瞬殺

「はじめッ!」


 二本目が始まった。


 國井の予想通り、ありったけ攻めていた佐々木だったが、胴を打ち抜かれて警戒が露わになった。


 図体の大きい相手が護りに入ると、途端に隙が小さくなる。

 脇を締めて、サラがじわじわと接近すると、竹刀を喉元に突き出して、後ろに下がった。


 観客席では、サラの家族がハラハラとした様子で見守っている。

 妹のクラリスは興味なさげだったが、姉の活躍を見て、いつの間にか柵に寄りかかり、國井の隣でサラを見守っていた。


「なに、あいつ。逃げてんじゃん」

「ふん。嬢ちゃん。あれ、臆病なってんだろ?」


 國井は笑みを浮かべ、説明してあげる。

 説明、というよりは予言に近いか。


「ああなったら、もう終わるぞ」

「へえ」


 サラはじわじわと近づき、相手が逃げるものだから、やり方をすぐに変えた。


「ウ、ルアアアアッ!」


 気合を叫び、隙を丸出しにして竹刀を振りかぶった。


「ふぎっ!」


 サラの気迫と面打ちの動作に反応し、佐々木は竹刀を持ち上げた。

 振りかぶって突進するサラに対し、防御の姿勢で凌ごうとしたのだ。


 しかし、佐々木の対応は空振りした。


 振りかぶったと思った竹刀は、突然軌道を変えたのだった。

 真横に弧を描き、面ではなく、他の箇所に目掛けて振り下ろされる。


 ――またしても、胴の弾ける音が試合場に響き渡る。


「胴ありッ!」


 即刻、審判が赤旗を上げ、あっという間に雌雄が決した。


 何が起きたかといえば、簡単な事。

 先ほどは面を返す形で胴を狙った。


 今度は、面を打つと、胴を打ち抜いたのである。

 臆病になった相手は、必要以上に打突を警戒するから、対戦者の動きに敏感になってしまう。


 これを逆手に取る事ができれば、隙を作らせることは簡単だった。


「おおおおお! お姉ちゃん、勝った!」


 相手を瞬殺したサラに、妹は目を丸くして興奮した。

 一礼して、試合場を後にするサラを目で追いかけ、予想以上の強さに興奮したクラリスは、後ろで見ている両親に振り向く。


「お姉ちゃん強くない!?」


 これには、全力で教えてきた國井が、自分事のように嬉しくなった。

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