総体予選

誤解

 一番後ろの窓際席で、サラはスマホと睨めっこをしている。

 他の生徒たちは「昨日の動画見た?」とか、「北高の男子とデートなんだぁ」とか、会話に花が咲いていた。


 教室の中で思い思いに過ごす生徒たちの中には、サラが気になっている子達もいる。


 サラの端正な顔立ちは、やはり白人独特の彫りが深い形だ。

 テレビで見かけるようなモデルとは比べ物にならない。

 横から日の光が当たり、顔の陰影がくっきりと分かれると、美しさが際立ち、話しかけづらかった。


 外国人の顔立ちで、真顔というのは、本当にとっつき難いのだ。


「怒ってるのかな?」

「何か、怖いよね」


 というのが、一般的な反応である。

 もちろん、悪気はない。

 話しかけようと考えた生徒たちは、入学当初はいたが、今では遠くから眺めて、綺麗な顔立ちを眺めるだけ。


 一方で、サラは眉間に皺を寄せて、スマホの画面をジッと見つめる。

 見ているのは動画だ。


『シャーッ』


 蛇の捕食動画である。

 別にこういう趣味があるわけではないが、必要な事なので、ずっと捕食する瞬間だけを脳に焼き付けていた。


「ねえ。話しかけてみよ」

「えぇ、やめておこうよ。なんか怒ってるし」

「ずっと一人じゃん。可愛そうだよ。ほら」


 廊下側の席から女子が数人やってきた。

 サラは何も気づかずに、アオダイショウがカエルに食らいつく瞬間を夢中になって、脳裏に焼き付けている。


「さ~らきさんっ」

「え?」

「何見てん――ひっ!」


 ぽかん、とした顔で振り向くサラ。

 スマホではヘビがカエルに噛みつき、巻き付いているだいしゅきホールド最中だった。


 ゲコゲコとぎこちない鳴き声を発するカエル。

 ギチギチと締め付ける蛇の姿は、年頃の女子高生には刺激が強かった。


「……キモ」

「へ? え?」


 いきなり気持ち悪い呼びされ、サラはショックを受けた。

 女子の一人はサラではなくて、画面に映る明らかに気色の悪い光景に対して言っただけだ。


「ご、ごめんね」

「ほら。やっぱり、怖い人なんだって」


 席に座ったまま、サラは呆然と離れていく女子達を見送った。

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