第48話 顔を合わせる七番目

「やっと来ましたか。遅いですよあなた方」


「お待ちしてしましたわ、エレトレッダさん達」


 カノンブルの住処の近く、遠くで草を食ってる連中を眺められる木々に隠れていたソイツと合流出来たのは、山に到着してから小一時間。

 道中、ピクニック感覚で喋ってたら遅くなった、なんて言ったらマズイよな。


「ま、そう言うなよ。久しぶりに会ったんだ、もっとフレンドリーに行こうぜ? ていうかティターニにも一緒なの? これまたどうしてよ?」


「その……、彼女達とは以前に助けて頂いた縁がございまして。今回お仕事に同行する事になりました」


「ふん、親交を深める時間などもったいないです。本来わたしはこんなところに来る予定など無かったのですからね」


 思った通りプリプリ怒ってんなぁ。眼鏡の奥の釣り目が余計にキリっと見える。

 ここに来る途中で聞いた話じゃ、本当ならこいつは自分の仕事が予定より早く終わって、買ったばかりの本をじっくり読むつもりだったらしいし。


「大体エレトレッダさん、貴方とはもうパーティを解消しているのですから馴れ馴れしくしないで下さい」


「一緒に組んでる時でも同じこと言ってたろお前。相変わらず生意気ばっかり言って、可愛くねえぞ?」


「これがわたしです、気に入らないなら結構。それにわたしと貴方は一歳しか違わないのですから子供扱いは止めて下さい」


 そんな事言ってもねぇ……。


「まあまあ、ここはぼくの顔を立てて。さあみんなでやっつけるぞ! おー!!」


「声が大きいですよ。そもそも誰のせいで……!」


「ねえ。……勝手に割り込んでごめんなさいね、アタシはラゼクっていうのだけれど。アナタが助っ人、で間違いないわよね?」


 ラゼクが腰を曲げて、ソイツを見下ろしながら優しい声で話しかける。初めて会ったヤツならついそういう体勢を取ってしまうのも仕方がない。


 なんせ……。


「ええ、ご存じですラゼクさん。あとそのような態勢で話し掛けなくても結構。もっと普通に接して下さい。わたしはもう十八歳なので、子供扱いはごめんです」


 そう、ラゼクと同じ年だがその身長に結構な開きがある。

 なんせ、元パーティ最小だからだ。唯一の一三〇センチ台。


「わたしの名前はチェナー・ウェルモ。今後の付き合いがあるかは分かりませんが、以後お見知りおきを。それと、わたしの種族ではとっくに成人を迎えた身ですので、その辺りに配慮した接し方を心がけてください」


 眼鏡をくいと上げながらピシャリと言い放った小学生の少女にしか見えないその女。

 淡い緑色のメッシュが入った紺色のハーフアップに、同じ色の瞳。尖った耳。童顔。無乳。


 元パーティのブレインを気取っている『ゴブリン』の成人女性だ。



「で、実際のとこ今どんな感じよ?」


「カノンブルに目立った動きは見られませんわ。私達が此処に来てからずっとです」


「ゆっくり歩き回っているか、草を食べてるかですね。とはいえ、この距離からの観察ではそれが限度ですが」


 警戒心を煽るわけにはいかないので、ティターニの返答にそう付け足すチェナー。

 嫌々やらされているとはいえ、仕事はキッチリとやるな相変わらず。

 

 確かに連中は俺の目から見てものん気に草食ってるか、歩き回ってるか、日向ぼっことか、そんなことしかしていない。


 カノンブルは、見た目こそちょっと大きめの牛でしかないが、一度敵意がむき出しになればそれはもう恐ろしいぐらいの勢いで突進してくる。どんなヤツだってたまらず跳ね飛ばされるんだ。皮膚の硬さと足の速さが最大の武器なもんで。


 その勢いの良さからカノン砲になぞらえて、この名前がつけられた。

 だからハッキリ言って正面からやり合うのはゴメン被る相手だ。


 一般的に狩る方法はやっぱ猟銃だ。ただ、距離が離れすぎてると弾丸が皮膚に拒まれる。中距離から皮膚の薄い眉間を狙うのがセオリーだろう。一流のハンターだったらソツなくこなすんだろうが、残念ながら俺たちは専門のハンターじゃあない。


「どう攻めるよチェナー? このままこんなところで観察したって仕方ないと思うぜ」


「既にいくつかプランを考えています。わたしはこの仕事を速く終わらせたいので、決してヘマなんてしないで下さい」


「この俺がヘマだぁ? バカ言ってんじゃねぇ。俺の腕はよくご存知だろ? お前こそぬかるんじゃねぇぞ」


「よく存じてる貴方だから心配ですし、わたしの事はそれこそいらない心配です。……ラゼクさん、ミャオさんやこのティ……ターニさんの話を聞く限り毒の扱いに慣れているとの事、ですよね?」


 事前に聞いた情報を確認するために話しかける。

 情報提供先の一人がミャオだからか、ちょっと自信が無さげに見えなくもないな。


 しかし何で今ティターニの名前を言い淀んだんだ?


「ええ、確かに。調合は得意だから。それを使うのね? だったら他にも麻酔薬とか持ってるけど」


「なるほど、確かに使えるかもしれませんね。いいでしょう、使える手が増える分には歓迎です」


 ラゼクのヤツ、麻酔も作れたのか。

 掘り出し物とは思ってたが本当に結構やるヤツかも知れねぇな。


 それからティターニも交えて三人で話し込んでしまった。


 不意に服の袖を掴まれる。

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