第4話 魔法の授業で異世界人の本領発揮

 今日はとりあえず見学という扱いだが、桃はリディアナの授業についていっている。今は『基本魔法学Ⅰ』の授業だ。座学も実践もある、学生の必修科目の1つになっている。女性教師のバークは表情筋が仕事をしていない。


「魔力量の測定方法は……であるからして……」


 バークがどこからともなくベルガーが使っていたものと似た、大きな宝石がはめ込まれた杖を取り出した。


(おお! あれって魔法の杖だったのか)


 杖で黒板に文字を書いている。桃が見たこともない文字だ。なのになぜか読める。ちなみに、桃が書いた日本語も英語も、リディアナは読むことができた。


(魔法って便利ね~)


 これは召喚術の副産物だということがわかった。召喚術によって召喚されたモノは、あらゆる方法においてスムーズに意思疎通できるようになっているのだ。相手が恐ろしい怪物でも、召喚術で呼び出してしまえば言葉を交わすことが出来る。


 今日の授業は桃にもそれほど難しく感じるものではなかった。魔法使いが持つ、魔力量の測定方法や測定に適した時期や環境など、最新の情報も交えての授業のようだ。


(魔力が魔法のエネルギーになるわけね)


 フムフムと話を聞きながら頷く。リディアナは意外と真面目に授業を聞く桃を横目で見て小さく微笑んだ。


「では、試しに誰か魔力を量ってもらいましょう」


 バークがそう言って講堂を見渡す。いつの間にか大きな測定器を魔法で出していた。水晶玉のような丸くて透明のものが内側で光を抱えながら歯車を回している。


「先生! ここでそれを使ったことがない人に使ってもらいましょう」


 悪意に満ちた声を上げたのはアレンだ。リディアナが眉を顰める。彼女は桃が魔法を使えないことを本人から聞いていたのだ。

 異世界からやってきた桃はすでに学院内の噂になっていた。魔法が使える世界と言えど、異世界から人間がやってくることはないのだ。アレンはすでに桃が魔法が使えないという情報をどこからか仕入れ、先ほどの仕返しとばかりに恥をかかせようとした。


「ちっさい男!」


 桃は呆れるように言った。もちろん、他の人間にも聞こえるように。

 別に桃は自分が魔法を使えなくても恥とは感じない。なぜならそれがの価値観の中で暮らしてきた。まだ半日しかいないこの世界の価値観に染まってはいない。


 バークの方はアレンの言葉も一理あると桃を呼び寄せた。


「どうぞ」

「はーい」


 桃は堂々と壇上へ上り、バークに言われる通りに手形が彫り込まれたプレートに掌を合わせる。


「では、魔力を込めて」

「いや、それがわからないんですが……」


 クスクスと笑う声がする。魔法が使えない人間など存在しないこの世界で、桃は珍獣扱いだった。


「……失礼。まずは魔力の流れを確認しましょう」


 そう言って、バークは桃と向き合い両手を繋いだ。この教師は別に桃を馬鹿にするつもりなど少しもない。ただ実直に授業を進めている。


「クク……3歳児かよ……」


 わざとらしく笑い声を響かせるアレンの取り巻きの声が聞こえる。そしてそれにつられるように笑い声が。もちろん桃は少しもそれが気にならない。それよりも今の状況に感動していた。


「おぉ……すごい! これ? これです?」

「そうですそれです」


 体の中をこれまで感じたことのないエネルギーがぐるぐると循環しているのを感じた。


「今は私の魔力を流し込んでいます。手を放しますので、今度はご自分の魔力の感覚をつかんでください」

「はーい!」


 桃はご機嫌に返事をした。彼女を笑っていた連中は全く意識されていないことに気が付き、ムっとしている。


(ああ~これか! すごい! 魔力あるんじゃん私!)


 それが元々あったものなのか、異世界にきたから生じたものなのかわからないが、桃はとてもワクワクした気持ちになっていた。


「じゃ! いきまーす!」


 この感覚がなくならないうちにと、桃はもう一度測定器に掌を押し当てた。


「……!」


 次の瞬間、測定器は刺すような大きく激しい光を出し、講堂中を飲み込んだ後、バーン! と爆発音を立てて吹っ飛んだ。白い煙も上がっている。


「え……これ私? 私がやったことになる?」


 桃の目の前には何やら黄金に光る魔法陣が浮かんでいた。このお陰で一切怪我をせずに済んだのだ。講堂の席の方にも同じように魔法陣があった。バークはすぐに異変に気付き防御魔法を張ったのだった。


(えぇ~どうしようこれ! 弁償!? 無一文なのに!?)


 派手に壊してしまい桃は焦ってしまう。


「えへ……どうしたんですかね? これ?」


 笑って誤魔化す作戦に出た。あくまでこの測定器側に問題があるとアピールしたかったのもある。


「……貴女の魔力が規格外だということでしょう」


 教室中がざわついた。あの爆発が起こってすぐ、きっとそういうことだろうと想像していた生徒たちがバークの言葉に確信を得て興奮している。


「すごい! 異世界人は皆これほどの魔力を秘めているのか!?」

「これだけあればどんな魔法も使い放題じゃないか」


 測定器が壊れ、轟音に他の教室からも人が集まっているというのに、ほんのり笑顔を浮かべるバークを見て、桃はどう反応するか迷った。


「それって……いいことです?」

「当然です」

「やった~!」


 大袈裟に喜んで、アレン達の方へ向かってピースをする。


「今日はなんて騒がしい日だ!」


 アレンは忌々しそうにそう言ったのだった。 


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