魔法学校の授業の一環として異世界に召喚されました

桃月とと

第1話 体育祭練習後の授業は眠たい

 まだ5月なのに暑い。天気予報では今日は夏日だと言っていた。2年3組の教室の中は、眠気に抗う者、自分の意志に関係なく瞼がくっつく者、全てを諦め机にうっつぷしている者がいた。


 宮原 桃みやはら ももは2番目。頬杖をついていたらいつの間にか目を瞑っていた。


「宮原~」

「フガッ!」


 数学教師に名前を呼ばれ覚醒するも、今自分がどこにいるのかも一瞬わからない。ぼんやりと目の前の黒板の数字の羅列をみて、


(ああそうだった……)


 今が体育祭の練習後の数学の授業中だということを思い出したのだ。


「わかりません~」

「だろうな~」


 教師側も生徒たちの疲労がわかっているからか、それほど煩くは言わなかった。


「この辺テストでよく出るところだからなぁ~ちょっと頑張れよ~」

「は~い」


 突然、緩い返事とは真逆の、鋭い光が桃を包む。


「なに!?」


 流石にはっきりと目が覚めた。教室中がざわついているのが見える。教師が目を丸くして駆け寄り手を伸ばそうとした瞬間、桃は教室から姿を消した。


 まぶしい光がやっと収まり、目の前を見ると何やら外国の子達に取り囲まれている。


「なに!?!?」


 思わず喧嘩腰に叫んだが、桃は混乱していた。どう考えてもここは日本の中学校ではない。建物は石造りのようだし、天井も高い。そして足元には魔法陣のようなものが。


「ま、魔人だ……!」


 金髪の青年が声を上げた。


「皆下がって……!」


 この部屋で唯一の大人である銀髪の男性が、生徒たちと桃の間に立つ。何やら大きな宝石がはめ込まれた長い棒を構えていた。


「何それ〜初対面の人の悪口ー? 感じ悪っ!」


 そしてキョロキョロと周囲を改めて見渡す。やはり見覚えがない。


「て言うかここどこ? 外国? なんかの撮影所?」

「き、君はいったい……」

「私? 私は宮原桃。あ、違うか? マイネームイズモモミヤハラ?」


 その時やっと桃は気がついた。


「あれ!? 全員日本語ペラペラじゃん!」


 すご〜い、と1人感動していたが、部屋の中はまだ緊張に満ちている。能天気なのは桃だけだ。


「君は魔人じゃないんだね?」

「魔人じゃないですよ〜」


 魔人が何かはわからないが多分怖いナニカなことは彼らの表情を見てわかった。その時急に大きな木の扉が開いた。男が1人、真面目な顔をして入ってくる。


「校長……!」


 校長と呼ばれた男はさっと手を上げ、銀髪男性の言葉を止めた。そうしてにこっと桃に笑顔を向けたのだ。


「はじめまして、異世界からいらしたお嬢さん。私はウィステリア学院の学校長、ジークボルトと申します。貴女の現状をご説明しても?」

「是非とも!」

「では」


 そう言うと、桃を別室へ案内した。銀髪の男も急いでついてくる。


(ここの校長先生って若いんだなぁ)


 桃が知っている校長はそのほとんどが孫がいそうな年齢の姿だ。だが、ジークボルトはそうは見えない。せいぜい自分の父親と同世代と言ったところだろう。


(ダンディーってやつだ!)


 あごひげもある。


「どうぞおかけください」


 それに桃にもとても丁寧だ。言われるがまま、校長室と思われる豪華な部屋のふかふかなソファに腰をおろした。

 ジークボルトは指をパチンと鳴らす。


「うわっ!」


 急に目の前に湯気のたった紅茶とクッキーが乗せられた皿が現れた。もちろん桃は驚いた。今日一番の驚きと言ってもいい。


「魔法!?」

「ええ。私は魔法学校の校長ですので」


 いったい自分の身に何が起こっているのか、ついに桃はちゃんと考えなくてはならない。

 



 










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る