第30話 久しぶりの連携
俺は素早く化け猿の後ろに回り込む。そして反対側、つまりあの化け猿の正面に立っているミャオに素早く声を飛ばした。
「合わせてみせろよミャオ!」
「誰に向かって言ってやがる!! お前こそ鈍ってねえだろうな?!」
「ほざけってんだよ! 行くぞオラァ!!」
互いに罵声を浴びせながら駆け出す俺たち。正面と後ろその両方からの同時攻撃!
俺は背後から相手の右側頭部に向かってハイキックを。そしてミャオは勢いよく相手の体を蹴って飛び上がり、左頬に対してシャイニングウィザードを繰り出す。
「ウギィ!?」
両面からの同時蹴り、衝撃を逃がすこともできずフルに食らってしまう。
化け猿は汚い悲鳴を上げたと思えば、俺とミャオの足が顔面に食い込んでいるというのに無理やり上体を起こそうとしてきた。
「うおっ?!」
「ちぃ!」
予想外の反撃に慌てて離れる俺達。
警戒を解かず次の攻撃に備える、……はずだったのだが。
「お?」
相手の様子を見て不思議に思った。なぜなら、一向に反撃どころか一歩も動かないからだ。
もしかして……。
「ミャオさ、ちょっと触って来てもらえる」
「は? いやお前が行けよ。言い出しっぺなんだから」
「いいじゃんケチ。ちょっと行ってちょこんって触ってもらうだけでいいんだから、そのくらいしてくれたっていいだろ」
「そのくらいって思うんだったら自分で行けばいいだろうが」
「いやだって、変に触ったらもしかして動き出すかもしれないし、怖いかなって。触りたくないかなぁなんて」
「だったらなんでオレにやらせようとすんだテメェ!!」
ミャオと二人でぎゃーすか喚いていたら、ラゼクのため息が聞こえてきた。
「分かったわよ。私が行って確かめてくるから喧嘩はやめなさい。いいわね?」
そう言い切るとヤツは化け猿に近づいて、ちょこっと指でつついた。
するとどうだよ。これがまた拍子抜けするようにコロンと猿の野郎が倒れやがった。
つまるところ俺の勘が当たっていたというわけだ。
「いやさすが俺! 何から何まで冴えちゃって仕方がねえな、ティターニもそう思うよな?」
「え? えぇ……。さ、流石ですねエレトレッダさん」
「いや、んなワケねぇだろ。散々ビビリ散らしておいて何ほざいてんだ? せめて最後ぐらい自分で確認しろよ!」
「うるせえな。終わりよければ全てよしなんだよ!!」
「そのセリフ、アンタが言うと物凄くむかつくわね」
クソ、二人して責めてきやがって。
どうして俺を認めねえんだ? 嫉妬か? 全くしょうがねえ奴らだな。
一人納得していると、誰かが近づいてくる気配を感じた。振り向くとそこに居たのはゼイルーグさんだった。
「あれ、ゼイルーグさん? こんな夜更けに一体……? ああいやわかります、全く俺とした事が察しの悪い」
「本当に察しが悪いと思うわよ。絶ッ対アンタの考えてるような事じゃないから」
「ふぅ……。貴方が何を考えてるかは知らないけれど、何かと言われたら一つ確認をね。……そう、倒したの。よくやったわね」
ミャオとティターニに話しかけるゼイルーグさん。
この猿のことを知っていたのか。しかしよくやったとは?
「ああ、きっちり仕留めたぜ。四人がかりでなんとかってところだった。それでも長引けば体力的にこっちが負けていたかもしれねぇ、危なかったぜ」
ありゃま? 珍しく素直だなコイツ。そう言いたくなる気持ちもわからんではないが、わざわざ口にするなんてのが珍しい。
見栄っ張りで強がりなコイツがねぇ……。
「そろそろ話してくれない? 結局この猿は何だったのミャオ」
ラゼクがそう言って問いかける。俺もそれについては気になるな。
ミャオは大してもったいつけることもなく事も投げに答えた。
「ま、つまるところ。コイツを倒すのがオレとティリ」
「ごほん! ン゛ン゛!!」
「……俺の仕事だったって事だ、この辺りの妙な噂が街まで届いてな。といっても一部の人間しか知らなかったみてぇだが。最近やたら動きの速いデカい猿を見かけた、なんて言うんだ。人には被害が出てないが山の中の野生動物が食い荒らされてたらしくてな。気分転換がてらの観光ついでにこの辺りまで来たんだ。……どういう訳かしばらく遠征も旅も休む、なんてリーダー様が言うもんだからよ」
そこまで言ってミャオは何故かティターニに目をやった。
どこかバツが悪そうに眼を背けるティターニ。一体何なんだ?
「それで麓まで来て聞き込みしてたらさ、家畜を食われたくないっていう農家のおばさんに頼まれて。それで山の中を調べていたらこの村に着いたってわけだ」
「わ、私はその途中でミャオさんと出会ったのです。いやあの時は私もうダメかと思いました。このような偶然、神に感謝しなければいけませんね。ね? エレトレッダさん!」
「え? ああ、そうなんじゃないの? 俺そんな信心深くねぇけど」
何で急に手を握って来たんだろう? さっきまであんなに威勢良く化け猿蹴り飛ばしてたのに……、今更不安が来たってところか。
何故かそんなティターニを目を細めて一睨みしてから、ミャオは続けた。
この村には俺たちよりも一日早くついた。
そしてゼイルーグさんも最近妙な気配を感じ、化け猿の事に気付いた。そしてあの猿がこの墓に備えた花につられて現れると知り、ミャオはそれを利用したのだという。
そしてたまたま別の要件でこの村を訪れた俺たちを、これ幸いと巻き込んで化け猿退治って事らしい。全くはた迷惑な話だぜ。
ん? ということは。
「この墓は、何年も前からあの猿に食われ続けた村人達の墓じゃなかったって事か!」
「だから何の話してんだよお前?」
「その石碑はただの記念碑よ。まぁ周りに花を添えてあるから紛らわしかったかもしれないわね」
なんだよそれぇ……。無駄にビビっちまったよ。ビビり損だよこれは。
それを聞いてがっくりと肩を落とす。そして一気に襲いかかる疲れ。
ああ今日はもう何もしたくねえなぁ。これでまた屋敷に戻って荷物取りに行ってそっから空き家に行かなきゃならんのか。やだなぁ。
そんな俺の心情を察してか、ゼイルーグさんがそのまま屋敷に泊まるか聞いてきた。
俺の答えはもちろん……。
「ほんとすか?! いや~すいませんな何から何まで世話になっちゃって。えへへ。あ、しかしまだ危険が去ったと考えるのは甘いかもしれません、ので! ゼイルーグさんがきちんと眠りにつけるかどうか寝室で警護など――いて!?」
「もう! ヘラヘラ馬鹿な事言ってんじゃないわよ! 申し訳ありませんわ本当に。では、お言葉に甘えさせていただきます」
「気にしなくていいわよ。幸い、部屋は空いてるから」
「オレ達が泊ってる部屋の隣を使えばいいんじゃないか?」
「ええそうですね、私も……出来ればお二方には近い部屋に泊まって頂きたいです。気心の触れた方々ですし…………その方が色々面倒が無くていいですし」
「そうね、じゃあそうさせてもらうわ。……ほらエルも、今日は部屋で大人しくしてなさいな」
「ああそんな強引に腕引っ張るなよ!? 俺はこれから年上のお姉様のお部屋で心も体も癒すんだよ!」
「そんな展開がある訳ねぇだろオメェ」
(そうだそうだ、ボクだってそんな展開許さないぞ)
ちなみに、化け猿の亡骸はゼイルーグさんが処理するとありがたいことを言ってくれた。それはいいんだけどやっぱり寝室に行きたかったぜ。
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