第5話 簡単に無双が出来るほど異世界も甘くはなかった
「すごいわぁ~どこにあんな力隠していたの?」
「ふっふっふ……どこでしょ~? ここでーす!」
そう言っておどけながら桃は自分を指さした。魔力量の測定器を壊したことは咎められなかったで気も晴れている。
「あは! あはは! うふふふ……ご、ごめんなさい……」
リディアナはまだ笑いながら、相手を笑うのは失礼だとばかりに謝った。
「えーウケるの嬉しいからいいのに~」
こんなレベルで笑ってもらえるのは嬉しい。だがリディアナは淑女としての教育を受けているのか、お行儀には少々厳しいようだった。
「はっ! 下品なやつめ」
「はっ! その下品以下の魔力の男がなんかほざいてるわ!」
今回はアレンの嫌味に即返事をする。
「魔力だけで魔法を使えると思うな!」
「え。そうなの?」
素直に尋ね返す。確かに、魔力があるのはわかったが、それからどうやって魔法を使うのかはわからないままだ。
「ほらみろ! 魔法も使えずにこの学院に居座るとは図々しい」
「いやそれはあんたらが召喚失敗したせいだって話じゃん?」
結局アレンは言葉に詰まるのだった。
(こいつ、なんでこんなに口喧嘩弱いのに仕掛けてくるんだろ?)
その答えを教えてくれたのは、リディアナと同じく校長に指名され、桃の世話係になったピコーネ・マキアが教えてくれた。
「それは貴女以外誰からも言い返されたことがないからね」
「はぁ~そんなにあいつん家すごいんだ」
寮の休憩室で先ほどの授業と同じく、ピコーネと桃は向き合って両手を繋いでいる。彼女は主に魔力コントロールを教えることになったのだ。
「ほら、また乱れてるよ。集中して」
「スミマセン……」
今度は黙って体全体を集中させ、魔力の流れをコントロールする。
「あーだめだめ。喋りながらでもできるようにならなきゃ」
「そういうものなの?」
「そういうものなの」
ピコーネの授業はなかなかスパルタだったが、桃は少しも弱音を吐かず、それどころかもっともっととせがむのだった。
「もういい加減部屋に帰るわ!」
「えぇ~もうちょっと付き合ってよ~」
「私だって忙しいの! 校長にアピールできるから手伝ってるだけってこと忘れないで」
「そんなツンツンしないでさ~楽しかったでしょ~?」
「そ、そんなことない! また明日付き合ってあげるわよ! じゃあね!」
そう言って、ずんずんと大股で自室へと帰って行った。
ピコーネはとても優秀な奨学生だった。高額な学費も寮費も全て無料だ。だがそのためにたくさん努力をしていた。なのにポッと召喚されただけの桃が自分と同じ待遇なのが正直あまり面白くなかった。
(悔しい~……でも楽しかった……なんでだろ?)
桃相手だと素の自分が出せた。それがとても楽で、開放的だった。この学院に入学する前からずっと気が張りっぱなしだったのだ。なんの後ろ盾もない一般家庭出身のピコーネは、ここでいい成績を残して、いいところに就職したかった。
彼女の母はすでに亡く、3つ下の弟は病弱だった。お金もかかる。それを弟がとても気にしているのも辛かった。もちろん父親は一生懸命仕事も家庭もうまく行くよう頑張ってくれているが、ピコーネも早く家族の役に立ちたかったのだ。
「はぁ……明日の予習しよ」
ため息はついたが、どうも口角があがったままだった。そうしてピコーネはいつものように夜遅くまで勉強を進めるのだった。
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