第31話 無事終了
翌朝。
「オラッ! いつまで寝てんだエル! もう朝飯の時間だぜ!」
「ん~……あと五分だけ」
「ダメに決まってんだろ! とっとと起きろよ!」
「じゃあ……十五分」
「伸ばしてんじゃねぇッ!!」
「あ、そんな乱暴になさらなくても……」
ベッドから振り落とされた。
なんだよ一体? 眠いんだから仕方がないじゃないかよぉ。
強制的に覚醒していく脳が、周りを認識し始める。
そうだ、昨日は屋敷の部屋を貸してもらったんだ。ラゼクと同じ部屋に入って片方のベッドにそのまま倒れながら眠ったはずだ。
隣のベットを見るとそこにラゼクは居なかった。そりゃそうか、とっくに起きてるわな。
俺を見下ろすミャオ。それにティターニも居た。
ミャオは俺と違って朝に強いんだよな。でもそれに合わせるのは俺にはキツイのよ。
「というわけで……」
「おい待て、なに寝そべり直してんだ!?」
「流石にもう起きましょうエレトレッダさん。…………この寝坊助なところは変わらないなほんと」
ちぇ、ケチだなぁ。
ミャオは俺のリュックを投げつけて来て直撃、抗議しようにもアイツらはもう部屋を出て行った後だった。
仕方なく、俺はリュックから着替えを取り出して、あくびをしながら替えの服に袖を通した。
あぁダルぃなぁ~。
◇◇◇
ゼイルーグさんが用意してくれた朝食を食べ終え、町に帰るだけとなったその時。
「町に戻るなら、ついでにこれを郵便局まで届けてくれる?」
「え? そりゃあ別に構いませんけど。……手紙?」
渡されたのは一通の手紙だった。
宛て先は……、『ウォーラ・アンメル』?
「アンメル? どこかで聞いたような……」
「アンタそれ本気で言ってる? アタシ達の依頼主がどこだったか言ってみなさい」
「ドコって………………あ、アンメル商会だ。じゃあこのウォーラってのは?」
俺がそう再び聞くと、ため息をつくラゼク。
周り見たらミャオもため息ついてるし、ティターニも心配そうな目で見て来る。
なんだよ俺変なこと言ったか?
「あ、あのねぇ。商会の社長の名前でしょうが、なんで忘れてんのよ?」
あ、あれ? そうだったけか。
まあこれで学べ直せたと思えば良しじゃないの。
だが、それはそれで一つ疑問が浮かぶ。その社長さん相手になんで手紙を出そうなんて思ったんだ。知り合いかなんかか?
そんな俺の考えが顔に出ていたんだろう、彼女は答えてくれた。
「ウォーラは私の父よ。荷物が届いた返事も併せて手紙を書いた、というわけ」
「お父さんさんだったのですか? ですが、失礼ながら苗字が……」
言葉を濁しながらも質問をするラゼク。
でも確かに気になる、ゼイルーグなのに、父親はアンメルとな?
「アンメルは父方の姓よ。村の開発が中止と決まった時、父と母は村を離れたの。私はわがままで祖父と一緒にこの村に残ったわ。祖父が亡くなった今、私がゼイルーグを名乗ってるのよ」
「そのようなことが……」
ラゼクはそう呟くと黙り込んでしまった。
だが、なんとなく読めてきたぜ。デカい会社の社長がお抱えの社員を使わずに、わざわざギルドに依頼なんか出した理由が。
なんて事はねぇ、身内のやり取りに会社を動かせないからだ。私情で社員を使わない人間だから、社長として成功したって事かな。
何のやり取りだったのかは……流石に野暮だな。そんなプライベートなことに首なんか突っ込むもんじゃない。
「ではお預かりいたします。この手紙は私達が責任を持ってお届けしますわ」
相変わらずのよそ向き愛想で対応するラゼク。
「よろしくお願いね」
「お任せください。では、私達はこれで失礼させていただきます」
その言葉を残して、ラゼクはこの屋敷から出ていった。
きっと彼女の事だ、もしかしたら山の中で迷子になって最終的には俺の名前を叫びながら泣き出すかもしれない。
悲しい事だが、あり得ない話じゃないだろう。素人には迷いやすい山の中だ、錆びついた看板だけが頼りなだけに俺の手助けが何より必要になるだろう。
ふっ、全く仕方ねぇなぁ。
「何してんの? 早くしないと置いていくわよ、もう」
俺が脳内でカッコよく決めていたのに、屋敷に戻ってきて俺の腕を引っ張っていくラゼク。
えぇ、ここは俺が飛び出して先頭を行く場面じゃないのか?
◇
「何やってんだあいつ? じゃあな姉ちゃん。オレ達ももう行くぜ」
「気をつけてね。お陰で久しぶりの賑やかさを楽しませてもらったわ、お礼を言うわね」
「いえ構いません。テデも元気でね」
「貴女、雰囲気戻ったわね? さっきの子達にばれると何か不味いのかしら」
「あ……はは、いやぁ。ははは」
「もっとうまい事取り繕えよ。あ、姉ちゃん」
「どうしたの、忘れ物でも?」
「いいやそういうんじゃなくって。……そのペンダント、戻ってきてよかったな。じゃっ!」
「あ、急に腕を引っ張らないでおくれよ!? それではボク達はこれで」
屋敷を飛び出すように出て行く二人を見送るゼイルーグの顔には笑み。その肩にはイタチのテデがあった。
最後にミャオが言ったペンダントとは、今ゼイルーグが首にかけているものである。
ゼイルーグ本人はこれについて言及した事は一度もないが、今日初めて身につけたことで何か気づいたのだろう。
そのペンダント……瑪瑙の宝石がついたそれは、若き日の彼女の父が妻にプレゼントしたものである。彼の妻はそれを肌身離さず身につけていた。ゼイルーグと泣く泣く別れることになったその日も。
それが今ここにあるということは、それこそが荷物の中身であったという事。
手のひら大のそれが、それなりの大きい箱に入っていたのは中身を特定されない為か。
しかし何よりも、それが送られて来た事が意味するのは。
彼女の母が、もう………………。
◇
夕暮れ時。
なんとか日が出ているうちに町まで降りてきた俺達四人。
実は、弁当まで用意してくれていたゼイルーグさんには感謝だぜ。後腐れがないように弁当箱じゃなくて紙袋にサンドイッチを包んでくれているあたり、本当に気遣いのできる御人だ。これで胸までデカいんだからとんでもねえ物件だぜ!
ああ、もっと一緒に居たかったなぁ。
取り敢えず昼休憩にはそれを食べて降りてきた。
今は腹は減って無いが、それでも山道を歩いてきたからかやっぱり疲れたなあ。
今日のところは手紙を届けて、その後はバスと列車を乗り継いで帰るだけだ。間違いなく帰り着くのは夜になるけども。
「ミャオ、アナタはこの後はどうするの?」
「オレはおばちゃんに報告。猿もやっつけたし、これで安心できるだろ」
「そう……、じゃあ一旦お別れね。アタシ達も手紙を届けなきゃだし。…………あ。折角だから、互いの仕事の達成記念に甘いものでも食べましょ? ちょうどよくアイス売ってるし」
ラゼクの目線の先には、確かにアイスの屋台があった。
ソフトクリームねぇ、疲れた体にはちょうどいいかな。
というわけで屋台の前まで行ってみたのさ。
「ほらほら三人とも、何食べたい? 記念に奢ってあげるから好きなの言いなさいな」
「ではお言葉に甘えて、私はシンプルにバニラを……」
「じゃあオレ、ヨーグルト味がいい」
「さつまいもソフト」
「え、あるかしら? ……あったわね」
自分で言っておきながらなんだが、こんな田舎にしては揃えてるもんだな。
あれ? そういえば山へ向かった背の高い男とは結局会ってないな。
まあいいか、野郎なんてどうせ。
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