漸くデムバック
※※※
ミークは顔をパン、と叩いて気持ちを切り替え、紅色左目で現在地からスコープで見てみる。
「ファリスの入り口より高い壁に囲まれてる……、ふむ。入り口があってそこに武装した門番が2人居るね。多分あれがデムバックだね。ここからの距離は、……12.287km。40分位で到着できるよ」
「その~キロ? 確か距離を示す言葉だったっけ? その何とかキロを今の速さで進めば40分位かかるってて事か」
「おー、エイリー理解が早い」
「むう、あたしにはちんぷんかんぷんにゃー」
猫耳をピンと立て少しご立腹のニャリルに、褒められたエイリーは「へへ~」とニヤケながながら、尖った耳をパタパタさせ喜びを表現した。
2人して器用に耳動くなあ、と思いながら、ミークは「衛星から町の中の様子見てみる」と、3人に伝え空を見上げて衛星にアクセスする。
ーー座標確認……、完了。当該対象、町名デムバック……。登録しました。当該地域、衛星から望遠を使い中継しますーー
AIがそう伝えた後、ミークの脳内に映像でデムバック内を映し出した。
「……ミーク、何してるのにゃ?」
「ああ。町に行く前に中の様子先に見とこうと思って。衛星から町見てる」
「あの星って、そういう事も出来るのね……」
呆れているラミーが呟くのを他所に、ミークは衛星が上空から映し出す映像をジッと見る。
「……ん? 何か薄い紫色の膜に町全体が覆われてて中の様子が望遠で見えない? 何だろあれ?」
ミークの言葉を聞いたラミーが「え?」と声を出す。
「ミーク、今薄い紫色って言ったわよね? それってもしかして、魔物だけでなく人も通り抜けられない結界が張られているのではないかしら」
ラミーの言葉に3人が「「「え?」」」と同時に反応する。
「人も通り抜けられないにゃ? 空なのににゃ?」
「でもそれって、ラミーやミークみたいに空飛べる人間を警戒してるって事?」
ニャリルとエイリーの疑問にラミーは「うーん……」と考え込む。
「町を守る結界自体はそう珍しい物でも無いのだけれども、例えばファリスにも、ミークが以前倒した魔物の魔石を使って結界を張る予定だから。でも通常、町に張り巡らせる結界って無色透明で、空の色が見える様にするものなのよ。だって色着いていたら青空が見えなくて生活に支障をきたすでしょう? 透明な結界は魔物のみを防ぐ効果があるのだけれど、薄い紫色の結界はそれに加えて人さえも通さないのよ」
ラミーの説明に3人は顔を見合わせ、それからミークが質問する。
「それって、私達みたいに空飛んで出入り出来ない様にする為なのかな?」
「それもおかしな話なのよね。空を飛べる人間なんて殆ど居ないから。魔法使い自体多い訳では無いし私達が珍しいのよ。でもそれを警戒しているって事なのかしら……」
ラミーがうーん、と唸りながら顎に手を当てている。
「とりあえず行ってみましょうか。門番が居る、という事は町の中では普通に人々が生活している、という事でしょうし」
ラミーがそう言うと3人は揃って頷き、そして皆でデムバックの方向へ飛び始めた。それから40分程で町の傍まで移動した4人は、空を飛んで来た事を門番に悟られない為、少し離れたところで地上に降りた。
地表に降りてからラミーはハッと、とある事に気づく。
「そういや私達って女ばかりじゃない……」
そう言いながらしまった、と額に手を当てるラミーに、ミークが不思議そうに「どういう事?」と質問する。
「女だけの集団が町にやって来るって相当異常な事なのよ。しかも4人揃って冒険者を名乗る訳でしょう? 冒険者は男がなるものって認識が当たり前なのに。勿論、商人や旅人の中には女もいるけれども、その場合、通常護衛に冒険者を同行させているわ。だから怪しまれない様、男も連れて来るべきだった、って今思ったところよ」
「成る程。じゃあ1人でも誰か男連れてくれば良かったね。そうだ、例えばノライとか?」
ミークがちょっと意地悪っぽくそう言うと、ラミーは一気に顔を赤くし「そ、そういうのはいいから!」とミークに怒る。ごめんごめん、と謝るミーク。だが、
「……でも、そういう人が居るって羨ましい」
と、消えそうな小さな声でポツリと呟く。それは耳の良いニャリルとエイリーに届いたが、2人は顔を見合わせるも気付かないフリをした。
「とにかく。ここまで来てまたファリスに戻る、なんて事は時間の無駄だし出来ないから、とりあえずゴールドランクの私がまず門番に話するわ。一応皆警戒しながら付いてきて」
仕切り直しとラミーがそう言うと他の3人は揃って頷く。それからミークは、ニャリルとエイリーの武器を異空間収納のポシェットから取り出し手渡した。
※※※
デムバックは町全体が高い壁に覆われており、入り口の門も鉄製でとても頑丈に出来ている。門自体の高さも3mはあり、外敵から守るには充分過ぎる程堅固である。
その前で、とても退屈そうな、鎧に身を包んだ門番が2人。1人が堪らず大きな欠伸をする。
「くわあ~~。あ~、退屈だぜ~」
「なあ~? 本当本当。そもそも門番居るのかよ? って思うわ」
「いや居るだろ。こないだみたいにファリスから余所者が来るなんて事もあるだろうしよ。それに商人だってたまに来るんじゃねーか? 最近とんと見なくなっちまったが」
「そりゃあ商人も連絡断ち切られてっから来れねぇだろうよ。でもいつかこの状況を怪しまれて調査に来られる、なんて事はありそうな気はするがな」
「そうなりゃまた、ここの新町長様が対処すんだろ……、ん?」
退屈しのぎに会話していた門番の1人が、遠くから徒歩でこちらにやって来る4人組を見つけた様で、手でひさしを作って見ている。
「お? 誰か来るみたいだぜ?」
「おお。さっき言ってたファリスから来た2人組以来だな。じゃあまた冒険者か? いやでも……、歩いて来てるが馬とか引いてねぇな?」
徐々に近づいてくる4人組の姿が漸くはっきり判る距離になると、門番2人は顔を見合わせる。
「おいおい、女しかいねぇ?」
「へ? そんな訳、って……そうみたいだな」
門番2人は近づいてくる4人組に対し、一応警戒しながら武器を構える。だが徐々に4人の姿がはっきり見えてくると、2人は「「おお……」」と自然に感嘆の声を上げる。
「おいおいこりゃあ……。粒揃いじゃねーか」
「赤髪のは……、格好からして魔法使い? 珍しいな。それと猫の獣人にエルフ、か。どれも美人だが……。特に黒髪のあの人間、あれが特別良い女だ」
「何でこんな美人ばかりがやって来たんだ?」
門番2人の前に到着した4人を値踏みする様にジロジロ見ている最中、赤髪の美女、魔法使いの格好をした女が他の3人より一歩前に出て門番に声を掛けた。
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