾する。
そもそも焚もそろそろ動きたいと思っていた所である。
今まで何をしていたのかと言わんばかりの烏真の顔が簡単に浮かんできて2人して少し笑ったようなうんざりしたような顔をする。
そうして目があって焚は真似するなと言わんばかりに睨みつけて真群はそれにいつも通りニッコリとした笑顔を返すのであった。
少しずつだが2人の距離が近づいてる気がした。
まぁ主な理由はここ数日間の真群のストーカーまがいの行為からとは言え焚もそれを受け入れつつある。きっと2人はいつの日かいいバディになれるのではないかと思う。
「今日はよろしくね焚ちゃん」
「…いつもよろしくしてるみたいな状態だったろここ最近」
「それもそうだったね。じゃあ今日もよろしく焚ちゃん」
焚の日常に1人の男が入り込んでいくのを感じながら呆れたようにまた苦笑した。
日常の影から非日常を迫ってきてるのをなんとなく予感しながら焚は世界の歪みの謎の為今日は頑張ってみようと思う。
まぁ今はとりあえず食べ終わった弁当を片付けて中ぐらいのサイズのパック牛乳を一気飲みするのであった。
そして早食いしたせいでまだ残っていた米のしょっぱい味と牛乳の甘ったるい味が混ざってまた焚の眉間には皺が寄った。
それを見て真群はニコニコしながら「米にはお茶でしょ焚ちゃん変わってるね」なんて笑ってるのだ。
そんな真群にイラついた焚はひっそりと今日の調査は真群に全投しようかと企んで終わる昼休みであった。
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