第57話 都合の良い勘違い
運ばれてきたスイーツ達を堪能する。
う~ん!
はっ! いかんいかん決してこの味を楽しんでいるなどと、そんな一般女子のような仕草を他人、それもこの男の前でするわけにはいかん。
「ま、まあ中々。この一等地に新しく店を出すだけあって強気の味、とでも言っておこうか」
「あっそ。………………さっきからとろけた顔しといて何を偉そうに」
「? よく聞こえないぞ」
「何でもねぇよ」
なんだこの男は?
まぁいい、今日はこの男の前とあって少な目に注文してしまったが、それでもまだ残ってる分はキッチリと味合わせて貰おうじゃないか。
しかし、奴はホットコーヒーとティラミスとマカロンセットだけしか頼んでいないな。甘い物が嫌いだという話は聞いていないが、どうしてだ?
「そんなもので十分なのか?」
「何て言うの? お前を見ているだけで満腹感、みたいな?」
「なっ!? た、たわけ! 急に何を言うのだ!」
まさかこの男からこのような言葉が飛び出すとは。
見目麗しい奴好みの女性に対してなら、似たような言葉を発しているのを聞いたことがあるが。
……いや、そんなまさか。私の気のせいだろう、そうに決まっている!
いかんな、今は目の前のスイーツに集中しなければ。
「あ~ん、ねえ美味しいダーリン?」
「当たり前じゃないか、君の手で食べさせてくれるものだから余計にさ」
「もうダーリンったら! ふふふ」
「ははは!」
しゅ、集中しなければっ。
「今時あんなコッテコテのバカップルとかいんのかよ。天然記念物並みだぜ」
奴が隣のテーブルを見ながら何か言ってるが、無視だ無視!
◇◇◇
腹を満たしてカフェを出た私達。だが困ったのはこれからどうするかだ。何か理由を考えなければならない、でなければこの男がまた何処ぞへと去ってしまう。
何か無いか? 何か……。
「おい、貴様何か私に用は無いか? あるんじゃないか?」
「はぁ? お、お前何言ってんだ!? そもそもお前が無理矢理――」
「いいから何か用は無いか? 今すぐに思いつけ、さあ!?」
「無茶苦茶だぞお前!!?」
「ならばせめて言う事は無いのか?!」
「そ、そんなん言われても……ん?」
急に私を見つめて、真剣な表情に変化するこの男。
……ごくり。
「何だ? 何が言いたいんだ?」
「お前……もしかして痩せたか?」
「……は? 貴様、それはつまり今まで私の事を太っていたと思っていたのか!?」
「ちょっと怒るなよ! お前から急かしたんじゃん、じゃあ他は。あ~、う~ん……」
「そんなに悩む事なのか?!」
「だってお前に対して言う事なんて。……ああ、じゃああれだ。お前なんか雰囲気違うな服とかバッグとか。そんなん持ってたっけ?」
ついに来たかこの質問が。
そう今日の私は短時間とはいえグウィニス殿のコーディネートを受けている。
肩から下げているこの、サイフぐらいしか入りそうにない実用性に疑問があるバッグやグウィニス殿が自分用に買った為に、私にとってはくるぶし程まである長いスカート。
トップスに関してはいつものインナーだが、その上には今まで着る機会の無かったジャケットを羽織っている。以前ラティーレンから押し付けられたものだが。
「そう見たら髪の毛も結んでねぇな。あ、確かにいつもと雰囲気が違うわ全然」
時間が無かったので、いつも後ろで結んでいた髪は単に下ろしただけだ。
それだけではあるが、自分でもグッと、何かが上がったような気がしている。
しかしこの男、今更それに気がついたのか。興味の無い事には鈍い奴だと思っていたが。
…………だが、この男に気づかれたと思うとくすぐったさすら感じるぞ。むぅ。
「ど、どうだ? 少しは見違えたのでは無いか? 一応の意見として聞いてやらんことも無いぞ?」
「いや別に言うつもりもないけど」
「なら聞かせろ! どうだ?! えぇ!!」
「何でそんな凄んで来るんだよ? 近いって、ちょっと離れろ怖いから。……ああうん落ち着いてる感じが割といいんじゃない? 好きな奴は好きだと思うぜ、うん」
そ、そうか。好きか。なら、良し!
何が良しなのかは私自身も良く見えていないが、悪く言われるよりはずっと気持ちが良いものだろう。グウィニス殿、感謝致します。
「じゃあお望み通り言うだけ言ったし、俺もここら辺でおさらばさせて……」
「それはダメだ。しかし、そうだな……ではこれからショッピングに付き合え」
咄嗟の思いつきだが、これは名案じゃないか? 我ながら良く思いついたと思う。
一緒に何かを見て回れば監視は勿論だが、私自身も興味を惹かれる物が見つかるやもしれん。
「そうと決まれば善は急げだ。ほら行くぞ!」
「だから腕引っ張んなって! 痛っ痛いのよお前!?」
逃げないようにガッチリと奴の腕を掴み、取り敢えず私の興味が惹かれる物を探しに出かけるのであった。気分はさながら、冒険の出立前にも似ている気がする。
だが何処へ行くべきか?
この辺りが不明なのもワクワク感があって良い、と言えるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます