第33話 プチデート

『続いてのニュースです。


昨夜、A地区の宝石店にて強盗事件が発生しました。犯人はトラックに乗って逃走、パトカーに乗った警察官が追いかけましたが一度見失なってしまいました。


しかし、再度発見された際には犯人の男二人はロープのようなもので拘束され、犯人が犯行に使ったと思われるバッグの中に、盗まれたとされる宝石類二十点が発見されました。


警察は、他に犯人の仲間がいないか調べるとともに、犯人を取り押さえた謎の捜査協力者の行方も探しております。


では次に――』


 ラジオから流れるニュースを聞きながら、今だシャッキリとしない頭で朝食を貪っていた。


 今日は開いたバターロールにハムとレタスを挟んで食べるシンプルさ。そしてポタージュ。う~ん、いかにもな朝だな。


「ふぅん。夜中にそんなことがあったんだ、正義感の強い人もいるものね」


 ニュースを聞いて感心したような声をこぼすラゼク。だが、俺は正直そんなことに興味がなかったので適当に返事をした。


「ただの酔狂もんだろ? ここは都会なんだ、変わったやつの一人や二人……。どうでもいいじゃねえか」


「冷めてるわねぇアンタ」


 そんなジト目で見られたって興味がないものは興味がないんだ。俺が興味あるのは女と金と将来だけだぜ。あと飯と漫画とあれとそれとそれから……。


 つまりそれだけだ。


 今日はラゼクの提案で仕事は休み。俺としては部屋でゴロゴロするか外に出て色っぽい姉ちゃんをナンパするかとしゃれこみたいところ、だったんだが。


「アンタ覚えてるでしょうね? 今日はアタシの買い物に付き合うって」


「へいへい、ちゃ~んと覚えとりますとも。……ったく何十回も同じこと言わせやがって」


「アンタのニワトリ頭が心配だから何十回も言ってるんでしょうが。


お金だってある程度貯まったんだから、ここいらで生活用品をキッチリと揃えないと。


シャンプーやトリートメントだって買い足して、トイレットペーパーだって切れ気味だし。アンタ、アタシと同じ歯磨き粉で文句は無かったわよね?


それに洗剤も心配だし、フライパンだって見ておきたいし。化粧水も同じの使ってるから減りが早いし。


……ま、とにかく色々と必要なのよ。生きていくっていうことは、それだけであれこれ必要になってくるんだから。アンタちゃんとわかってる?」


「あ、うん。べちゃくちゃ回る舌だなぁって」


「は?」


「いや、その、ちゃんとわかってるって。うんうん」


 ややうんざり気味に返事を返すと、残っていたポタージュに口をつける。



 ……冷めてしまっていた、がっくり。


 ◇◇◇


 というわけでやってきたのは街一番の大型デパート。

 地上十階建ての建物だ。

 どの階が何の売り場か、なんて一々いいか。


 取り敢えず目的の物を物色して回って、そうして積み上がる俺の腕の中の紙袋達。

 こいつのお陰で好みの巨乳美女を見かけても、咄嗟に声を掛ける事も出来ない。


 ラゼクのヤツ、これを見越してたな。


 そんなこんなで巡り巡ってたどり着いたぜ衣料品売り場。

 といってもお高いブランド物じゃないがな、それは別フロア。

 大衆向けブランドを取り扱ってるこのフロアに俺たちは到着したのだ。


 服を選ぶラゼクに付き合わされる事、一時間。

 全く女の服選びってのは長いもんだな。


 な~んて考えていたんだが……。


「うん、なかなかいいわね。流石アタシのセンス」


「あ、そう」


 てっきり自分の服だけ選んでいたのかと思えば、俺の分まで持ってきて試着室に強引に押し込められた。あ、もちろん荷物はラゼクに持っていかれたが。


 着替えた自分の格好を鏡で見る。


 淡い紺色のテーラードジャケットに灰色のテーパードスラックス。中に白のロングTシャツときた。一言で言えばカジュアルコーデ。派手さは無いがシックで街中ならどこにいても溶け込めるだろう。


 ……つまり俺があんまり選ばないタイプね。


 とはいえ流石の俺様ときたら何でも似合っちゃうんだな。これで眼鏡でもかけたらもっと様になるか?


「じゃあ次のに着替えてね」


「まだ着替えるの俺?」


「いいでしょ? お金はアタシ持ちなんだから、大人しく着せ替え人形やってなさいな」


 とのことで。


 いやはや女ってのは自分のでも他人のでもファッションに時間をかけるもんだな。付き合わされる方は疲れるぜ。


「なんだかなぁ」


「何よ? だって着の身着のまま飛び出してきたんでしょ? 服だっていつもの冒険用と、雑貨屋で買ったパジャマとパンツくらいしかないんだから文句言わない」


「はいはい……」

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