目を惹く試合

 國井は顔のニヤケを必死に抑えた。


(偽物野郎が。お前らと違って、サラはなぁ。習ってんだよ)


 拙い動きは絶対に許さない。

 まず、自分は未熟者よわいである、と自覚することから、稽古を重ねていく。


 長身で筋肉はついていても、女子は女子。

 力で勝負をしたら、絶対に崩される。

 挙句に、普通の稽古では防具以外を打たれると怯んでしまう。


 だからこそ、國井は暴力ではないか、というくらいに苛烈なしごきをサラに与えていた。今のサラにとって、相手の邪心による打突は、なのである。


 國井が喜ぶ一方で、サラの家族は開いた口が塞がらない。

 娘の戦う姿を観にきたのはいいが、まさか自分の娘が聞いた事もない声を発し、男相手にぶつかっていくだなんて、数年前の様子からは考えられなかった。


「お姉ちゃん。強いの?」

「え? ええ。たぶん……」

「一本取ったね。うん。一本」


 ルールなどは、よく分かっていない。

 だが、何かとんでもない事が起きているのは、素人目にも分かった。


 東側の観客席で、サラの家族たちが呆然とする一方。

 西側の観客席では、石巻が握り拳を握って、自分事のように喜んでいた。


「わっは! すっご! 何、あの子!」


 まるで、自分の悔しさや怒りが、具現化したかのような存在に感じられた。同時に、「女子は男子に勝てない」という、どこから流れてきたのか分からない一方的な論調を吹っ飛ばしたのだ。


 観客の三分の一は、サラに注目していた。

 それだけ大きな気合と迫力があり、目を惹く試合だったのだ。


「んー、名前、見えない」


 垂れの前に苗字が書いてあるのだが、二階からはよく見えなかった。


「名前は分かんないけど。がんばれっ!」


 石巻は、久々に歯を見せて笑った。

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