第2話

そうして遠之宮に連れられてきた所は、なんてことない通ってる、学園の使われてない教室の一つだった。


「さぁ入って」


そう言って、扉の前に立つ遠之宮を訝しげに睨む。


「罠とか仕掛けてたら承知しねえからなくそ異常者」


扉を開ける。扉の先は至って、普通の部屋だった。昔使われていた教室だった場所が、倉庫になっているのであろう感じで、沢山の資料と本が段ボールに詰め込められてるのが数個あって、中心に机が四つ椅子も四つ置いてる。何か文化部あたりが、使ってそうな部屋だ。


「あれ?真群が人を連れてくるなんて珍しいねぇ。もしかしてその子が言ってた真群が執着してる子?おもちゃにしていい?」


「もう烏真、それはこの子が可哀想だよ。遊ぶのは俺とだけでいいじゃないか。俺は友達で同じクラブメンバーなんだからさ」


そして椅子に座ってる、茶髪の前髪を上げてるが少し遠之宮に似た男が一人、窓枠に座ってる、黒髪短髪だけど生意気そうな顔をした男か女か分からない奴が一人座っている。

生意気そうな奴が焚の顔を見た途端、ニヤニヤしながら話しかけてきて、それをやんわり流してるのが茶髪の男生徒だった。

2人は仲良さげなのに茶髪の男が友達だと言ったら、烏真と呼ばれたの方は嫌そうに顔を歪めて「いつお前と友達になったのさ。君悪いこと言わないでよね」なんて、何気なく酷い言葉を茶髪の男に投げかけているが、茶髪の男は気にもしない様にニコニコ笑っている。


「2人共、新しいクラブメンバーだよ。ほら自己紹介して」


「は?」


誰が新しいクラブメンバー何だって?と聞こうとしたがそれも言えないまま烏真と呼ばれていた男が「やっぱり真群が執着してる子じゃん」なんて言いながら、近づいてきて焚の手を引っ張って中心あたりにある椅子に座らされる。


「さと僕は栞廼 烏真(しおの からま)この"人類シュウマツクラブ"の創立者だよ。泣いて感謝しな。僕がこの歪んだ世界から人を解放してやろうって言うんだから」


「はぁ…人類週末クラブ?」


「あはは多分思ってる漢字と、違うと思うよ焚くん。人類シュウマツクラブのシュウマツは終焉の方の終末だよ。そしてそのクラブの副長であるのが俺、遠之宮 立橋(とおのみや たちば)。そこの君を連れてきた真群の血の繋がった兄弟だよ」


一度に情報量が多すぎる、2人の発言につい顔を顰める。立橋が真群と兄弟ってとこだけは確かに理解できた。この胡散臭い笑い方はそっくりだ。


「混乱するよね焚ちゃん。一から説明するねここは人類シュウマツクラブ、人類の異常を知ってる者達が集まって情報交換したり異変の相談窓口にもなってるんだ。…例えば、死んだのに死なない人間の謎とかね」


「説明するとこはそこかよ。そもそも死なない人間ってのが、そう簡単にいんのかよ。あと人類シュウマツクラブって意味わかんねえオカルトクラブとでも名乗ってろよ異常者共」


一応つい先程死なない人間をら見たからこの世界の異常性は理解できたが、それに対して何をしようって言うのかイマイチ理解できなくて問うたが。そもそもこのクラブに入るとは一言も言ってないのに、入れられたことを思い出す。


「俺は意味わかんねえクラブなんかに所属する気はないからな」


「まぁ待ってよ焚ちゃん。死なない人間はねあの男だけじゃないんだよ。烏真くん」


「はいはーいでは、観客席の皆さま楽しくて美しいクソッタレのショーでも見ていきな!」


そう言って烏真は会釈をした後、ナチュラルに包丁を取り出して迷いなく、自分の首を切り裂く。血がドバッと吹き出して烏真は教室を血で、汚しながら倒れていく。


「は…?」


また人の死を見て、息が詰まる。自分で迷いなく死んでいく、烏真を見てこのクラブの異常性が浮き彫り出る。いやそもそも人類終末クラブなんて、名乗る奴らに正気なんぞありはしないとは思っていたが、ここまでだったと思わず着いてきたことを後悔する。

またこんな血生臭さを感じるぐらいなら、あれを夢かドッキリかと思い込ませて、忘れていつもの日常に戻ればよかったと。


「ゔっ…うわーーーーーーーーきったねえ」


そんなことを考えてると、烏真は何にもなかった様に立ち上がる。朝見た男の様に。少し違うのは本人は死んだと自覚して周りのものが、血だと理解してそうな顔で、血を見ていることだ。しかも言葉とは裏腹に、ウットリと血に見惚れてる。その姿だけ見ると、ドン引きものだろう。

今度こそ何かの悪戯じゃないかと、烏真が自殺に使った、包丁を持って切れるか確かめる。

すると包丁はとても切れ味がよく、思ったより焚の手のひらは切れる。

だけどそれでジンジン痛む手が、これは現実だと言うことを知らしめる。


「…説明しろよ」


そうしてようやく声を絞り出す。


「うん説明するね。見ての通り烏真くんは死なない人間、で死なない人間がそう簡単にいるわけないって言ったよね。それは違うんだよ、この世は死なない人間しかいない、衰弱死、圧死、事故死、焼死、全ての死がなかったことにされる世界。いつからそうなったのかも、曖昧だけど確かにこの世界は異常になって言ってる。それに気づけるのは人を殺した鬼だけ、そう思っていた」


「人を殺した鬼…?」


「焚ちゃん君は俺と同じイレギュラーな存在。自分という概念を殺したことにより、人の死を自覚できるようになった存在なんだ。だから悪魔の歌も聞こえる。他の2人とは違って」


やっと歌についての話が出てくる。あの歌が聞こえていて、そして正気を保てるのは焚と真群だけらしい。


「悪魔の歌については、なんも分かんないからねぇ。俺たちは歌なんて聞こえないし、その歌がなんなのかも分からない」


「最初は幻聴じゃ無いかって疑ったけどさぁ。真群が歌が聞こえるって言うたびに、異常者が現れるから、もう信じるしかなくなっちゃたよ。あ、ちなみに悪魔の歌って名付けたのは僕ね。人を狂わせる歌だから悪魔の歌簡単なネーミングでしょ」


他の2人は全く聞こえないらしく、歌についてなんもわかってないらしい。

しかし悪魔の歌、なんて名前を聞いて焚はなんとも言えない気持ちになっていた。


「そして俺はね、考えたんだ。人が死なない現象と、この悪魔の歌は何かを関係あるんじゃないかって」


「…人が死なない異常も悪魔の歌で、人が狂う異常も同じだろぉ?おかしいんだこの世界、何処か狂ってるんだ。だからね異常をきたした人間が死ぬかどうか、僕らは試してみた。でも結果は残念ながら、人は死ななかった。だからなんの関係もないものだと思っていた。それも君が現れたことによって変わったんだけどね」


真群の言葉を遮ってまでの言葉と目線が心が当たりがあるでしょと言わんばかりで、烏真の態度にイライラする。関係…?この世界が異常だらけなのを、理解してしまってもう意味がわからない。人が死なない、なんて今まで知らなかった、焚が現れて何かが変わるなんて分からない。

そう思ったが、一つ心当たりがあった。言おうとしたら言葉が詰まり、上手く息ができなくなっていくような感覚におちいる、とある出来事の思い出を思い出して。


「はっ…はー…」


「大丈夫焚ちゃん。ゆっくり息をして、俺たちは君を責めたいわけじゃないから」


うるさい、そう叫びたかったけど、真群が自分の背中をさすり、その手の暖かさに段々落ち着いていく、自分がいるのが分かって焚は嫌になって手を払って真群を睨みつけた後、俯いて無言になる。


「やっぱり心当たりがあるんだね」


「烏真くんこれ以上はやっぱりやめようよ」


真群は焚を庇う様に立つけど、烏真はそれを苛立つ様に舌打ちをして見下した目で見る。


「君が連れてきて、君が望んだんでしょ。彼女をこのクラブに入れたいって。今頃良い子ぶるなよ。昔から、そう昔から君のそう言うところが嫌いなんだよ。世界と1人の人間を天平にかけて迷わず1人の人間をとれるようなイカれたお前が嫌いだ」


「烏真。落ち着いて。今はその話じゃないでしょ。真群も烏真が正しいことを言ってる。焚くんをら、ここまで連れてきときながら今更関係ないなんてこと出来ないでしょ」


全てに対して、怒鳴る様に早口になってる烏真を落ち着かせたのは立橋だった。これでこいつらの関係が見える、少々キレやすい烏真のストッパーが立橋でいつも何かしら怒らしてしまうのは真群。関係が見えたってこいつらと関わる気は毛頭湧いてこないのだが。

でもキレてる烏真を見ていたら、反対に焚は落ち着いてきて、冷静になった頭が段々こいつらが自分を連れてきて、何がしたかったのか分かってくる。


「そ、うだね。そうだ。焚ちゃんごめんね。俺たちはこの世界の異常の謎を知るために君の、過去にあった事件について知りたいんだ。

何故あの時、君の姉は死ねたのか。それを知りたい」


「知らない、知るわけない。だって俺はあの時姉を楽にしてあげたい、そんな馬鹿なことを考えて、ただ人思いに石を振り上げた。そしたら姉は死んでいたそれだけ、それだけで、俺の姉さんは死んだんだ。

逆に俺が聞きたいなんで俺の姉は死んだんだ」


そう姉は死んだ。2年と半年前の寒い冬の雨の中、事故に巻き込まれた姉と焚は降ってきた瓦礫に押し潰されて、姉は半身以上焚は下半身だけ埋もれていた。大きな事故だったから助けがくるのも、遅くてだから姉は助からないほど血が出ていたのに死ねなくて、苦しくて、喘ぎ続けていたから、焚は必死に瓦礫から出た後姉に大きめの石を頭に思い切り振りかぶって殴って殺したのだ。


そう__俺はあの日嫌った自分と愛した姉を同時に失ったのだ。


「なんで、姉さんだけが死んだんだ」


死なない世界なら、助けてくれたってよかったのに。

そんな叫びが頭の中鳴り響いていた。

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