第47話 現地合流

 そして正式に依頼を受けて後日のこと。


 バスを乗り継ぎやってきたぜ、山の中!

 あぁ腰が痛い。


「軟膏おくれ」


「はいはい。相変わらずおじさん臭いわね。まあでも若いうちから腰痛の癖なんかつけないように気をつけなさい」


「へいへい。じゃあちょっくら向こうの茂みに行ってくるわ。何かあったらすぐ大声で叫んでくれ」


 バス停から離れ、草むらの中に隠れる。

 さっきまでいた所からそこそこ距離を取ったところで息を殺し、身を潜める。…………そろりそろりと、抜き足差し足忍び足。


 ゆっくりゆっくりと……服をたくし上げて腰に軟膏を塗る。

 あ~効くぅ!


 この瞬間を誰にも邪魔されたくない。

 だって普通に嫌じゃん。完全に無防備じゃん。


 しかし、世の中とはうまくいかないもので、突然目の前の草むらがガサガサ揺れ始めた。


「え?」


「ぷふぁあっと! やっと出られたよ! いや~まさかこのぼくが道に迷ってしまうだなんて、なかなかやるじゃないかこの山。……あれ? エル、こんなところで何やってるの?」


「そりゃこっちの台詞だろうが!」


 せっかく人が気持ちよく森の空気を吸いながら腰に軟膏を塗って、ほっと一息ついていたって言うのに。

 座りっぱなしでバスに揺れを感じるってのは腰にくるもんなんだぞおい!


 それをこのドロシアのヤツ!


「非常識なところから出てきやがって、何やってんだ一体?」


「ぼくだって不本意で森の奥に居たんだ。だってちょっと珍しいクワガタムシが飛んでるのを見つけて、追い掛けたら森の奥にいたんだ。ほらぼく悪くない」


「小学生みたいなことしてんじゃねえぞ! お前がどうしてもってダダをこねるから付き合わせてやってんだからその自覚を持てってんだよ。先に現地に着いたならバス停にでも待ってろ」


「む! 君達が遅いからちょっとした暇つぶしをしていただけじゃないか! それに、今回は助っ人も連れてきているからね、その点でももうぼくは依頼に貢献していると言ってもいいじゃんか!」


「助っ人だと? どこにそんな奴がいるってんだよ、その辺で捕まえてきた虫かなんかか?」


「失礼なことを言うな! ちゃんとした人を連れてきたに決まってるじゃんか! もう現地に行って調査を始めているんだよ。一人はそういうのが好きだからね」


 あん? 何人かで来たのか。

 それで調べ物が好きな助っ人の女……。となると、アイツの事か?


 でもアイツがこんな事に素直に付き合うかねぇ。


「お前またダダ捏ねて無理矢理付き合わせたな。知らねぇぞ、アイツは根に持つタイプだからな。こりゃあ高くつくぜ」


「うっ……うるさいな。とにかくもう来てるんだからね。待たせないうちに行かないと。そういえばラゼクちゃんはどうしたの?」


 あ、すっかり。

 そう思えば件の女の声が聞こえてきた。

 

「ちょっといつまで塗ってるのよ? それとも用でも足してるの?」


「ああ今行くって! ……仕方ねぇな、来いドロシア。お前のせいで余計な時間を食っちまったんだからな」


「仕方ないなぁ。じゃあ一緒に付い行ってあげるよ」


「生意気言ってんなよ」


 俺はドロシアの首根っこを引っ掴んでラゼクの元へと向かった。

 手元からギャアギャアと抗議の声が聞こえるが無視だ無視。


「お~いラゼク!」


 俺達はラゼクの元へ駆け寄った。


「遅かったじゃない。何かあったのかと思ったわ。あ、ドロシアも一緒だったのね。ちょうど良かったわ」


「こんな格好でごめんねラゼクちゃん。馬鹿エルがぼくを無理矢理捕まえて離さないんだよ、ひどいよね?」


「お前がどっか行かねぇようにしてんだよ。大人しくするってことが出来ないお前が悪い」


「なんだって!?」


「はいはいわかったから、喧嘩しないの二人とも。それで、此処から山頂に向かうのよね?」


 そう、ターゲットの牛野郎がいるのはココから少し先にある山頂付近に生息しているんだとか。

 モンスターとはいえ所詮牛だから、開けた場所で草でも食ってんだろう。

 先に行ってるヤツと合流せんと、アイツ待たされるのが嫌いだから。


「さあ張り切っていこうぜ! とっとと狩って、とっとと終わらせようじゃないの。そんで報酬で焼肉でも食べてぇなぁ」


「あ! ぼく、街のA地区に焼肉屋が新しくできたって聞いたよ。終わったらお腹いっぱい食べたいな!」


「お前別のパーティだろうが。大体あそこは高級店だし。チェーン店のやっすい肉に決まってんだろ! 俺達の懐事情の限界の浅さをナメてんじゃねーぞ!」


「アンタこそ恥ずかしい事言うんじゃないわよ! お金がないのも事実だけど、もう少しオブラートに包めないわけ?」


「いいじゃん別に。本当のことなんだしさぁ」


 とはいえ、いつまでもこんなとこでダベってても仕方ない。

 右手にドロシアを掴んだまま、道を進んで行くのであった。

 にしても、背中の荷物に右手のコイツで結構重いなぁ流石に。


「お前太った?」


「それって大きくなったってこと? やっぱり日々成長してるんだなぼく!」


「……そうだな。お前はもうそれでいいや」


 単純なヤツだな。

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