第3話
「知らないって何でだよ。殺してるじゃん!君の手でなら人を殺せるんじゃないか?」
そう言って烏真は、焚の手に包丁を持たせ自分の首に包丁を当てて、切る様に促す。
でも焚の手は動かない。怖いのだ、人を殺してしまったら、またあの日の自分に戻るんじゃないかって無意識に、心の奥底の焚(わたし)が恐怖するのだ。
「待って。烏真で試さないで。試すなら俺で試してよ」
そう言って立橋が間に入ってきて、自分が死ぬと立候補してくるが、焚は誰も殺すなんて言ってないと言おうと思った。
しかし先に、2人が喧嘩を始める。
「立橋、邪魔しないでよ。お前は死にたいわけ、じゃないだろ。僕は死にたいんだ。お前は逆だろ?この殺したがり」
「殺したがりは酷いなぁ。俺はただ命をかけた戦いがしたいだけ。命をかけるからこそ光るものがあるんだよ。それより烏真が死んだら困る。いつか君が皆平頭に命を失う世界にしてくれるんでしょ?」
何て誰が殺されるか争い始め、段々と2人共ヒートアップしていき、イライラしてきてるのが分かる。
しかしこの中で、一番イラついてる人間がいた。
「おい!俺は誰かを殺すなんて、一言も言ってねぇ!勝手に言い争い始めるな!」
そう焚だ。勝手に人殺しの罪を、重ねさせられそうになっているのだから、当たり前だがその言葉にも烏真が噛み付く。
「じゃあどうやって、人が死ぬか試すのさ!」
それは確かにここにいる全員が、確かめたいことだ。だから焚は買い言葉に売り言葉をつい飛ばす。
「俺が俺を殺す!これでいいだろうがよ」
「焚ちゃん?!待っ!」
真群が咄嗟に止めようとする行動に出るが、それよりも早かった焚は自分の腹に向かって思いっきり振りかぶって突き刺した。
「がっ…」
もうそれは勢いで刺した。
そう何も考えてないのである。もしこれで死んだとしても、後悔があるかないかと問われていたらないと答えていたが、そんな事も考えることもなく怒りから勢いで、焚は自分を刺したのである。
もうそれはこのクラブメンバーに、もう二度とドン引きなど出来ないほど、イカれた思考だった。
自分の腹に刺さった包丁を、震える手で引き抜いていき血が溢れ出る中、もう烏真に何も言えなくなったな、なんて呑気なことを考えていた。
「ぐっ…やっと抜けた…。一回刺したら抜くのが大変なんだな、しかも血が気持ち悪い…くそが」
そう言って、烏真が刺さずに首を切るだけにしていた理由は、それかと考える。ふと腹の傷を見ると、段々と塞がっていく傷が見えた。
「大丈夫!!??焚ちゃん!?怪我は?!死んでない?!生きてる?!」
そんな真群の慌てた声を、聞きながら焚はぼんやりと、あぁ制服に穴が空いてしまったな。
なんて考えていた。
「何だよ…死なないじゃん…いや、これは自殺だからか?他殺だと…いやそんな希望を見るのをやめろ。…まぁお前が役立たずってことがわかって良かったよ」
「あ"ぁ?人がせっかく試してやったのになんだそのいい様は」
人がせっかく自殺までして、確かめてやったのにこのいい様は誰だって怒るだろう。キレた焚は烏真の胸ぐらを、掴み睨みつける。
「まぁまぁ落ち着いて。烏真も言い方悪かったけど、烏真はまだ君がこの部活に入ってくれると思ってるから、この態度なんだよ。身内に見せる甘えが、この口調になっちゃてるんだ。
烏真が本当に言いたいのは「生きててよかったよ。君も一緒に死ぬ方法を探さないかい?」ってね。恥ずかしくて真っ直ぐ言えなくてね。つい煽って勢いで入ってくれないか、待ってたんだよ」
「適当言うな!このモブ!」
立橋がそういうと烏真は怒りからか恥ずかしかったからか分からないが、顔を真っ赤にさせて焚の手を振り解いた後、立橋の頬を思い切り殴りにいくが、それも手で受け止められて未遂で終わる。
「そういうことだからさ焚ちゃん。どうか俺らに協力してくれないかな?君のお姉さんの死も明らかにする、そして謎が解けたら、もしかしたら死がなかったことにもできるかもしれないから」
後ろでバシバシ立橋を殴っては、受け流されてる烏真を放って真群が頭を下げる。プライドが高そうなのに、意外な行動だと見ていると真群は頭を上げると、次は焚の手をぎゅっと握ってくる。まるで承諾するまで離さないと、言わんばかりに。
「あぁ、もう…うざってぇ。わかった分かったからもう一度頭ん中を整理させてくれ、俺は驚くことばかりでこっちは疲れてんだよ」
そう言うと真群は嬉しそうに顔をぱあッと明るくさせたと思うと、今度は抱き締めてきた。身内以外に初めて抱き締められた焚は一瞬時が止まった様に身体が固まる。近くに感じる声に聞こえる心臓の音、それに温もりを感じて焚の脳は完全にフリーズした。
「うわぁ立橋、あれはセクハラだよセクハラ。好きな子にあわよくば触れようとしてたもんね」
「まぁまぁ烏真。兄弟は喜びを抑えられないタチなんだよ。まぁ俺も好きな子に触れるチャンスあるなら触るけど」
いつの間にかケンカが、終わってこっちにヤジを飛ばす2人がいる。烏真の「兄弟揃って変態だもんね」って言う言葉だけは焚の脳になんとか入ってきて、無理矢理脳を動かし始める。
「へ、へ、変態ッ!!!!」
そしてフリーズして混乱した脳のまま叫び、まだ自分を抱きしめているら、真群を突き飛ばす様に手を前に出す。
「おっと…」
突き飛ばすには力が足りなかった様で、離れはしたかが、真群はまだ焚の近くに立っていて、まだ鼓動の音が聞こえた気がした。
「と、にかく!情報をまとめる!お前らは人類終末クラブっていう部活のグループで活動内容はこの世の歪みの謎を知ること兼あわよくば解決すること!つまり人に死を与える為に姉さんが死んだ謎と悪魔の歌の謎を追うのが今の目標だな?!」
「まぁ僕は人に死をっていうか自分自身が死にたいだけなんだけど。これ個人のプライベート意見だからそれで合ってるよ」
なんとかどっかに飛んでいってた理性を取り戻す。そして頭ん中で今の状況をまとめて口に出す。目の前で相変わらずニコニコ笑ってる真群は、気に食わないがそれを無視して話を進めようとすると、烏真が返事をしてくれて、ようやくこの変な空気から解放されると焚はホッと息をつく。
「部活には入る。でも俺は俺のやり方で勝手に謎を調べさせてもらう。それを共有するにはするがそれをどう使うのもお前たちの勝手にやれ。あまり俺に関わってくるなよ」
「だってさぁ真群」
誰とも協力しなくても、この謎を解決できる気がしていた。だって焚は欠陥品から完璧になったのだから。何だってしてみせる、そうしないと本当に自分が産まれた意味を失う気がしたから。焚が焚(おれ)になった、あの日から生の実感なんてないけど、せめて完璧になった自分を楽しんでみたいり。そんな願望から生きてるふりだってしたかった。それがきっと前の焚(わたし)の願いだから。
「じゃあ俺とバディってことでよろしくね焚ちゃん」
「あ"?お前話聞いてなかっただろ?!俺は1人で」
「君が1人で出来ても僕らは1人じゃ動けないの。悪魔の歌で異常者になった者の中では、異常に身体能力が上がり、暴れ何人もの人を何回か殺した事件だってある。これは死なないとは、いえ命懸けの謎なんだからね。あ、完璧な焚くんは足手まとい1人付け足したら動けなくなっちゃう赤ちゃんなのかな?」
話を遮られたうえに、その煽りについキレて烏真を睨みつける。
「やってやろうじゃねえか。足手まといが増えたって何でもねえよ。…てかそういう情報は真っ先に渡せやザコ部長」
そして売り言葉に買い言葉を言ってしまい後戻りできなくなる。異常者達がどれほど身体能力が上がっていようが、自分はどうてことないだろうと思っている、焚だがそう言われたら完璧な人間としてこう返すしかない。
烏真はこの短時間の間で焚の使い方を学んだ様で、上から見下ろしてくる様な烏真にまた焚はイラつきを覚える。
「じゃあこれからよろしくね。人類シュウマツクラブの為に頑張って働いてくれ。万が一君が誰よりも成果が出なかったその時は鼻で笑ってあげるよ」
烏真が手を差し出すが、焚はそれを無視してそっぽを向く。
「まぁよろしくしてやるよ。部長が無能だったらその座を奪ってやるかもな」
それはもう焚と烏真の間に火花が飛び散っている様に、見えるだろう。それほど2人の相性は良くなくて、そして反対にとても良くもありのだろう。
「じゃあ改めて焚ちゃん。人類シュウマツクラブへようこそ!一緒に死を探そうか」
そんな2人の間に入って、真群は焚に向かって微笑み歓迎するように手を広げる。
そうこれが始まり、人類シュウマツクラブの物語が開幕したのだ。
1人は姉の死の謎を探し
1人は自身の死を探し
1人は命をかける遊びを探す
そして最後の1人は何を探しているのか。それはこれから始まる事件から明かされていく。
きっとこの世界が正常になる日までの話だから。
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