第26話 焦る勇者

 落ち着きを取り戻したミャオに、ラゼクが声を掛けた。


「アナタもコイツにおちょくられていた口なのね。アタシはラゼク・サトーエン。ユーミャオさん、でよかったかしら?」


「ああ。でもオレの事はミャオでいいぜ、お姉さん」


「アタシもラゼクでいいわ。ミャオ、アタシ達も今日の晩餐にお呼ばれされてるの。よろしく頼むわね」


 ミャオと握手を交わすラゼク。その上でしっかりとミャオが俺を睨んでくる。


「何だよ? 俺なりのちょっとしたお茶目だろ? まあ、そうカッカなさんなって」


「ば、止めろ!? 頭撫でんな! 髪の毛が乱れるだろ!!」


「わざとやってんだから当たり前だろ」


「テメェ!!!」


「だからやめなさいって言ってるでしょエル!」


「ぐええ!?」


 無理やり引き剥がされて壁にぶつかる俺。ラゼクめ、この馬鹿力め。



 そんなこんなで親交を深め合うラゼクとミャオ。そしてのけ者にされる俺。


「何だよ、淋しいじゃないのよ」


「自業自得でしょ。それよりユーミャオって珍しい名前ね? アナタのいた国だと普通なの?」


「そりゃあ、まあそういう国だったからな。そっちこそラゼクなんて中々聞かない名前だぜ? 一体どこの出身なんだ?」


「ああ、アタシは……」


 なんだよなんだよ楽しそうにしちゃってさ。

 いいもん、俺は一人でも妄想とかで楽しめるタイプだから。俺はそんな別に哀れな男とかじゃないから。


 そう思っていると俺の膝にちょんと乗っかる小動物。

 ここで飼われているらしいイタチのテデ。


「なあテデ。俺ってそんなに可哀想な奴に見える?」


 …………。


「そっか。やっぱり俺ってカッコよくって巨乳のお姉さんにモテモテなんだよな。それを分かってくれるお前は最高だぜ。今日から俺達親友だよな?」


 …………。


「そうかそうか! お前もそう思ってくれるか!」


「動物相手に恥ずかしくないわけ? ほらテデも呆れてるわよ」


「ちょっと何勝手言ってんだよ? 適当な事言うと許さないぞ」


「適当な事言ってんのはアンタの方でしょうが」


 今度は無理やりテデを引き剥がされる俺。あぁ結構触り心地良かったのにぃ。


「そういやお前今日は一人か? 他のチビ共とか小うるさい騎士様とかはどうした?」


「あ? 何言ってんだ、オレ以外にも……あれ? そういやアイツどこ行った?」


「アイツ? アナタ以外にやっぱり誰か来てるの?」


 とはいえ、周りを見ても誰も居ない。

 ここに居るのは俺達くらいで、そりゃ高そうなソファとか棚とかはあるけど。

 あと大きな扉、衣装棚かな?


「ああ、アンタは知らないと思うが。俺のパーティの――」


「ああ!! エレトレッダさん達じゃありませんか! このような所で奇遇ですね?!」


 バタンという音と共に奥の大きな扉が開かれ、そこから女が一人飛び出して来た。

 あれ? ティターニじゃねぇか。


「おうティターニ、そっちこそなんでここに? というかそこ衣装棚じゃ……」


「あ、いえいえお気になさらず! 私こういうものを見るとつい中まで気になってしまうんです!」


 うふふと笑う彼女だが、何故か息が上がっているような?


「ミャオ、アナタ彼女と知り合いだったのね。まさかティターニとこんな所で再開するとは思わなかったわ」


「は? ティターニ? いやコイツは――ていうか何だその恰好!? お前さっきまで――」


「おほほほ! いえ、ミャオさんとは山で遭難しかけた所を助けて頂いたんです。その時に服が汚れていたので着替えていましたの」


 ミャオが服について何か言いかけたが、単に急いでいつもの恰好に着替えていたってだけか。

 あれ? じゃあ衣装棚の中を見るついでに着替えたって事か? 変なの。


「しっかし本当に、偶然の出会いってあるんだな。ティターニの用ってこの付近だったのかねぇ」


「はあ? エルお前何言ってんだ? こいつティリ――」


「ン゛ン゛! ミャオさん、ちょっと廊下の方まで来て頂けますか?」


「ミャオさん!? お前その喋り方といい急になん――おい首根っこ掴むな!?」


「ではお二人共、直ぐに戻って来ますので」


「離せよ、おい!!?」


 一体何だというのか? ミャオを持ち上げたかと思うとそのまま部屋から出て行ってしまった。


「彼女って意外に力あるのね」


「ミャオのヤツが軽いってのもあるんだろうが……。やっぱ背が高いだけあって見た目以上に筋肉があるんだろうな」



 二人が戻って来たのはそれから二分後位だったかな?

 何やら不満顔のミャオが印象に残った。


「何があったか知らねぇが、明日には身長が二十センチぐらい伸びてるかもと思って元気出せよ」


「いや流石にそんなわけねぇだろ」

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