第25話 新たなヒロイン

 お姉様の案内で屋敷を進む俺たち。いやしかし、あの後ろ姿も気品があって人を惑わす艶があって……へへ、堪んねぇな。


 貴族の屋敷と言う割にはいわゆる装飾品のようなものは特にないがその内装は品を感じさせるものじゃあった。


 程度の良い調度品なんかあれば、交渉して貰えないかなぁなんて思うくらいには。


「あんた今なんかロクでもないこと考えてなかった?」


「何言ってんだ人聞きの悪い」


 頭をかしげるラゼク。全く感の鋭いヤツめ。これはおちおち考え事も出来ねえぜ。


 半ば不貞腐れながら歩く俺はどこからか声が聞こえてくるの聞いた。


「あん? 誰かいるんですかい?」


「ああ、実は昨日からこの村に泊まっている人が居てね。一緒に晩餐でもしようと客間に待機してもらってるのよ」


「へぇ、私たち以外にもこの村に」


 さっき言ってた賑やかってこういう事か、なるほどね。

 その客間とやらが近づくたびにその声もやはり大きくなってくる。若い女の声だ。



「はは、くすぐったいって!」



「くすぐったい? さっきのイタチとでも遊んでるのかしら?」


「もうあの子にあったの? 私が可愛がってる子で、名前はテデって言うの」


「まあ、可愛いらしい名前ですわね」


「何年か前にこの村に来て懐かれて。それから一緒に暮らしてきたのよ」


「ほぉそれはっ……羨ましい限りで」


「アンタ何その恨みがましい声? 小動物に嫉妬なんてしてんじゃないわよ」


 軽く小突かれて思わず声を出してしまう俺。

 隣を見ればラゼクがプンプンと怒っていた。


「まあいいんじゃないかしら? 貴方達があの子と出会ったというのなら、危害を加えない人間だからでしょうし。ここに居る間、仲良くしてあげて」


「だってよ?」


「こら! すいません。ではそのように」


 申し訳なさそうに頭を下げるラゼク。と、押さえつけられて一緒に頭を下げさせられる俺。相手がいいって言うんだからいいじゃねえかよ。


 しっかしこの笑い声どっかで聞いたことがあるような。


 そんなことを考えていると俺たちは客間の前へとたどり着いた。


「ここよ。中でくつろいでくれる。私は食事の準備をしてくるから」


「手伝いますわゼイルーグ様」


「気にしなくていいわ、仕込みはもう大体終わっているから。それに貴方達はゲスト、ここは家主にわずかな華を持たせると思って。ね?」


「そこまで言われれば、こちらとしても引き下がるしかありませんわ。ではお言葉に甘えさせてもらいます」


「ええ」


 満足げな表情を浮かべて厨房へと向かうゼイルーグお姉様、その麗しい後ろ姿を見送った。


 そして、残された俺たち二人は客間に入っていったのだ。


「んじゃ、失礼しますよっと。……あれ?」


「あ? あ、お前!?」


 俺たちが中に入ると中にいたのはイタチと戯れる少女。

 だが、その姿にはよーく見覚えがあった。


「ミャオか? なんだチビすけ、こんなところで何やってんの?」


「久しぶりに会って言う事がチビだ? とんだご挨拶だな!」


「何? この子アンタの知り合い?」


「ま、その。元パーティメンバー、かなぁ? あぁ、ユーミャオってんだ」


 そこに居たのは俺の元パーティーメンバー、ル・ユーミャオ。


 俺の二つ下の十七歳。朱色? ワインレッド? 詳しく知らんがそれに近い髪色の少女でチビで胸無しだ。

 遠い東の出身の外国人で、何とかって武術を使う武闘家でもある。


「まあいいじゃねえか。お前も久々だな、そんな離れていたような気がしないでもないけど。お、背ぇ伸びたんじゃねえか?」


「え? ホントか?」


 嬉しそうな声出しちゃって、単純なヤツだな。

 俺はミャオに近づきつつ、続ける。


「ホントホント。だってお前、もう俺の胸くらいまで……伸びてるわけねえだろたった数日でよぉ! がっはははは!」


「あ゛!?」


「マジになってんなよ。相変わらずカルシウム足りてねえな。いや、むしろ足りてるか? だって牛乳がぶ飲みしたって腹が壊れるだけだって、いつも言ってた俺って親切な男だよなぁ!」


「て、テメェ! ほざきやがったなぁ!!」


「ちょ、ちょっとやめなさい二人とも!? 他人様のお屋敷で何やってるの!」


 止めに入ったラゼクにより強制的に中断させられる俺とミャオのやり取り。

 おっといけねえや。つい、いつもの調子でやっちまったぜ。

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