第29話 過激なヒロイン達

「一体どういう事なの? この猿はなんなのよ?」


「アンタを巻き込んだ事は済まねぇと思ってるが、きっと冒険者としてプラスになるぜ。こういう経験をしておいて損はねぇからな。オレ達がここに来た目的も、この野郎をぶっ飛ばす為だからな」


 ミャオは化け猿を指差して言う。

 いや、いらんわこんなもん。


「あれ? ティターニって遭難してるとこを助けて貰ったんじゃ」


「ああ!!? ……そ、それはですねラゼクさん、私は人々の安寧を脅かす魔物を征伐するというミャオさんの崇高な目的に感激してお手伝いをしているというわけでありまして!」


「え? あ、ああそうだよ」


 何かこの二人いまいち連携が取れてないような。同じ目的じゃねぇのかよ。

 しかし、今はそれより言いたい事がある!


「大体だなミャオ、なんで俺には謝らないんだよ? あるだろ? 巻き込んですいませんでした。心の底から謝罪しますエレトレッダ様ってよぉ!?」


「あ? 別にオレ達にとっちゃいつも通りだろ? お前相手にいちいち謝ってなんかいられるかよ」


 こいつっ! 相も変わらず生意気ばかり言いやがって!

 憤りを感じるも、確かにもう逃げ場なんてない。だったらやってやるよクソったれ! こうなりゃやけくそだ!


 覚悟を決めて俺は目の前の化け猿をしっかりと観察する。


 背丈はやっぱり人間の大人程、そして体毛は一切なく皮膚は赤黒い色をしていた。その瞳孔は人間のそれとは違い真っ黒な穴のように虚ろ。口の部分は大きく裂かれていて、鋭い牙がよく見える。


 やっぱ怖えよぉ……。マジもんのバケモンじゃねえか。

 もっとこうさ、モンスターらしい愛嬌というものを。


 そんなことを考えたって現実は変わらないわけで、化け猿は再び襲い……。


「甘いぜエテ公!」


 襲いかかろうとして、右手にトンファーを持ったミャオに鳩尾をぶん殴られて吹き飛んでいく。


「うっそぉ!? やるじゃないあの子!」


 思った以上の実力に感心するラゼク。アイツはパーティーの切り込み役だったからこの程度のことは今までに何度も見ては来た。

 両腕のトンファーを使った武術がミャオの得意分野だ。


 しかし喜んだのも束の間、あの化け猿はまるで何事もなかったかのように立ち上がっては、またケタケタと笑っていた。


「テんメェしくじりやがったなミャオ!」


「馬鹿言え! あの野郎、インパクトの瞬間に体をのけぞらせやがった。大した猿知恵だぜ」


 マジ? 図体がデカいだけあって脳みそもデカいってか? 冗談じゃないぜ全く。


「私も加勢致します。サポートはお任せを!」


「仕方ないわね。アタシも時間を掛けたく無いから、飛ばしていくわよ!」


 一体何をするつもりだ二人共?


 そう思った時、ラゼクはどっから取り出したのか、いつのまにか両腕の指の間に苦無を挟んでいた。

 あいつ苦無とか使うんだ、初めて知った。


「おらぁ!」


 気合いと共に、両手の八本の苦無を同時に投げる。


 飛んでくる苦無を叩き落とす化け猿だったが、それでも何本かは体を掠めてしまう。

 だがそれがどうしたと言わんばかりに、元気に跳ね回り俺たちを撹乱しながら攻撃を仕掛けてくる。


 …………ん? 何だろう? 心なしか動きが鈍って来ているような気がするぞ?


「ラゼクさん、今のは一体?」


「お手製の神経毒を塗ってあるのよ。動けば動くほど苦しくなるわ」


「な、なるほど。…………この子、結構恐ろしい手を使うんだな」


 化け猿が苦しみ始めた途端に攻撃の手が緩んでしまうくらいだ、よっぽど強力な薬なんだろうと想像がつく。


「では私も続かせて頂きます!!」


 今度はティターニが何かするみたいだ。思えば彼女が何を出来るか知らない、ここは確かめ時か?


 ティターニは化け猿へと勢い良く駆け出して行った。そしてそのまま跳躍すると、空中で一回転してその勢いのまま踵落としを喰らわせる。


「とりゃあ!!」


 ドゴォッという音と共に地面が陥没するほどの一撃だが……それでも化け猿はまだピンピンしている。

 え、えぇ……?


「あ、あんなアグレッシブだったのか。いいとこのお嬢さんの見た目して。け、結構やるじゃないのさ」


「おいエル、感心してる場合じゃねえぞ。見ろ、アイツがこっちを見てやがる」


「え?」


 見れば確かにあの化け猿は俺達をジッと見つめていた。そして次の瞬間には、なんと口から火球を吐き出してきた!


「うえっ!?」


 慌てて避けるも、余波が熱いッ!!

 あんなの喰らったらひとたまりもないな……。


 それにさっきより動きが鈍っているとはいえ、まだ十分な力はあるみたいだ。油断できない相手だぜ全くよ……!



 だが、仕掛けるなら今がチャンスだ。

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