雲の国へ

「トルディーナ様」


「ひゃっ!?」


突然、短髪白髪の、顎に、たわわに白髭を蓄えた、まるで、これから、誰かの結婚式ですか?と言った…嘘。なんて言えば良いの?こんな格好してたら、つかまっちゃいますよ?と、助言したくなるほど、薄い生地で青いラインが胸元の生地の形に合わせて縁どられ、多分、多分だけど、もう80歳は超えてなさるだろう…と言うのに、ショートパンツ姿のおじいさん…。ちょっと、仙人ぽく杖をついて、私の名前…ん?名前?





「今、ト…」


「トルディーナ様」


「あの…私、富永爽嬉と申しまして…」


「それは、こちらに転生する前のお名前でございます」


「あぁ…そうですか…。………………転生!?」


私は、言いたくはないが、頭が悪い。成績も、下の中。親からももう少し勉強したら?と、毎日のように言われるほどだ。だから、と言う言葉に、すぐには頭が追いつかなかった。


「は!?転生!?転生って何!?あなた誰!?嫌!!私、こんなとこ嫌!!あ、そうか!!夢ね!!夢だわ!!!あー、早く醒めないかなーーーー!!!???」


私は、認めたくなくて、認められるはずがなくて、1人で恥ずかしいほど大声を出して、自分の願いを口に出し続けた。


そんな私を見ても、全く動じず、その変な格好のおじいさんは、ペラペラペラペラこれは夢だ、これは錯覚だ、これは何かの催眠術だ、と、1人ギャーギャー騒ぐ私をじーっと静かに見つめていた。それはもう、優しい瞳で。


『良いんだよ。落ち着くまで、騒いでいなさい。それまで、いつまででも待っていますからね』


みたいな、とても優しい瞳をして…。



何分ほど、1人、騒いだだろう?いや、十何分…いや、何十分かも知れない。そして、やっと、私は、静かになった。そして、改めて、聞き直した。




「あ…の…転生って、…嘘…か、冗談…ですよね?」


願いと希望をを込めて、私はおじいさんに言った。


「嘘でも、冗談でもございません。トルディーナ様」


「ト、トルディーナ…って、私の…名前、ですか?」


「はい。あ、申し遅れました。わたくし、雲の国の王子、アイオ様にお仕えさせていただいています、ハイセル、と申します」


「ハイセル…さん…ですか…」


「どうぞよろしくお願いいたします」


「ど、どうぞ…って!どうぞじゃないですよ!!私、転生って、どういうことですか!?」


私は、また動揺し始めた。これは、私の性分だ。…いや、こんな時は、誰だってこうなる!!絶対なる!!


「転生の理由は…アイオ様から、直接お聞きください」


「ですから、アイオ様って誰ですか!?」


一応、訳の分からない状況だけれど、年上の人には、敬語を使う。馬鹿でもそれなりに、敬語は大切にしてきたつもりだ。だからって、こんな時は、敬語を使わなくて良いんじゃないか…って、自分で突っ込みたくなった。


「雲の国の王子でございます」


「く、雲の…国の…王子…?」


何かのギャグだろうか?王子?はっ、そんな人、関わる機会なんて、この私の人生にあってなるものか!…と、何やら、訳の分からない怒りが湧いてきた。


「冗談はやめていただけますか!?私、そろそろ帰りたいんですけど!!」


「…残念ですが…、トルディーナ様は、もう。転生前の世界に戻る事は不可能でございます…」


ハイセル…さんが、申し訳なさそうに頭を下げる。…冗談じゃない!!帰れないって何よ!?空の姫!?それって益々何よ!?もう、頭が爆発しそうだ―――…。

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