やはりすんなり入れなかった
※すみません。また書き溜めに入ります。お待ち頂ければ幸いです。
※※※
「ちょっと良いかしら?」
「おう。どうした」
「へへ。女ばかり、しかも別嬪揃い。デムバックに何の用だ?」
ニタニタと下卑た笑いを浮かべる門番2人を気にせず、赤髪の美女、ラミーは黙ってゴールドランクのメダルを2人の目の前に出した。
「私はゴールドランクのラミーよ。依頼を受けてこの町に来たのよ」
ラミーが取り出し見せたそのゴールドのメダルを見て、ニヤけていた表情が一気に驚きに変わる。
「え? ゴ、ゴールドランク、だって? しかも今……、ラミーって言ったか?」
「もしかしてお前……、あの、ラミー、か?」
呆気に取られながら門番2人が質問すると、ラミーは慣れた様子で「そうね。きっとあのラミーだと思うわ」と何気なく返事する。
「この世界でも希少な、ゴールドランクでしかも女で魔法使いの……、あのラミー、か?」
「どこのパーティーも欲しがるという、あの?」
信じられない、と言った表情の門番の2人に、ラミーは溜息を吐いて「そういうのもう良いから、とりあえず通してくれないかしら?」とやや苛つきながら伝えるも、門番は「いやちょっと待て」と、門番2人は厳つい鉄製の門の前に立ち塞がった。
「お前みたいな有名人はともかく、後ろのその3人は何なんだ? まさかこいつら売りに来たのか?」
「そんな訳ないでしょう? 私のパーティーよ」
ラミーの言葉に門番2人は揃って「「はあ?」」と声を上げる。
「お、女だけのパーティー? 嘘をつけ!」
「ありえねぇだろ! 女が冒険者だと? ふざけるな!」
「ふざけてなんか居ないわよ。……はあ、全く。こうなるの嫌だから名乗ったのに。こんな押し問答も時間の無駄なのよ。どうでも良いから早く中に入れてくれないかしら。それとも、力づくで中に入った方が良いのかしら?」
やや強めの口調でそう言いながら、ラミーはヒュウゥ、と手のひらサイズの小さな火の竜巻を形成する。それを見た門番2人はビクっと反応する。
「じゃ、じゃあそいつらの冒険者の証を見せろ!」
1人がそう怒鳴ると、「それもそうね」とラミーは作り出していた小さな火の竜巻を霧散させ、振り返り他の3人に、冒険者のメダルを出して見せる様指示した。
確かに全員冒険者の証のメダルを持っている。門番2人は信じられない、という表情のまま、各々が差し出すメダルをしげしげと見つめる。
「……ウッドランク。本当に冒険者のメダルだ。てかそっちの黒髪は……、シルバーランクだと?」
「こんな華奢で超絶な美女がシルバーランク? そんなバカな……」
呆気に取られたまま固まっている2人を見て、ラミーは溜息を吐く。
「ていうか、そのシルバーランクの彼女は、私なんかより相当強いわよ。シルバーランクなのは冒険者になって日が浅いというのと、ファリスじゃゴールドランクにはなれないから、というだけよ」
ラミーがそう説明すると、門番の1人が突然、自身の持つ長槍をミークの首元に突きつけた。ミークはAIによりその長槍が自分に届かない事を事前に察知したので、微動だにしない。だがその事で門番をキッと睨みつける。
「そのメダル、偽物だな? お前等2人のウッドランクもそうだろ。てかお前本当にラミーか? さっきの火の魔法も魔石かなんか使ったんじゃねーのか?」
「あーそういう事か。成る程女ばかりのパーティーなんてあり得ねぇもんなあ? てかお前等、もしかして逃げた女達の一味だな?」
門番の1人の最後の言葉に、ラミーはピクリと眉を上げる。
「……逃げた女達? それってどういう意味なのかしら?」
「うるせぇ! 偽物ってんなら話は早ぇ! 女なんざ簡単にとっ捕まえれっからなあ!」
そう言いながら長槍をミークの首元に突きつけていた門番が、その長槍をフッと上げる。
「いい女だから傷つけない様優しくしてやるよ!」
そう叫びながらミークに一気に振り下ろす。だが、
ガシィ、とミークは難なくその長槍を左腕で掴んだ。門番はまさか掴まれるとは思わず「へ?」と声が漏れる。一方のミークは、はあ、と溜息1つ。
「ねえラミー。これもうどうしようも無いよね? 揉めずに通りたかったけど無理っぽいよ」
ミークの言葉にラミーは、額に手を当て呆れた様に同じく溜息吐いてから、「そうね」と返事する。その間門番は必死に両手を使い、ミークが左手だけで掴んでいる長槍を引き離そうとするも、全く動かない。
「グッ! こ、このっ! な、何で離れねぇんだ!」
「そりゃ弱いからでしょ? まあいいや。はい」
「うぎゃあ!」
グイグイ引っ張っていたのをミークが急に離したので、勢いそのまま門番はデン、と尻もちをついてしまった。「うぐぐ……」痛みでその場で大人しくなる長槍の門番。それを見たもう1人は、ギリ、と歯噛みしこめかみに血管を浮かべ怒りの表情で、スラリと剣を抜く。
「こうなったら力ずくで抑えてやる!」
わなわな怒りで震え剣を構える門番に、ニャリルとエイリーも揃って「「はあ」」と溜息を吐く。
「本当分からず屋だにゃん」
「ていうか、ただ単に通りたいだけなのに、何で攻撃してくんの?」
いい加減うんざりしていたニャリルとエイリーがそう言うと、「女の癖に、偉そうにするなあ!」と、ミークとラミーをスルーしニャリルに思い切り斬りかかる門番。
だが、
ガシィ、とニャリルは既に準備していたナックルの爪を使い受け止めた。
「へっ?」
先程の長槍の門番同様、情けない声を上げる剣の門番。その横で、今度はエイリーが腕に精霊魔法をヒュウゥと纏わせ、「えい!」と腹部に強烈な一撃。門番は鎧を身につけているものの、衝撃波により鎧の中にまで衝撃が伝わった様で「う、うぐあ……」と呻きながら、その場にひれ伏した。
「あ~あ」
「はあ。結局こうなってしまったわね」
「でも、いくら女しかいと言っても、妙に攻撃的だったにゃん」
「そうそう。だから仕方無いよ」
「まあこうなるのかも、って多少予想していたけれども。本当は何事もなく通してくれていれば良かったのだけれどもね。……。それに、気になる事も言っていたわね」
「うん。逃げた女達って。どういう事だろ?」
「それはあっちで尻もちついてる方に聞いてみればいいにゃん」
「そうだね」
そう返事したミークは、尻もちを付いている門番のところまでサッと移動し、グッと首根っこを掴み持ち上げた。
「な、なな、なななあああ!?」
こんな華奢な女が鎧をまとった自分を片手で持ち上げた? その事に顎が外れんばかりに口を空けて驚く門番。
「ねえ。逃げた女達ってどういう事?」
「な、何だお前は! そ、その怪力はっ……!」
「そういうの良いから。質問に答えないと痛い目見せるかも?」
そう言ってミークは門番をポイ、と上空に放り投げる。「うわああああーー!!」どんどん地上から離れていく感覚を全身に感じながら空高く舞い上がる門番。少しして、空中でピタリ、と止まったと思ったら、今度ヒュウウと急降下。「た、たた、助けてくれええええ!!」足をジタバタさせながら大声で叫ぶ門番。
だが、地面に落ちる既のところで、ミークが左腕でガシ、と止めた。
「もう一回いっとく?」
ミークがそう言うと門番はガタガタ震えながら「分かったからあああ!! 言うからあああ!!」と慌てふためきながらそう叫んだ。
「あっそ」
ミークはそれを聞いて門番を地面に下ろす。瞬間、ドッと一気に汗が吹き出し荒々しい呼吸をする門番。
「はあ……。はあ……。な、何なんだお前は?」
それに答えないミークの代わりに、ラミーが汗を滴らせ四つん這いで息をしている門番の目線に合わせる様、姿勢を低くし凄む。
「さっき言っていた逃げた女達って、何の事かしら?」
それを聞いた門番はまだ恐怖に顔を歪めながらも不思議そうな顔をする。
「何の事って……、お前等、あの女達とは違うのか?」
「だから、あの女達って何なのかしら? って聞いているのだけれども?」
門番の返事にラミーは少しイラっとした様で、今度は氷の小さな槍を手のひらに生成し、門番の喉元に突きつける。「ひっ」と情けない声を上げる門番。
そこでエイリーに腹を攻撃された、もう1人の門番が「お、俺達より……、中のギルドの方が……、詳しい。だからそっちで聞いてくれ」と、ゼイゼイ言いながら声を掛けてきた。
「ふーん? そうなのにゃ?」
「じゃあそれで良いんじゃない? 中入れて貰えるみたいだし?」
「まあ確かに、ギルドの方がより詳しそうだよね」
ニャリルとエイリー、そしてミークがそう言うと、ラミーも「それもそうね」と言いながら、氷の小さな槍をヒュンと霧散させ立ち上がった。
そしてミークは鋼鉄製の重く硬いその扉を、左腕1つでいとも簡単にギイィと押し開け中に入る。他の3人も門番を横目に見ながら中に続いた。
またも呆気にとられる門番2人。
「……あの重くて硬い門を、片手で開けた、だと?」
「何であんな細い腕であんな怪力なんだ? 俺等2人で力一杯押して漸く開く位の重さなのに……」
漸く落ち着いてきた長槍の門番と、まだ腹部に微かに痛みが残る剣の門番は、共にゆっくり立ち上がりながら門の前まで移動し、中に入っていく4人の後ろ姿を見つめる。
「ラミーでさえ相当強いって噂なのに、あの黒髪は一体何なんだ?」
「ていうか、猫獣人とエルフも、あれウッドランクって強さじゃねぇ。手合わせしたのは少しだったがそれでも判る。俺等も門番やってるだけあって荒事には慣れてるからな。ありゃ相当な手練れだ」
そう言いながら2人は互いの顔を見合わせる。すると徐々に怒りが湧いてきた様子。
「このままコケにされたままで許せるかよ」
「ああ。俺等が手に追えなかったのは、単に女だって油断しただけだ。あの鉄の扉だって魔法かなんか使ってんだろ」
そして1人が小さな笛を取り出し、それを思い切り吹いた。ピイイイイィィ、と大きな笛の音が門の外から響き渡る。
「へへ。俺等2人なら何とかなっただろうけど、ここの警備隊数十人相手ならどうかな?」
「女の癖に、中途半端に強いのが悪いんだ」
そう言いながらニヤニヤ笑みを浮かべ、2人は警備隊の到着を待った。
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