第7話 現代っ子
「で……これがいったいどうしたの?」
タイトル画面をしばらく無言で眺めた後、阿久津はタッチパッドやキーボードに触れるでもなく、ジトっとした目つきをこちらへ向けてきた。
彼女のその表情が語っている――お前いったい何がしたいの? と。
そんな彼女の反応に、俺はやれやれと肩を竦めながら言葉を返した。
「目の前に未知のゲームのタイトル画面があるんだぞ? そういう時、男ならばとりあえずまずはプレイしてみるのが常識ってものだろう? 違うか?」
「誤解しているようなら言わせてもらうけど、こう見えて私、女なの」
「もちろん分かっているとも! 口と性格と目つきはヤバいけど、阿久津って見た目だけなら文句なしの美少女だからな!」
「死ね!」
と言い放つや否や、阿久津が思い切り殴りかかってきたが、すかさず俺はそれを躱す。
最近、阿久津の攻撃のタイミングを把握しつつある俺がいた。
あとついでに、最近分かったことがもう一つ。
「阿久津が『死ね』とか『ウザい』とか『殺す』って、だいたい照れたり恥ずかしくなったりしてる時だよな。つまり今のも、『美少女』って言われたからただの照れ隠しで『死ね』って言っただけだったりするんじゃないか?」
「~~~~~し、死ね!」
「照れるぜ?」
「っっっ、し、死ね……じゃなくて、あ、うぅ、えっと、こ、殺すぅ!」
「恥ずかしいぜ?」
「このパソコンぶっ壊す!」
「それはやめて!」
光の速度で土下座する。
パソコンは俺の命よりも重い。
寿命ならばまだしも、破壊されるのだけは勘弁仕りたいところであった。
「――分かればいいのよ、分かればっ」
腕を組み、阿久津が「ふんっ」とそっぽを向いた。
どうやら無事に赦しを得られたようなので、俺は立ち上がり阿久津に告げる。
「よし、じゃあ、気を取り直したところでこのゲームをプレイしてみてくれ!」
「……ったくアンタは。仕方ないわね、分かったわよ」
呆れた様子で阿久津はそう言い、ディスプレイ上の『ゲーム開始』ボタンを
「……」
「……」
「……何も起こらないじゃないのよ!」
何度も何度も画面上の『ゲーム開始』ボタンに指で触れるが、当然ノーパソは反応を返さない。
タッチスクリーンを採用しているパソコンならばまた話は別だが、師匠譲りのこのPCはそんな最先端の技術には縁のない無骨なマシンだ。情報を入力するには、タッチパッドとキーボードを使わなければならない。
俺は阿久津真緒の反応を見て、一つの可能性に思い至る。
「……お前、まさかパソコン使ったことない?」
「はぁ? バカにしないで!」
俺をキッと睨みつけ、彼女は声も高く反論してきた。
「情報の授業で、パソコンだったら使ったことあるに決まってるでしょ!」
「ああうん、デスクトップの方ね……」
阿久津の反応に、ふと師匠と以前交わした会話を思い出す。最近の若者はパソコン離れが著しい、という内容の話である。
曰く、スマホやタブレットがあまりに広く普及し、授業でも一部タブレットを扱うようになったせいで、今の若者の多くはパソコンに触れる機会が非常に少ないらしいのである。
「そのうち、パソコンがタブレットに駆逐される日も来るかもなぁ」という師匠が寂しげに言っていたのをあの時は眉唾物だと思っていたが、その言葉もあながち嘘ではなかったのかもしれないな……。
「で、何!? ゲームをプレイしてくれとか言われても、全然これ動かないんだけど!?」
と、目を三角にして怒る阿久津に、俺は基本的なノーパソの使い方から教えることになるのであった。
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