第39話 警鐘を鳴らす直観

 何コイツぅ? 俺はこんなの絡まれる為にこんなとこに来たんじゃない。そもそも来たくなかったのだから帰宅したい。


「ここの責任者の方ですか? 私、グウィニスと申します」


「これはご丁寧に。私は訳あって名を名乗る事は出来ないが、頭目とだけ名乗っておこう! ある意味で責任者である!」


 なんで妙に会話が成り立っているんだ? それになんでそんな自身満々に犯罪者集団のリーダーを名乗れるのも謎だ。

 この流れに任せてグウィニスが会話でもするだろう、今のうちに離れとこ。


 そろそろ~っと……。


「どこに行くんすか?」


「ひゃあ!!?」


 元来た道を後ろ向きに戻っていたら、背後に人が立っていた。

 何すんだ! 驚いて声が出ちまった。


 一斉に注目が俺に集まる。これで退路は断たれちまったってか? チクショー。


「こらこら、あまり客人を困らせないであげてくれ。……あいや済まない。実のところ我々は同志が何者かにやられて気が立っているのだ。だが、安心して欲しい。君達がこのまま我々について黙っているというのであれば、身に着けているものを二、三置いてくれれば丁重に帰す事を約束しよう!」


 物は置いてけなんて所詮、盗人だな。


 しかし、同志だ? そういや今朝のニュースで強盗が捕まったんだっけ?


 誰が捕まえたか知らんが、最終的に連れて行ったのは警察なんだから、恨むならそっちを襲撃すればいいじゃないのよ。

 そして返り討ちにあって勝手に解散してくれ、俺達ピープルの為に。


 そんな事を考えていたらだ、グウィニスのヤツが俺の目に視線を合わせて、なにやら言いたそうな顔をしている。


(はっ!!?)


 俺の勘が告げている。この女を喋らせるな、と。


 俺の全身がけたたましい警報を鳴らしてる。

 背中に感じる冷たさは冷や汗だな、この額に感じる冷たさは冷や汗だな。


「エルちゃん、さっきの続きなんだけど……」


「うおおおおおおおおおお!!!!!」


 俺はありったけを込めてシャウトした。これまでの人生でも中々に経験の無い叫びが工場内に響き渡る。


 当然、さらなる注目を集める事になるだろうが構っちゃいられない危うさがあると、天啓が囁くのだ!


「どうしたの? ちょっと静かにして、ね。ほらいい子だから」


「むぐぅ!??」


 なんてこった! 残念な事に天啓は俺に、味方に口を塞がれるなど教えてはくれなかったようだ。


 手のひらで覆われる俺の口と鼻。急に酸素の供給を断たれた今日この頃、俺は飛び出すはずの勢いを無理やり内部に押し戻されて暴発したかのような息苦しさを感じていた。



 そして、ついに訪れてはいけなかったその時が始まる。



「それで、ね。昨日の夜、宝石店を襲っていた人達を見て、それで追いかけて捕まえたんだけど、それってここの人達と関係あるのかしら?」



「なぬ?」


「は?」


 前門の強盗の人と後門の強盗の人が同時に声を出す。そこに含まれていたのは、果たして驚きか呆れか。はたまた……?


 どっちにしろ、これがマズイのはわかるはずだ。

 わかってくれよグウィニスさんよぉ……。


「なるほどぉ……これは僥倖。まさかのまさか! そちらから出向いてくれるとはっ、私は神に愛された強盗であろうなッ!」


 強盗を愛するとか禄な神様じゃねぇな。


 何を言っているのかよくわからないこの身振り手振りの激しい自己陶酔野郎は、強盗団の頭目として部下の復讐にやっきになっているらしい、というのはかろうじて理解できたぜ。


 しかしなんて余計な事を言ってくれたんだこの大女。しかも言った本人は状況を理解できてないときた。俺だって半分しかわかってないし、したくもないがな!


 どうにかして俺一人だけでも逃げ出せないだろうか?


「あのですね。ま、その、つまりですよ? ここにぃ、原因となった女がいるわけで、後はもうそちらさんがどうするも好きにしてくれれば終わりという事なんですよね? ね? じゃ僕はこれで失礼させて……」


「でも、世の中そう単純なもんじゃないすからね。そちらのお嬢さんのお友達なら、簡単に帰すのも違うんじゃないすか? 大体ここの場所を喋らないとも限らないすからね」


 マズイぞ、まさかの正論に封じられてしまった。

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