第41話 今こそ反攻の時
「さて、諸君。幸運にも我々と敵対関係にある謎の捕縛者の正体を掴み、なんとアジトの中へと引き込む事に成功した。当然此処は我々の庭、どこに逃げようとも時間の問題なのだ! 今もあの薄暗い留置所で我々が来る事を待ち詫びている同志に吉報を届ける為にも、必ずやかの邪知な輩を捕まえようではないかッ!!」
「……諸君っていっても自分達二人だけっすけどね。他のみんなは情報を集めに行ったか、残ってるのは既にやられてるので」
「ああっなんたる事だ! だが、安心をして欲しい。必ずや我ら二人の手で賊を捕らえ、皆の亡骸に花を添えてあげよう!!」
「別に誰も死んでないっす」
「へっ、そいつぁいい事を聞いたぜ!」
「なっ! 誰っすか!?」
逃げ道を探している途中に聞こえてきた連中の会話。それによればあの二人しかこのアジトにはいないらしい。
おかしいと思ったぜ、全然足音が聞こえてこねぇなんて。いくら盗みに長けた連中でも全く気配が無い理由は、単に出払っているからとはな。
相手の手の内がわからなかったが、ビビって損したぜ。
「これで形成逆転だなお二人さん!」
「何言ってるんすか? 君一人で何をしようと? あのお嬢さんは見当たらないすけど、君の次に捕まえればいいだけっす!」
「そうだとも、我らは二人。だが、君は今一人! この数的優位。しかしそれに立ち向かう為に己を鼓舞するのは見事な精神であると言える。褒めてあげようじゃないか! だが、だがにしかしッ! それは蛮勇と言う他にない! さあ、せめて一瞬で終わらせてあげるから掛かって来るといい!」
ケ、余裕見せてられんのも今のうちだぜ。
なんせこっちは落とし物を見つけちまったんだからな。
「というわけで出番だぜ、グウィニス!!」
高らかに叫ぶ俺。それに反応して警戒心を高めるのが分かる強盗共。
居ないと思った人間が出てくるんだから当然だろう。
だが甘い! ただでさえやっかいな女がほぼ無敵になってるんだからな!
「ええっと……。じゃ~ん私参上っ! みたいな感じでいい? いいと思わない?」
「あ? うん、いいんじゃないの。……というわけでこれが俺の切り札だぜ!」
「な!? あ、あれはッ!!?」
頭目が驚くのも無理は……無いのか? どうでもいいかそんなん。
今のグウィニスは両手にある物騒な物を持っている。それはコイツ曰く落とし物で、普段は冒険でアホみたいに活躍する……。
「う~ん、やっぱりしっくりくるわね。今度から気を付けて持ち歩かないと……」
「頼むから冒険の時だけにしろよ、そのデカブツ」
「もう失礼ね。私が駆け出しの頃から愛用している剣なのに。それに街中じゃ持ち歩かないわよ」
そう剣なのだ。それもただの剣ではない。俺よりデカいグウィニスの身の丈程もある鉄塊の如き大剣だ。
『ツヴァイヘンデル』なんて普通は落としようも無くデカいし、その重さで気付かないわけないんだけどな。
「なんと、その大剣は貴殿のものだったか!」
「はぁ、あんな道の脇の置いてあったのがまさかお嬢さんのだったとは。なんであんなところに放置をしていたか知らないすけど、世の中どこでどう繋がっているかわからないもんすね」
そうだろうな、俺も思うわ。
まさかこの剣を落としたとか思うわけも無いだろうしな。
「しかし、良い趣味をしている! その切っ先の輝きに対してくすんだ剣の腹! 何度も使いこみ研磨しなければこのコントラストを生み出す事は出来ない! 美しい……、そして見事ッ! この私の心を奪ったぞ!」
………………うん?
「刀剣の真の美しさとは見た目の芸術性ではない。あくまでも、そうあくまでも武器として刻み込まれた傷跡などの歴史が素晴らしいのだ!!」
ゲ、マニアだぜコイツ。何言ってんのか知らんが付き合い切れねぇよ。
「良い審美眼ね。貴方が強盗という立場でなかったらお友達になれたかもしれないのに」
残念な事に理解出来る人間が身内にいやがった。
意気投合するのは勝手だが、ここから逃げさせてくれよ!
「でも数が同じになっただけっすから、それで逃げられなんて考えは止めた方がいいっす」
「いや待ちたまえ! あの大剣のくたびれ具合から考えるに彼女の実力はかなりのものだ。で、あれば正攻法では我々が負けかねない」
なんか意外。冷静に分析とか出来るんだな頭目。
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