第40話 ついに見つけた落とし物
どうする? このまま逆ギレして突破するか? どうせこの女は置いといても勝手に強盗団を壊滅させて戻ってくるだろうし。でも俺はそれに関わりたくないんだよね。
あーでもないこーでもないと悩んでいる時、頭目がまたあの大袈裟なポージングで話しを始める。
「ではこうしようではないかっ。お嬢さん、君が捕まえたのは私の同志なのだが」
「まあ、そうだったんですね。やっぱり関係があったわエルちゃん」
「あ、うん」
「で、だ。我々は同志を捕らえられ、非常に悲しい思いをしているのだ」
「お友達が捕まってしまったんですものね、落ち込むのも仕方がないわ」
「そう、そうなのだ! そしてお嬢さん、君にもしその事に罪悪感を感じるのであれば、我々の同志として共に日々の窃盗に勤しんで欲しい! そうすれば今回の件は同志の脱獄を手伝うという点も合わせて許そうじゃないかッ!!」
何言ってんだ? この頭目とやらは頭がアレなんじゃないか?
こんな事言われても、ね。
「せっかくのお誘いだけど、私はもうパーティを組んでいるんです。申し訳ありません。それに、盗みは犯罪ですよ? いくら友情の為でもダメな事はダメ」
「そうか……。やはり我々には決別の道しか無いようだ。実に、実に悲しいことじゃないかッ! だがこうなれば容赦は出来ない! 何故か? 何故ならば!! 私は同志達の義を背負っているからだッ!! この重みっ、今にも押しつぶされそうだ!!!」
「あんたらのボスっていつもあんな感じなの?」
「う、うん。まぁ。って、のん気に世間話をしているわけにはいかないす! 頭目が決めた以上は、最早どちらかが倒れるまでは!」
話し掛けた相手がファイティングポーズをとって俺に襲い掛からんばかりだ。
望み薄だったとはいえ、なあなあで誤魔化せないかと思ったんだが、やっぱ無理だったぜ。
ええいこうなりゃ!
「うおおおおおおおおお!!!!!!!!」
俺は叫んだ、ありったけの思いをこの瞬間に……ッ!
全員が驚くこの時が、俺の全てを掛ける時なんだァ!
「あばよッ!!!」
呆気に囚われているだろう連中を後目に足を前後に動かす、その勢いは猛烈。
前後もダメなら横しかない。
走った。走ったぜ! 今なら誰も追いつけないはずだ!
「はははは! やった! よしこのまま逃げ切って――」
「酷いわエルちゃん。逃げるなら事前に打ち合わせしてくれないと、ちょっと出遅れちゃったじゃない」
逃げ切ったと思った俺の期待を裏切ってくれたのは、やはり隣を走るグウィニスだった。
そうだ、コイツとは一年以上の付き合い、伊達にパーティメンバーとしていくつもの修羅場をくぐってきたわけじゃなかった。俺のクセを読まれてしまったぜ。
これはマズイ!?
この女を囮にする事でこの廃工場からの完全脱出は成功するはずだったのに。
チラっと背後を見れば追いかけてくる頭目と部下。
一難去ってまた一難ってか? 冗談!
どうしようもないので、何処かに身を隠すべく近場の倉庫へと突撃ぎみに逃げ込んだ。ついて欲しくないおまけが隣にいるが、暫くはここで息を殺して過ごそうじゃないか。
荒っぽい熱と呼吸が口から排出され、新鮮な空気を取り込み体を整え冷やす。逃げ足は冒険者としての必須スキルとはいえ、やっぱキツイもんはキツイぜ。
「…………エルちゃん」
またしても話し掛けてくるグウィニス。
いやいや流石にここで返事でもしようものなら、さっきの二の前になり兼ねない気がする。だって今日で二度このパターンでえらい目にあったんだし。無視無視。
「ね、エルちゃん見て」
「うえっ!?」
無視していた頭を強引に掴まれ、急激な方向転換をさせられた。
「何すんだ! 声が出ちまったじゃねぇか!」
「それはごめんなさい、でも……」
小声で話す俺に合わせて小声のグウィニス。一体何がでもなんだ?
そう思って視線の先を凝視する。するとその先には……。
「ああ……、やっぱここにあったんか」
「やったわ! これで安心して帰れるわね」
そう、俺達の視線の先にあったもの……、それはグウィニスの大切にしているものであり到底落とすものでも無いものである。
丁寧に立て掛けられたそれは――。
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