第46話 仲良しヒロイン
「ふふん!」
振り返ると、本人にその意識は無いだろうが存在しない胸をドンと張るテンガロンハットを被ったブロンズ髪の少女が居た。
「久しぶりだね、エル」
「……人違いじゃない? お嬢ちゃん、パパとママとはぐれちゃったの? そういう時はね、ほらあそこの受付のお姉さんに言って迷子センターに案内してもらうんだよ? じゃ、お兄さん達は行くから。元気でね」
「ちょっ!? 何言ってんのさ!!」
知~らね。俺は再び出入口へと顔を向けた。
「アンタあの娘と知り合いなの? なんか名前呼んでたけど」
「世の中には似た人間が何人かいるもんだ。そのうちの一人がたまたま同じ名前だったんだろ? じゃあとっとと行こうぜ」
「いや待ってよ!! エル!!!」
急に腰辺りに感じる重み、そこにはあの小娘が抱きついてる姿があった。
「ちょっとお嬢ちゃん、いくら俺がカッコイイお兄さんだからって君のパパじゃないんだ。ほらみんな見てるから落ち着きなって」
「いや可笑しいでしょ!? このぼくの事を忘れたなんて言わせないんだから! 相手してくれなきゃこのままここで泣いてやる!!」
「ばっやめろ馬鹿!!? わかったよちょっとこっち来い!!」
そいつの首根っこを掴むと周囲から刺さる視線に苛まれながら、出入口へとスタコラ走るはめになった。
路地裏。
「テメェふざけんじゃねえよ! 一体何のつもりだ!」
「ふんだ! エルがぼくの事無視して構わなかったのが悪いんだ! ぼくは悪くないもん!!」
「なんだと?! わがままばっかり言いやがって、お前ってヤツは思い通りにならないとわかるとすぐにダダこねやがる! だからガキだってんだよ!!」
「また子供扱いした!? 久しぶりに会ったのにまた子供扱いだ!? ぼくと君は二歳しか離れてないんだからそんなの関係ないじゃん!?」
「二歳しか離れてないのにこんなにガキっぽいのはなんなんだって話だろうに。お前もう十七だろ? いつまでもカウボーイかぶれはやめろ、西部劇マニアは大人しく映画だけ見てりゃいいんだ」
「なにさ! エルだって全然相手されて無いのに巨乳のお姉さん追っかけて何回も痛い目見てるくせに! 偉そうに説教するぐらいなら一度くらいおっぱいの大きい彼女を作ってみなよ!!」
「ばっ!? 馬鹿野郎お前! やろうと思えばいつだって作れるんだよ! 俺がちょっと本気になれば女共なんかいくらでも寄ってくるんだ!! でも取り合いになったら危ないだろ? だから今はまだ遊んでるだけなんだよ、彼女たちのためにもな!!」
「出来もしないことをっ! この先絶対モテないし、将来は結婚も出来ないと思う。きっと独身のまま寂しく死んでいくんだ!!」
「なんだと!!」
「なにさ!!」
「「いいいいいいいだっ!!!!!」」
「ちょっとやめなさいよ。いくら周りに人がいないからって、あんまり大声出さないの!」
ラゼクに無理やり引き剥がされた。
いかんいかん子供相手についヒートアップしちまったぜ。もっと大人の男らしいクールさを取り戻さなければ。
「ほれどうどう。お前みたいなの相手にムキになるなんて確かに大人気なかったぜ。……で、結局お前何がしたいわけ?」
「ふん、素直にごめんなさいが出来ないエル相手に言う事なんてないもんね!」
「じゃいいや、あばよ」
「ちょっと!?」
チビを置いて路地裏から出て行こうとしたのに、袖ひっ掴まれて無理やり戻されてしまった。
「なんだよ? 言いたくないんだろう? じゃあこのまま帰してくれよ」
「エルには言いたくないけど、そこのお姉さんには言ってもいいよ?」
「ん? アタシ?」
「じゃあ俺関係ねえだろ」
「でもお姉さん、エルの保護者なんでしょ? じゃあ一緒に聞いてあげなよ」
お? そんな事言われちゃ流石に黙っちゃらんねーぞ。
ここはガツンと言ってやらねば。
「はぁ? なんでこいつが俺の――」
「そうねぇ。……エル、アンタもここに居て話を聞きなさい」
「だからなんで」
「いいから! 今日の晩御飯作ってあげないわよ?」
「わ、わかったよもう……」
畜生、飯を人質にするなんて汚ねえぞ。
俺が黙って言うことを聞かされてるのを見てか、満足そうな顔を浮かべるのがこのチビだ。
ケ、変わんねえんな。
「それで? 結局アナタは誰なの? やっぱりエルの昔の仲間とか?」
「ご名答! 鋭い推理だね。お姉さんのことは仲間から聞かされてるよ、ラゼたん」
「聞かされてるって、それラティの事ね? あの子が勝手に呼んでるだけだからラゼたんはやめなさい。私の名前はラゼク」
「え? ああ、そう言えばグウィニスちゃんもラゼクちゃんって呼んでたっけ? ごめんごめん。じゃあ次はぼくの番だ。ぼくの名前はねぇ、……気になる? 気になっちゃう?」
「う、うん……なっちゃうなっちゃう。で、アナタの名前は?」
グイグイ行くから、ラゼクのヤツ引いてるぜおい。
それに気づかず、ヤツは続けた。
「そこまで言われたら教えないわけにはいかないよね! じゃあ一度しか言わないからよーく覚えておいて? ぼくの名前は」
「カウボーイかぶれの貧乳どチビ」
「そう、ぼくの名前はカウボーイかぶれの……。勝手に割り込んでこないでよ!?」
「うるせぇな、お前の名前なんてどうでも良いんだよ。俺はさっさと帰りたいんだ」
「ちょっと静かにしてなさいエル! かわいそうでしょ。……ごめんね、もう一度お願いできるかしら?」
「もう……よし、じゃあ仕切り直し。ぼくの名前はドロシア・ファルケンバーグ! パーティ一のカウガールさ! 百発百中の腕で何度も窮地を救ってきた将来有望なガンマンだよ!」
へぇ~。窮地、ね。
一体何の窮地を救って来たんだか? ケツ拭いてやった覚えなら腐る程あるけどな。
そもそもパーティ一も何もお前しかいないじゃん、その立ち位置。
「はいはい、よろしくね。ドロシア」
「うん、是非ともよろしくするといいよ!」
「それで、アナタはどうしてアタシ達と一緒に行きたいの?」
やっとのこと本題か。つまんねぇ自己紹介なんてとっとと切り上げて本題に入りゃよかったのに。
「実を言うとね、ぼくも同じ依頼を受けるつもりだったんだ。でも、お嬢ちゃんは一人じゃダメ。なんて言うんだよ? ひどいよね。どうしようかなぁって、悩んでる時に現れたのが君達ってわけ。これはもうそういう運命でしょ」
こっちは別にそんな運命は感じてないんだけどな。
話も聞き終わったし、路地裏から出て行こうとしたが、ラゼクに腕をガッチリ掴まれているため動くことができない。全く馬鹿力女め、獣人ってヤツはよぉ!
「というわけでお二人さん、ぼくも一口乗せてもらっても構わないよね?」
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