得意技

 防具を付けての稽古は、スパルタ高と同じか、それ以上だ。


「バカヤロウ。何で、頭打ってこないんだよ!」


 竹刀を乱暴に振り、頭を何度も叩く。

 叩いた後は、拳で胴を叩き、頭の横を叩いた。

 始めは泣きべそを掻いていたが、今のサラは『イラっ』とした表情で、國井を睨むまでになっていた。


 だが、これは國井が望んだことである。


『自分の頭で考えて、少しでも違うなと思ったらすぐに言え。遠慮しないで、殴り合うのが普通だと思え』


 今の時代では問題になるであろう、超過酷な稽古。

 頭を叩かれたサラは背中を見せる國井を睨みつけ、肩を回す。


「オラ! もっかい!」

「ウルァァアアアアアッッ!」


 竹刀の先を頭にまで持ち上げると、國井が竹刀を斜めに構えた。

 それより早く、サラは小手を打ち、体全体で突進していく。


「うお!」


 勢いに負けて國井が尻餅を突き、「はは」と嬉しげに笑った。


「野郎。フェイント掛けやがってよぉ」


 形式上、サラにはきちんと段位を取らせた。

 現在は二段。

 実は、國井と竹内のコネを使い、大会には出場していないが型を覚えさせて、一般として段位取得に参加させたのである。


 ところが、サラの場合は二段どころではない。


「もうちょい、速くていいな」


 体が突っ込むのと、竹刀が振り下ろされるのが同時だ。

 だから、無駄な動きが一切なく、國井から見ても、かなり速かった。

 特に小手に関しては、見えていても反応できない。


「うぃ。突きやってみろ」

「うす」


 道場の特権だ。

 こっそりと中学時代から突きの練習までさせていたのだ。

 なので、サラは他の生徒に比べて、突きが恐ろしく上手い。


 互いに竹刀を構え、「アアアアルァアアアッ!」とサラが突っ込んでいく。


 脇を締めて、竹刀の先をほんの少し持ち上げる。

 突き出しは、体の突進力を利用するため、腕は必要以上に伸ばさなくてよかった。


「突キャアアアアッ!」


 腹の底から張り上げた声が道場から漏れて、数軒先の民家にまで届いた。喉当てを突かれた國井の体は、後ろへ下がって、衝撃に負けないよう後ろ足のつま先が床を噛む。


(これで外したら相手死ぬな)


 突きの稽古は、欠かしてはいけない。

 サラの場合、剣先けんせん(竹刀の先端に被せた袋)が重なった瞬間で、相手を取る事ができる。


 足が長くて、瞬発力に長けているから、相手の意識より早く動ける。

 デブの時代から鍛え抜かれた腰は、國井が全力でぶつかっても、よろめくことはない。


 むしろ、受け流しを教えているので、鍔と鍔がちょっと重なっただけで、頭を打ちながら後ろに跳びはねるといった反撃ができる。


 どうして、今まで試合に出なかった。

 こんな声が出てくるくらいに、サラは確実に化けていた。

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