人類ノシュウマツト共ニ

@akimaru423

序章

人の根っこは変わらない。何があっても、無意識のうちに、根っこにある感情から、人は動くのだ。だから、人はそう簡単に変われないもの流されはするが、それ表面だけでコロコロ変わる社会の中で、生き抜く力を得ただけなのだ。

人は変わらない。

不変で歪で、どうしようも無いのが人間だから。

だから人間は、エゴに生きる。

大義など偽善であり作られた感情。

そう思っていたのに。


俺は昔あった事件から、ずっと自分を失っていた。中学生二年生の頃までは成績が悪くて目立たないが、お人好しの女が俺の世間一般の評価だった。でもその後に起きた事件から強く頭を打った、私は人が変わった。何でも出来るが何でも出来るゆえに人との関わりを捨て一人で何でもかんでも完璧にやらないと気が済まない人。そう理想通り、今までの役立たずの私がいなくなって今の俺が生まれたのだ。


「焚(やく)ちゃんはさ今の自分が嫌いなの?」


そう問うのは黒髪が乱雑に切られた短髪の割には、顔が整ってるせいかよく目立つ先輩の遠之宮 真群(とおのみや しんぐ)。今こうして学校帰りに二人でお茶をしているのだが、それほど仲が良い訳ではない。むしろ焚から話しかけたのは初めて出会った時以外はないはずだ。それも先輩の綺麗な碧眼に魅入ってしまって見つめてしまったのがキッカケで少し話しただけだ。しかもそれは"前の焚(わたし)の話"で今の焚とは何の関係もない。

それがどうして今こうして話しているかと言うと、ただの先輩の好奇心。

…それだけのはずだ。焚が大きな事件に巻き込まれて新聞には載りはしなかったがこんな都会でも名前や容姿が覚えられるほど有名になったのと、事件に巻き込まれてからまるで反転したように性格が変わったと中学から同じクラスメイトが未だに大袈裟に噂を面白おかしく広げているからだろう。

「何で、そんな事を聞くんだ?」

十中八九好奇心だろうなと心では思いながらも相手は有名な先輩だからと一応なけなしの気を使って聞く。

「そうだな。空っぽな中身に共感を得たから。君なら共犯者になってくれるかなって思って」


「は?」

先輩が前の焚(わたし)だったら絶対に敬語で喋っていたところだったが今の焚は失礼ながらタメ口で喋っているのにそれすら気にしない様子で変な事を言うため、つい失礼を重ねて不審者を睨むような意味合いが篭った声が出る。

「ははそんな目で見てくると思った。テンプレのような反応だね」

テンプレと言われて少し声が詰まる。そう言われそうな性格を反転してからずっと"している"、だからテンプレートなんて言葉使ったのだろう。

「共犯者なんて意味わかんねえ事言ってんじゃねぞ。それ以上話がねえなら俺は帰る」


「やっぱり共犯者じゃないか。だって君のそれ"している"だけだろう?」

そう言われて帰ろうとして立ち上がった身体が止まる。「今何と言ったんだ」と言いかけたがそんな意味のない問いかけはやめた。聞こえてるし分かっている、ただ焚が理解しようとしていなかっただけだ。

「あんた俺を脅しでもしてんのか?それを周りバラそうが周りは理解しねぇぜ。お前が奇怪者として見られるだけだ」


「脅しか。それに似てるけどちょっと違うかな。言っただろ?俺たち共犯者になれるんじゃないかって」

その言葉で何となく分かってしまった。こいつは焚のことを理解した上で自分を同類と言いたいのだと。

「お前はお前が嫌いなのか?」


「嫌いじゃないよ。君もそうでしょ?ただ自分が自分だと実感を持てない」

最初に問われた質問を今度は相手に返す。それで完璧に理解した。遠之宮 真群は自分と同じ存在だと。

「そして君は前の自分に罪の意識を感じている」

焚はずっと俺は焚(わたし)だという実感が持てない、生きているように感じられないまま生きてきた。

それはまるで前の自分を…殺したかのような。

「そして俺も君と一緒なんだ。まるで本当の自分を殺した罪がある」

役立たずの自分を自分だとやっと認められた数日後に焚(わたし)は死んだ。焚が焚(わたし)を殺して完璧な人間が産まれた。

「だから自分殺しとして一緒に罪を共有しようよ」

共犯者になろう。その言葉がどれほど重く、そして甘い沼なことが分かる。この沼に浸かったらきっと焚は今の俺すら壊れるかもしれないその不安がある中で焚は一つの希望を見出していた。

罪人の自分がいつの日か自分だけの人生を歩めるんじゃないかっていう希望が。

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