第60話 初めて反撃に成功する

「そういやお前、C地区まで来るの初めてか?」


「む? 確かに言われてみればそうかもしれん。少なくともさっきの肉屋は全く知ら無かった」


「お前達が今住んでるはA地区辺り、であってるな?」


 そんな話をこの男にした覚えは無いが、確かにそうだ。


 我々のパーティーが拠点としているのはA地区にある、ギルド所有のホームだ。

 ギルドでもいくつもの高難易度な依頼を解決したパーティーにのみ住まう事が許される場所だ。

 

「あそこの高級住宅地付近だろう? あそこに住んでるのなんか成金の小金持ちか、ボンボンが独り立ちとか言って実家のパパに買い与えて貰った別荘があるような場所だってイメージがあるな」


「なんでそう貴様は一々悪い見方しか出来んのだ。あの辺りは確かにセレブの家も多いがそれくらいなものだろう?」


「わかってねぇな、高級志向のデパートとかもあるじゃねぇか。ブランド物とかも基本的にあの地区にしかないしな。貧乏人があくせく働いてるのを見て、鼻で笑いながらワイン傾けてるようなヤツしかいないんだぜきっと」


「ひがみが過ぎるぞ! 貴様の言うような人間がいないとは限らんが、そんなのばかりなわけが無いだろう。高所得者の住む区域である事は否定せんが、偏見でものを語るのはやめろ」


「そうなのか? バイクや車に乗るピープルを見下しながら、優雅に馬車に乗って移動するような人間ばかりだと思ってたけどな。路面電車にぎゅうぎゅう詰めになりながら移動する貧乏人がいる現実も知らないようなのとか」


「ひねくれ者が。どういう生き方をすればそこまで性格が捻じ曲げるのだ、全く」


 治安の良さがその地域の品位や金銭の潤いを表すというが、その点ではA地区はまさに当てはまるだろう。だが、それはそれとしてこの男のモノの見方は偏り過ぎだ。


 富める者は皆、他人を食い物にする人間ばかりだと思っているふしがどこかあるな。そんなあからさまに悪徳な金持ちは今日日小説でも見ないぞ。


「散々言ってくれたがな、そんな貴様は今何処に住んでいるのだ? B地区のギルドの部屋にでも住んでいるのか?」


「いや、このC地区の居住区。お前は知らないだろうがな、ココには駆け出しの冒険者用に安く借りられる部屋があるんだよ」


 それは知らなかったな。この区域に来る事自体がほぼ無いのだから当然ではあるが……。


「ならばこの商店街を普段利用しているという事か。悪く無い所なのではないか? 賑やかな商店が立ち並ぶというのは。このような場所はA地区には無いから新鮮さを感じてしまうな」


「新鮮さなんて住めばすぐ消えるぜ? でもココが悪く無いのは同意してやる。実際安い店ばっかりで財布に優しい。欠点は、人が多いからスリやら泥棒やらが紛れやすいってトコだな」


 気兼ねなく人が訪れるが故の欠点か、賑わいと治安は反比例するものなのだな。

 私自身は世俗に詳しいとは言い難い、その点ではこの男の方が明らかに上だ。悔しいがこればかりは仕方がない。


 そういえば、この男に会ったら聞いてみたい質問があった事を今思い出した。別に何となく気になってただけだが、聞いてみるか。


「そう言えば貴様、今は駆け出しの冒険者と組んでいるそうだが、やはり同じ居住区か?」


「ああ、っていうか同じ部屋住んでるけど」


「な!? 貴様、私はその冒険者を女性だと聞いたぞ! 女性と同じ屋根の下で暮らしているのか?!」


「えぇ……、そんな事言ったら同じパーティに居た時は同じ宿の部屋に泊まった事あるじゃんお前。今更そんな程度で」


「あれは他のメンバーもいただろう! 少なくとも貴様と二人で寝食を共にした者はいないはずだぞ!」


「似たようなもんだろう別に、胸無し女と同じパーティって点じゃお前らと組んでた頃と変わんねぇよ」


 む、胸無し。そうか私達と同じか。

 ……いやそういう問題では無いだろう!!?


「年頃の男女が二人で暮らすなど、それでは婚約者同士ではないか!」


「いやそうとは限らねぇだろ。全く、お嬢様育ちは男女のアレコレにむっつりなんだからよぉ」


「なんだとォ!? 人の事をむ、むっつりだなんだと……ハレンチだぞ貴様!!」


「いやいやいや、男と女ってだけで勝手にいやらしい妄想してんのはお前じゃねぇの。これだからウブな寝んねちゃんは想像力豊かなこって」


 こいつ! この男は本当にいちいち一言多い!  大体、私はそんな想像などしていない!

 ただ少し男女が共に暮らしているというのは、極一般的意見として如何なものかと思っただけでそれ以上の意味などあろうはずが無いのだ!


 この男はいつもそうだ、私の事をまるで子供扱いするかのようにあしらう。世間知らずは否定出来ないがそんな風に扱われる筋合いは無い。


 しかし、確かに私が過剰に反応しすぎている面もあるかもしれん。

 ここは一旦落ち着かなくては。


「ふぅ……。いいか、一つだけ真面目に答えろ」


「何よ?」


「その、その女性と貴様は……」


「あん? ハッキリ言えよ聞こえねぇぞ」


「だからその……結局恋仲なのか? 貴様と同棲している女性は」


 言ってしまった。

 大分遠回りしてしまったが、私が聞きたい事はこれだけだ。


 他意は無いがこの男とパーティーを組もうという奇特な女性だ、胸は無いらしいがもしやと思った。また、他意は無いがこの男が好みでは無い異性とそれでも一緒に暮らすというのがどうにも想像が出来なかった。


 まぁ、あくまでこれは興味本位で、それ以上でもそれ以下でもない……のだ。

 この男の反応が気になるのも事実だが、それも単なる好奇心だ。


 さて、この男の返答はいかに。……。


「だからそういう関係じゃないっての。同棲って言い方も止めろよ、二人で部屋に住んだ方が色々お得だからそうしてるんだっての」


 心外だと言わんばかりに否定されてしまった。


 だが、そうか。恋人では無いのか。そうか……。

 いや、別に他意は無いからどうでもいいが。


「しかし色々、とはどういう意味だ?」


「あ~、ほら飯とか? 俺基本的にサバイバル料理しか出来ないし。代わりに掃除しろとか洗濯物はちゃんと出せとか、母ちゃんみたいに言ってくるんだけど」


「そ、そうか。母親か、恋人では無く……。だが、その女性は確か貴様より年が下だとも聞いたぞ。そう考えれば、貴様情けなくはないか?」


「うっ!?」


 痛い所を突かれたという顔をする。

 これは図らずしも私は一矢報えた事になるか。優越感、だな。


「ふふっ」


「な、何笑ってんだよ?」


「いや何でも無い。そろそろ別のところに行くか、貴様はこの辺りの地理に詳しいのだから案内して貰うぞ」


「何だよ急に? 妙に機嫌が良くなってるじゃねぇか」


 この男を口で負かすのは初めてでは無いか?

 そう考えると、つい気分が良くなってきてしまうな。

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