二回戦

エール

 面を脱がずに二階へ向かうサラは、片手を挙げて、「すいません。すいません。通ります」と、人混みを掻き分けていく。


 正面の出入り口から廊下に出て、東の階段を上がれば、國井達の待つ観客席に辿り着く。


「ふぅ。……あんまり手応えないな」


 わざと打突を外された場所が痒くて、小手をした状態で腕を掻く。

 それから人の流れに逆らい、廊下をひたひたと歩いた。

 その時だった。


「あ、あの!」


 声がしたけど、サラは気づかずに前を行く。


「ちょ、待って。えーと。あー、名前分からないよぉ!」


 背中をポフポフ叩くと、やっとサラが気づいて振り向いた。


「はい?」

「さっきの試合。すっごい良かったです!」

「……え”」


 サラは固まった。

 ボブカットの可愛らしい女の子が、目をキラキラさせて声を掛けてきたのである。


「私、北高の石巻です。石巻、アズサ」

「え”」


 身長は頭二つ分違った。

 今時の女子高生って感じが、雰囲気から伝わってくる。

 一方で、真っ暗な日々を人生の大半で埋め尽くしたサラは、初めて同性から好意的な眼差しを向けられ、手が震えてしまう。


 石巻が垂れを確認すると、


更木さらき、……さんですね」


 歯をにっと見せて笑い、石巻がエールを送る。


「がんばってくださいっ!」


 眩しかった。

 自分は非常に汗臭いのに対して、石巻からはふわりと制汗剤の匂いが漂ってくる。肌はぷにぷにしていたし、唇はぷるっとしていて、どこを見ても『女子』といった感じだ。


「あ……が……あ……」

「そ、それじゃ!」


 頭を下げ、石巻は小走りで人混みを掻き分け、自分のいた観客席に戻っていく。残されたサラは呆然と立ち尽くした。


 面で隠れて見えないが、顔が真っ赤に染まっていた。

 耳まで赤く染まり、のである。


「お、女の子って、……可愛いんだ……。はっ。わ、私も女なのにッ!」


 謎の敗北感を味わい、サラはトボトボとした足取りで二階へ戻った。

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