第6話 ドラミングディグダ

 なにはともあれ、俺は阿久津真緒を近くの公園へと連れ込んだ。


「い、い、いきなり公園? へ、まさか物陰で……? だ、ダメっ、私たちはまだ友達になったばかりなのにそんな急になんて……っていうか、友達ってそういうコト・・・・・・ヤったりしちゃうわけ? でもでもネットでそういうフレンドの形態もあるとかなんとかって記事見かけたことあったような気が……」

「今なんか言ったか?」

「今日も臭い口でアンタに話しかけられて不愉快って言ったのよ」

「お、おう、マジか……」


 公園の四阿あずまやへと向かう最中、阿久津が後ろで妙に早口でぶつぶつ言ってたから問いかけてみれば、だいぶ深めに心を抉る返答が返ってきた。

 一応、ちゃんと歯は磨くようにしているんだけどな……。


「まあ、俺の口が臭いのはどうでもいいこととして」


 と、四阿に辿り着いたところで改めて話をもとに戻そうと試みる俺であったが、すかさず阿久津は噛み付いてきた。


「どうでもよくないわよ! 不潔なキスなんて認められないわ!」

「? なんでキスの話になるんだ?」

「あ、アンタぐらいの歳の男なんて、隙あらば女の唇を無理やり奪うことばかり考えているに決まっているからよ!」

「あながち間違ってねぇから困る」


 師匠の部屋で見たエロ本しりょうとかエロゲしりょうとか同人誌しりょうの数々を思い返すと納得しかなかった。


「……ッ、や、やっぱりアンタ、無理やり私の唇を!?」

「あーはいはい阿久津の思ってる通りです。で、話戻すと、阿久津に見てもらいたいものってのはコレなんだよな」


 阿久津が面倒くさい感じになっていたので適当に流して話題をもとに戻しつつ、通学鞄から目当てのものを俺は取り出す。


 それは、型が古くてもう使わなくなったからと師匠から以前譲り受けた、一世代前のゲーミングノートPCだった。


 世代がやや古いだけあって、重くて分厚いがその分造りはそれなりに堅牢である。中身はさすがにHDDからSSDへと換装してあるが、性能だけで言うならば今でも十二分に実用に耐えうるスペックを備えていた。


「……へ? パソコン? えっと、その、アレ・・じゃなくて?」


 それを見た阿久津が、意外そうに目を見開く。


「正確にはこの中身、かな。ちなみに、アレってなんのことだ?」

「アレなんて言ってないわ」

「いやお前今はっきりと――」

「言ってないわ」


 据わった目を向けるのやめてくれません?

 俺だって怖い時は怖いんだぜ?


「……て、てっきりナニでも見せつけてくるだなんてこれっぽっちも思ってないんだからね」


 あと定期的にめっちゃ小さい声で早口になるよなお前?


「まあなんでもいいや。ちょっとデータ探すから待っててくれよな~」


 目つきが据わったり顔が赤くなったりと忙しい阿久津はとりあえず放置することにして、俺は四阿のテーブル置いたノーパソの中から目当ての.exeファイルを探し出して実行をかける。

 そうして画面に表示されたのは――。


「どらみんぐでぃぐだぁ?」

「おう。急造だけど昨日ようやっと完成してな、エンコードしたてのほやほやだ!」


 Wind〇wsに標準装備のゴシック体フォントで、『Draming digder』とデカデカとタイトルが銘打たれている、俺の自作ゲームのタイトル画面だった。

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