第38話 侵入成功

「はっ!」


 気づけば目の前に積み上がっていた強盗団とやらの山。

 いや違うな、俺はこれが出来上がるのを見ていたはず、記憶もある。


 なのに、さも今初めて見たかのような新鮮さがある。なんとも不思議な体験だ。

 でも、もうしたいとは思わないのはなんでだろう?


「じゃあちょっと中を見せてもらうわね? 私の物があったら持って帰るから、いいかしら?」


「…………ぇぇ」


 辛うじて声を出す強盗団の一人、無残だな。

 哀れ。同情する余地は無い。自業自得ってヤツだし。


 しかし、なんで俺はこんなトコに来ちまったんだろうな?

 何だよ強盗団って?

 帰りてぇ。もう見つからなかったでいいじゃん。それがダメなら俺だけでも帰らせてよ。


 望んでねぇのに面倒事が向こうからやって来やがって、ああ! ヤんなる!


「さあ行きましょうか。もたもたしてると日が暮れちゃうわ」


「くぅ、アジトが手薄な時に襲い掛かって来るとはっ。ゲスどもが……っ!」


 いや知らねぇしそんなん。そちらさんの事もついさっき知ったばかりだし。


「ほらほら、おしゃべりはあと。もう、ちゃんとついてきてね」


 無理やり俺の手を掴むとそのまま前へと進んでいく。

 本人は軽く握ってるつもりだろうが、俺の指全体に圧が掛かっている。無理やり解けるもんじゃないぜこれ。


 団子状に積み重なった団員共を後目しりめに、廃工場の入り口へと向かう。


 ……え? 向かってるんだよなこれ? 知るのはグウィニス本人ばかり。




「ごめんくださ~い。どなたかいらっしゃいませんか~?」


 ここが犯罪者集団の根城である事が頭から離れているのか、のん気な声を出しながら廃工場の奥へと消えていく。間抜けで緊張感の欠片も無い女の声。


 俺もその後ろから付いて行くが、入り口から見えた内部はとても廃工場とは思えないような、しっかりとした作りをしていた。壁もしっかりしていて天井も高い。何より窓が多いから明るいしな。それに床も抜けている所がないようだぜ。


 閉鎖されてあまり年数が経ってないんだろうな。色々事情ってのもあるんだろうけど、こういう場所はとっとと誰かに売るか潰すかしないと、だから変な連中に利用されるんだ。まぁ俺が心配する事でもないんだけどもさ。


「おい、あんま入り込むなよ」


「だって誰も居ないんだもの。お留守なのかしらね?」


 留守、ねぇ。そういや、さっきのヤツが手薄だなんだと言っていたが……、つまりそういうことなんだろうな。


「うぅん、どこにあるのかしら? 私の落し物」


 ……この様子じゃ全然気づいてねぇみたいだ。この女にとって問題はそこじゃなくて、あくまで落とし物なんだな。


「つってもココにあるかもわからんし、これ以上厄介事に巻き込まれないうちにとっとと離れない? 離れたいなぁ」


「まあまあ、そう言わないで。……あ、そういえばねエルちゃん? 強盗といえば……」


 この切り口、覚えあり。つい最近、いやもっといえばついさっきに同じ状況に陥った経験がある。

 だが、人は学習の生き物だ。俺もそれに倣い、この場を切り抜けて見せるのだ!


「そ、そんな話は置いといてさ。今日はもう帰ろう! 後日、ラゼクのヤツを付き合わせるから。もうやめやめ! さ、後ろに向かってゴ」


「ヤアヤアお客人! このような過ぎ去りし文明の果てに何かお困りの御用でもおありかな? しかし、だがしかし此処は心休めるオアシスとは遠く、あるとすれば精々気高い我ら盗みの勇のみだ! さて、ではどのようなものをお望みかなお二方?」


 変なのが現れた。

 何故? どうして普通に帰らせてはもらえないのだろうか?

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