THE 3rd STORY『愚鶹霧-グルム-』
EP5『愚鶹霧-グルム-』前編
「フォルテ
右手に黒板消しを持った
彼が問い掛けた先には、教室の窓にもたれ掛かる
「そっか……アンタは知らないんだっけ。」
乃蘭は面倒臭そうに窓の外を見つめた。
すると、暁人と共に
「
「二種類?」
夢月は消したばかりの黒板に、赤いチョークで絵を描き始めた。
その絵は
すると今度は白いチョークに持ち替え、再び同じ怪物の絵を描いた。
「こちらの赤い方が、一宮くんも馴染みのある『メゾ
「メゾ
「メゾ
夢月の言葉に、暁人は疑問を抱いた。
「僕……普通に襲われたんだけど……それに」
苦笑いを浮かべながら話す暁人は、今まで目にした三体の
「今のところ、全部襲われてる……。」
母を亡くした日、入学式の登校中、そして見学と
そのどれもが、暁人を襲って来ていた。
「アンタの運が悪いだけじゃない?」
乃蘭は他人事の様に言い放った。
「運なの!?だったら、相当悪いと思うんだけど……。」
「安心して下さい。これにはちゃんとした理由があります。」
夢月が優しく
「メゾ
「そうだったんだ。」
夢月のその言葉に、暁人はどこかホッとした様な表情を浮かべた。
乃蘭はそれを、目を細めて見つめた。
すると暁人は、両手を叩いて笑顔を浮かべた。
「その情報があれば、一般人が
暁人は笑顔で夢月を見つめた。
しかし、彼女は表情を一切変えず、静かに目を閉じた。
「一般人が
「……え?」
「現に、
「そんな……」
暁人は驚いた。
何故なら、彼女の言葉が矛盾しているからだ。
「でも……さっき
「メゾ
暁人は大きく目を開いた。
唖然とする暁人に対し、乃蘭は溜め息を吐いた。
夢月はそんな暁人を他所に、話を続ける。
「
夢月の問い掛けに対し、暁人は無言で頷く。
「それでは……人間の体内に流れる血液が尽きた場合……いや、食い尽くした場合……
そう問い掛ける夢月の瞳はとても冷たく、暁人の背筋を一瞬にして凍らせた。
「……まさか……」
暁人は黒板に描かれた、白い方の
「一宮くんの想像通りです。メゾ
「なっ……!?」
「フォルテ
「どうして……肌が白いの?」
暁人の問いに対し、思わず乃蘭が口を開く。
「そこ!?……普通、驚くとしたら体がメゾの倍以上あるってとこでしょ!」
「あ……そっか。」
「いや、案外いい所に目を付けましたよ。」
「え?」
夢月の意外な発言に、暁人は驚いた。
「『
「えっと……確かウイルスが人体の血液に侵入して、血管を突き破って
「おおよそは合ってます。ウイルスによって汚染された血液が血管を破裂させ、体内を侵食します。そして、肌を赤く染めた『メゾ
「完成って……料理みたいに言うな!」
「乃蘭ちゃん……茶々を入れないでくれる?」
夢月は乃蘭に向かって、目を細めて言った。
「話を戻します。何故、フォルテ
淡々と説明する夢月に対し、暁人は
するとその時、教室のドアが勢いよく開いた。
突然の事に、三人は思わず姿勢を正して驚く。
「そして今回の任務は……波動士十六名を殺害している『フォルテ
言い放ったのは、満面の笑みを浮かべたセダであった。
【THE 3rdSTORY『愚鶹霧-グルム-』】
「セダ先生!?」
「毎回いきなり現れるの
「先生、今の話って……」
三人は各々、別の反応を見せた。
するとセダは、最後に放った夢月の質問に対して答えた。
「
すると乃蘭は両手を合わせ、目を輝かせながらセダを見つめた。
「えっ!それってお給料が上がるって事!?」
現金な態度の乃蘭に、夢月は冷たい視線を浴びせる。
するとセダは、苦笑いを浮かべながら乃蘭に指摘する。
「こらこら。お給料じゃなくて
その言葉に対し、暁人は質問を投げ掛ける。
「
「あぁ……一宮君には、まだ説明していなかったね。ここ波動士学園は、国から全面支援を受けて成り立つ学校なんだ。だから
「見返り……?」
「
「なるほど……」
大きく頷き、納得した様子の暁人は、再び口を開いた乃蘭に視線を向ける。
「要するに……これまでの私達の活躍が認められて、
乃蘭は嬉しそうな笑みを浮かべてセダに投げ掛けた。
しかしセダはそれに対し、大きな溜め息を吐いた。
「乃蘭ちゃん……何度も言ってるが、
セダの落ち着いた言葉に、乃蘭は表情を強張らせる。
「条件……?」
するとセダは人差し指を立て、乃蘭の前に突き出した。
「教員不在による『生徒のみでの
……これが
セダの言葉に対し、暁人は目を見開いた。
対して乃蘭と夢月は、意外にも冷静な面持ちでいた。
「教員不在って……僕たちだけで
「そう言う事だね。」
驚きのあまり呆然とする暁人とは裏腹に、乃蘭は何故か笑みを浮かべていた。
「なぁんだ……危険って言うから、もっと凄い条件だと思ってた。」
軽々しく発言する乃蘭に対し、セダは少し目を尖らせる。
しかし乃蘭は続けて話す。
「一宮は
「乃蘭ちゃん……」
夢月は困り果てた様子で乃蘭を見つめる。
するとセダは、一拍置いた後に再び話始めた。
「ま!君達が俺無しでも制圧出来るとすれば、メゾ
セダは乃蘭を優しく諭した。
乃蘭はどこか、もどかしい気持ちを苛立ちに変え、その
嫌悪感を滲み出しながら、鋭い目付きで彼を睨んだ。
「な……何……?」
「……べつにぃ。」
そう言ってそっぽを向くと、どこか思い詰めた表情を浮かべた。
するとセダは、両手を叩いて大きな音を立てた。
「さて、話が
「それが……今回の任務の……?」
「さっすが夢月ちゃん!もう一つ
穏やかに話すセダとは裏腹に、暁人は唾を飲み込む。
するとセダは、そんな暁人の様子から全てを悟った様に話し始めた。
「その様子だと、フォルテ
「波動士を十六名も殺害するなんて……一体、どんな
乃蘭が表情を強張らせて言った。
セダは、立てた人差し指を
「俺の
セダの言葉に、夢月と乃蘭は、あまり納得のいかない様子だ。
「群れ……?」
「でも
「殺害された十六名の波動士は、それぞれ四人小隊で動いていた。つまり、四つの小隊が全く歯も立たず、返り討ちにあったんだ。」
「確かに……。四人小隊での出動条件は、教員相当の力を持った波動士が一名以上隊に加わっている事。いくら相手がフォルテ
夢月は軽く握った右手を口元に当てて言った。
しかし、二人にはまだ納得のいかない点が存在した。
故に乃蘭がセダに問い掛ける。
「だとしても、
思い詰めた二人の表情に、暁人は素朴な疑問を投げ掛けた。
「
それに対し、乃蘭は鋭い目付きで暁人を睨み付けた。
暁人は咄嗟に両手を挙げ、悪意は無い事を全力で示した。
「ご……ごめん!ちょっと気になって……」
「共喰いだよ。」
セダが暁人の言葉を遮った。
「共……喰い……?」
「
「……かなり
「厄介なのが、
「なっ……!?」
「だから単にメゾ
暁人は小刻みに何度も頷いた。
するとセダは、再び両手を鳴らし、場の空気を切り替える。
「まぁ、ここでグダグダ話してても、何も解決しないからね!取り敢えず十分後に校門に集合ね!」
「ちょっ……そんな危ない任務……一宮を同行させていいんですか!?」
教室を出ようとするセダを乃蘭が呼び止める。
するとセダは、背を向けたまま右手を軽く振って見せた。
「大丈夫大丈夫!俺がついてるから!」
そう告げると、セダは教室を後にした。
嵐が過ぎ去ったかの様に、教室内は静寂に包まれた。
そんな中、乃蘭は大きな溜め息を漏らした。
「はぁ……。」
「どうしたんです?乃蘭ちゃん。」
夢月が優しく問い掛けると、乃蘭は暁人に向かって勢いよく指差した。
「こいつのせいで私の
「ご……ごめん。一日でも早く立派な波動士になれる様に努力するよ……。」
あからさまに気を落とす暁人に、夢月は優しく語り掛ける。
「一宮君のせいではありませんよ。私達もまだまだ未熟です。セダ先生は、そこも含めて判断したんだと思います。」
「夢月ちゃん……。」
暁人は涙目で夢月を見つめ、乃蘭は二人から目を
校門に集まった三人は、セダの到着を待つ。
乃蘭は腕を組みながら仁王立ちする。
その格好は、不機嫌な態度を際立たせている。
そんな乃蘭の様子を、暁人は横目で
間に挟まれた夢月は、二人を交互に見つめる。
遅れてセダが駆けつけると、三人はセダの着ている服装に注目した。
いつものスーツに革靴では無く、白のボーダーラインが入った黒のジャージを上下に着用し、スポーツシューズを履いている。
乃蘭は
「先生……何その格好……」
「ん?あー、これか?一応動きやすい格好の方がいいと思ってね。何せ相手はフォルテ
すると暁人はセダに問い掛ける。
「フォルテ
暁人の質問に対し、セダは優しく微笑んだ。
「そうだなぁ、分かりやすく例えるなら……」
そして右の
「メゾ
【…
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