第44話 素直じゃないわね、ほんと

「エルちゃんったら、あんまり憎まれ口を言ってはダメよ? でも、私エルちゃんが本当はいい子だって分かってるから。………………今日は楽しかったわ。久しぶりにエルちゃんと過ごせて」


 な、なんだ急に? 柄にもなくしんみりしちゃってよ。

 いつものニコニコ顔から、ちょっと寂しそうじゃねえか。


「ラゼクちゃん、この子とはうまくやってる? 色々と難しい子で手を焼くと思うけど、根気よく付き合ってみれば全然悪い子じゃないって分かるわ。そこまで行くのが大変なんだけど、ね」


「ええ、ほんっっとうにっ! 面倒くさい男ですけど。逆にこんなヤツ今まで相手した事ないし、どうせ余所に行っても面倒事起こすだけでしょうから、ま、しばらくは面倒見てやります。………アンタも偶には感謝しなさいよ?」


 なんだ二人してよ! 俺の事にコケにしてんのか? ああん!


「俺程のイイ男はドコ行っても人気者に決まってんだろうが。巨乳のお姉さん達が取り合いになっても大変だから、お前で妥協してんだっていい加減に……、ひぐっ!」


「つまんない憎まれ口を叩かない! まったくもう……」


 痛ったいよ! このアマ、俺の耳を馬鹿力で引っ張りやがって!

 デリケートなお耳が伸びちまうぜ!


「大丈夫ですかエレトレッダさん?」


「大丈夫かって言われたら大丈夫じゃねぇな。この馬鹿力で引っ張られてたらいつかすっぽ抜けちまうぜ、きっと」


「あ、あんまりそういう挑発するような事はお控えになられた方が……。お耳の安全の為にも」


「ま、お前がそこまで言うならこの辺で勘弁してやろう。……おいラゼク! お前もティターニのこのお淑やかさを見習えよ! 健気で可愛らしいじゃねぇの」


「そのティターニにたった今止めろって言われたばかりでしょうが! 耳の前に記憶がすっぽ抜けてんのよアンタは!」


(か、可愛らしい? え、エレトレッダがこのボクを可愛いって……!)


 ラゼクに怒鳴り声に耳を抑えながらグウィニスの方を見ると、どこか安心したかのような笑みを浮かべていた。


「なんだよ? 人が怒られてるのを見るのがそんなに楽しいってか?」


「今のはエルちゃんの自業自得でしょ。そうじゃなくて、彼女になら貴方を預けても問題無いって思ったのよ」


「え? ぐ、グウィニスさん今のはどういう――」


「あんた俺の母親か? 大体、あんただって俺を追い出した一人だろうに」


(エレトレッダ!? まだボクが訊いてる途中だったのに……)


「実際、他の女の子達は怒ってたもの。反省の意味を込めて、って事よ。でも思ったよりいい結果になったかしら。個人的にだけどね」


 ………? どういうこったよ?


 意味を探ろうと悩ませて頭が、急に何かに覆われた。それが何かと気づいた時は、グウィニスの腕に包まれていたという。


「!? ――」


「元気でね。貴方が思うように生きてくれたなら、私も嬉しいから。他の人達には迷惑を掛けないようにして欲しいけど。でも、会いたくなったらいつでもその顔を見せて? 離れていても私はいつでも貴方を思っているわ」


「………………硬い」


 腕に力が入った。後頭部がッ!? あがががが!!!


「もう照れ屋さんね。……じゃ! また何処かで会いましょう、三人とも」


 グウィニスは最後に俺のデコにキスをして去っていった。

 背中にあのバカでかい大剣を背負いながら、廃工場を出て行った。

 警察官に敬礼で見送られながら、廃工場を去っていった。


 ………………………。




「アンタ、もしかして照れてる?」


「……………………………何のこったよ?」


「ふふ……。素直じゃないわね、ほんと」





「――――――」


「ティターニ、なんでアナタ固まってるの?」


「――っは!?」

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