第1話
「共犯者になろう」
そう言ってきた高校の先輩、遠之宮 真群と話してから一週間の時が経った。その時に、俺がした返答はこれだ。
「たとえアンタと俺が同じだろうが俺は一人で生きていくと決めてんだ。アンタと馴れ合う気はない」
その一言で会話を強制的に終わらせて逃げるように、いや逃げたと言ったらプライドが傷つくから意味なき会話から、日常に帰ってきた。
自分でもあの時の思考に反吐がでる。何が「俺の人生が始まるかもしれない」だ。俺の人生なんてどうでもいい、私を殺したなんて罪悪感を抱えてる自分などいない。
そう暗示してほっと息をつく。
そうあれから一週間たった今。何も変わってない。それで良いと思う自分と少し期待していた自分がいることに、気づいて吐き気がした。
起きたての頭を起こしながら、いつも通り学校に行く用意する。
化粧品のない洗面台。
髪ゴムが散らばってる机。
適当に用意した食パンとジャム。
顔を洗って、髪の毛をくぐって、椅子に座って焼いた食パンを口に入れる。
前の私だったらパサパサとした口の中の水分を奪っていく、パンを酷く嫌っていたが、今は気にならない。
何たってパンはいつ何時片手間にも簡単に食べて、栄養を補給できる、便利な食べ物だ。
今はジャムを塗ってるが、別にジャムがなくてもサクサクした食パンの食感には飽きがなく、美味しいと感じられる。
そんなことを考えながら朝ごはんを食べていたら、家に出る時間になって、急いで歯を磨いた後外に飛び出す。
そしてそこで足が止まる。
聴こえるのだ。
歌が。
聴いてるとぞわぞわしてきて嫌悪感が溢れ出てくる歌が、サイレンの様に町に鳴り響いてる。
この歌はふとした時聴こえてくる。寝ようと布団に入った時、学校の授業中、買い物帰り道、どんな時だってサイレンの様に確かに聞こえてくるのに自分以外には聞こえていなくて、誰かに歌について聞いたって意味のわからない異常な人みたいな顔で見られて、終わるのだ。
そしてこの歌が流れるといつも誰かしら暴れたり、ぶつぶつ何か言い始めたりして、異常が起こる。
きっとそいつらには歌は聞こえているのだろう、いつも歌が聞こえて異常をきたした奴は耳を塞ぐ様に手を耳に当ててるのを見る。
今日のこれも異常者が出るだろうと身構える。
すると、遠之宮真群がこちらに駆け寄ってくるのが見える。
今日の異常者は彼かと押さえつける準備をすると、遠之宮はこちら通り過ぎる。
そしてすぐにガシャンッという音が後ろからした。
すぐに後ろを向くと金属バットを持っていただろう、髭が生えた疲れた顔した男がまるで蹴られた様に吹っ飛ばされて倒れているのとそれを冷静に、ネクタイで腕を縛って暴れさせない様にしている遠之宮がいた。
「お前何してんだよ。別に俺は助けられなくてもなんとか出来た」
実の所後ろから襲ってくる男のことは、知っていたから二人まとめてのしてやろうと考えてはいたのだ。
「そっかでも助けたかったから助けただけだよ」
「意味わかんねえこと、言ってんじゃねえぞ。やっぱお前も異常者だろ。お前が手を出さなくてもら俺は一人でなんとか出来てた。だから助けたことにはなんねぇんだよ異常野郎」
そう言って思わず中指を立てそうになるのを我慢しながら、ふと目が覚めて遠之宮の下で暴れてる男を見て警察に通報しようとスマホを取り出す。
「あ、まって焚ちゃん」
そう言って問答無用で遠之宮は俺のスマホを奪っていく。そして男の方を向いて。ポケットから驚くものを出す。
「お前何しようとしてんだ。まさかそのナイフで、その男を殺そうっていうんじゃないだよな?」
「そのまさかだよ」
そう問うと笑顔で異常な返事が返ってきた。やはりこいつもあの歌で頭がおかしくなったんじゃないかと思い、押さえつけて警察にまとめて通報しようかと悩む。
「まぁ待ってよ。見てて。大丈夫だから」
「何が大丈夫なんだよ。頭イカれてんのか?それとも警察に捕まりたい欲でもあんの?どっちにしろ人を殺そうとするお前を見逃す理由はない」
「大丈夫死にはしないからこの人は」
意味のわからないことを言われて思わず固まると、そのうちに遠之宮は男の心臓あたりピッタリっとナイフを突き刺す。
暴れていた男は次第に静かになっていく代わりに赤い、真っ赤な血が男が倒れた場所から広がって。小さな血の水溜りができる。
「お前まじでイカれ野郎だな」
血生臭い匂いが漂ってきて、ようやく身体が動く。人が死ぬのを見るのは、これで二回目だ。
何度見ても死体は見慣れない。見慣れるつもりもないが。
「まぁ慌てないでよ」
遠之宮からスマホを取り戻そうと動こうと思ったら、また待つ様に促されつい止まる。
すると遠之宮は男からナイフを抜いて、そしてあろうことか、起きるように男に声をかけるのだ。
「大丈夫ですかー?」
なんて呑気な声を出す遠之宮にあからさまな態度で、ドン引きしたようになる。
しかし次の出来事に、その態度は驚きに変わる。
「ゔっ…うん?」
何と死んだと思っていた、男が何でもない様に起き上がったのだ。
まるで長いこと夢を見て起きて、すぐみたいな動きで怪我ない様に、周りを確かめて驚いてる男を見てまた身体が固まる。
「ん?あれ俺何してたんだっけな…?うわッなにこの血みたいなのはなんだ?」
「あ、それ絵の具をこぼしてしまったんです。すみません。服汚してしまいましたね。弁償とかは…」
何て至って、普通に会話する二人に声すら出なくなる。確かに自分は遠之宮が、男にナイフを刺してるのを見たのだ。そしてこの血溜まりを絵の具と誤魔化す、遠之宮の脳も刺されて普通にしている男も、不気味すぎて恐怖からか汗が出る。
「いやそうかそうだったか。弁償はいいよ。ここで倒れちゃったおじさんが悪いんだし。じゃあ急いでるから俺はここで失礼するね」
「待っ…」
去っていこうとする男を、引き止めようとすると遠之宮が男から見えない位置で、唇に指を当ててシーっと言わんばかりの行動をするから。
つい声が詰まり去っていく男を引き止めることが出来なかった。
だからこの血生臭い血溜まりと遠之宮だけが残る。
咄嗟に血溜まりを触って確認する。生暖かいこれは確かに血だ。
じゃあどうしてあの男は何でもない様に去っていけたのか分からなくなる。
「おい…説明してくれるんだよな」
いっそ男と遠之宮が組んでドッキリでも仕掛けたと言ってくれないかと願って声をかける。もちろん、それはあり得ないことはわかってるだって、あの男が異常になって殺気を放ってきたのは確かに感じたんだから。
「もちろん。じゃあ説明したいからさ、ちょっと着いてきてくれる?焚ちゃんも知りたいでしょこの現象、謎の歌も含めて」
歌のことも知ってるとは、なんとなく感じていたが、改めて言われるとつい身構えてしまう。
しかし知らないままじゃ嫌だったから、遠之宮を睨みながら大人しく着いていくことにした。
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