第2話 責任をとって生活の保障してください!

 ジークボルトは桃の向かいのソファに座り、ゆっくりと今桃の身に起きていることを説明してくれた。後ろには、先ほどの銀髪男性が立っている。緊張した顔のまま。


「モモさん、貴女は我が校の召喚術の授業で誤って召喚されてしまったようです」

「と、言いますと?」


 ジークボルトは桃の返事に思わずふふ、と笑った。


「ここは貴女がいた世界とは別の世界。モモさんからすると、異世界へ転移してしまったことになります」

「マジか~」


 桃はすでに薄っすらそうではないかと思っていたが、断言されると実感がわく。


「それで、いつ帰してくれるんですか?」


 ジークボルトはチラっと銀髪の男の方を見た。


「紹介が遅くなって申し訳ない。彼は召喚術を担当しているベルガー先生です。先生、君からなにかあるかね?」

「あ……召喚獣は術者の魔力が切れるか、召喚の目的を達成したら自然に元の世界へ帰るはずなのです……ですがモモさんが召喚されてまもなく30分……」


 壁にある、大きな時計を確認した。


「人型の召喚ともなれば莫大な魔力が必要だな」

「はい。生徒たち、もちろん僕でもここまでの維持は難しいでしょう」


 校長はフム、と考え込み始めた。


「え!? それって帰れないってこと!?」


 桃の言葉にベルガーは答えられない。どうやら罪悪感で一杯のようだ。


「そもそも何を召喚しようとしてたんだい?」

「生徒たちを楽しませる花の妖精です。生徒全員でその1体を召喚する予定でした」


(花か~まあ桃って名前だけど! 妖精キャラじゃないわね)


 召喚術は大変高度な魔法なため、本来なら簡単にアレコレと召喚は出来ない。今回はデモンストレーションとして生徒全員で小さな妖精クラスを召喚予定だった。

 桃は少しだけ悩んだ。今後どうするか、どうやって生きていくか。


「オッケー! じゃあベルガー先生、出来るだけ早く私を元の世界に戻す方法探してください!」

「え!?」

「え? じゃないですよ! 先生の授業での出来事でしょ! 責任持ってくださいね」

「いや、それはもちろんなんだがその……いや、本当に申し訳ない」

「本当ですよ~勘弁してください!」


 ベルガーは責め立てられると思っていた。なのに桃はあっけらかんと次の事を考えている。自分が受け持つ生徒たちと年齢はそう変わらないだろう。だが、どうにもサッパリしすぎている気がした。


「で、校長先生」

「なんだい?」


 ジークボルトの方は面白そうにしている。今のやり取りが気に入ったようだ。


「校長先生ってほら、ここで一番偉いんでしょう?」

「まあそうだね」

「じゃ、監督者責任ってことでここでの私の生活を保障してくださ~い!」

「アハハ! そりゃあそうですね。でもそれならいい方法が」


 指をクルクルと回すと、空中から大きなトランクが現れた。


「おお!」


 再び見る魔法に桃は楽しくなる。


「この中にこの学院で過ごすために必要なものが一式入ってます。まあ日常生活で必要なものも後で渡さないといけませんが」

「と言うことは、私はこの学校で過ごすってことですか?」

「ええ。全寮制だから住むところにも困らないですし」


 だが一番の問題がある。


「私、魔法なんて使えないですけど」

「ええ!?」


 驚いたのはベルガーの方だ。校長はやはりそのことはわかっていたようで、表情は相変わらずにこやかだった。


「魔法が苦手、というわけではなくて?」

「はい。全く少しもこれっぽちも使えません!」

「モモさんの世界はどうやって暮らしていってるんですか!?」

「まあ失礼な! 十分文明的な暮らしを送ってますよ!」


 そのやり取りをジークボルトは大笑いで見ている。


「こ、校長……!?」

「いや失礼……2人のやり取りが微笑ましくってね……モモさん、大丈夫。貴女は魔法を使えます。それはすぐにわかるでしょう」

「マジ!?」


 桃は先ほどジークボルトがやっていた通り、指を鳴らしたり、くるくるまわしてみた。


「なにも起こんないし!」

「まあそれには勉強がいりますが。ここで学んでください」

「やっぱりいるのか~勉強!」


 せっかく逃れたと思ったが、異世界に行っても勉学は必要なようだ。


「遊んで暮らして待ってるんじゃダメですか~?」

「せっかくなのでこの世界、堪能してください。いいところですよ」


 校長の言った通り、桃はすぐにこの世界を気に入るようになるのだった。





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