第20話 のどかな場所へと

 翌日。


 リュックを背負ってバスを降りた俺達。ついたのは勿論、ウォーランヴィレッジを頂きに置く山の中腹『スージュタウン』。

 緑豊かな山の木々に囲まれたこの町は、田舎町特有ののんびりとした雰囲気に包まれていた。


 来たこともないのに懐かしく感じるこの感覚、嫌いじゃないぜ。


 ちなみに、ティターニはしばらく用事があると言ってここ数日会ってない。今頃何してるんだろうか?


 道端じゃあおばさん達が会話に華を咲かせ、子供達が公園を走り回り、個人商店からは笑い声が聞こえる。

 全くどいつも芋臭い顔をしてる。これも田舎の醍醐味ってやつか。


「う~ん……。牧歌的というかなんというか、のほほんとしてるわね。こういうの好き」


「おいラゼク。お前まさかここに永住するつもりか? 田舎は来るのと住むのじゃ全然違うぞ」


「分かってるわよ、アタシだって里の生まれなんだから。そういうことじゃなくて、故郷を思い出して落ち着くって感じなの。分かる?」


「俺ってばそれ程おセンチにはなれんのよね。ま、嫌いじゃないとだけは言っておいてやる」


「あっそ」


 つまんなそうな顔をしてラゼクはそれっきり話を切り上げた。

 こいつ案外自分の故郷の話題とか話したがるタイプなのか? 意外に可愛いところがあんのかも。


 そんな話をしているうちに、目的の場所へと辿り着いた。


『スージュタウン郵便局』


「お、ここだここだ」


 数十年の重みを感じさせる古びた建物は、風情があるとも言えるし、単にボロいだけとも言えた。


「……意外に小さいわね」


「いかにもな田舎の郵便局って感じだろ? とにかく入ろうぜ」


 中に入ってみれば、これまた意外と涼しい空気が流れていた。

 山の気候がそうさせてんだろうか? 平地に比べて随分と過ごしやすいぜ。


 壁には掲示物がズラリと飾られており、国の御触れは勿論だが地域密着型のニュースペーパーなども貼られている。


 受付窓口の向こう側にいる年配のおばちゃん職員に話しかけてみる。


「すいません、俺達ギルドからの配達依頼で来たんすけど」


「はい、『アンメル商会』様からのお荷物をお預かりしておりますが、本人確認の為にギルドカードを拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」


 言われるがままにカードを差し出すと、おばちゃんは書類を引き出しから取り出し、カードと照らし合わせて確認を開始した。


「はい、確認致しました。では『アンメル商会』様より預かっているお荷物をお持ちしますので少々お待ち下さい」


 そう言って奥へと消えていくおばちゃん。待つと言っても数分もかからなかった。

 割とすぐ戻ってきたおばちゃんから渡されたのはそこそこ大きな木箱だった。側面には会社のロゴが刻まれており、どうやらこれが依頼主の荷物らしい。


「えっと、因みに中身なんか聞いちゃったりして?」


「申し訳ありませんが、ご依頼主様からその点に関しては聞かされておりませんので」


「ふうん、そうっすか。で、渡す相手はどなたに?」


「ええ、ウォーランヴィレッジにお住まいの、とある貴族様にお渡しするよう仰せつかっております」


「へぇ、貴族様に。……あんなところに?」


「詳しい内容はこの書類をご覧ください。それと、こちらに受け取りのサインをお願いいたします」


「あ、はいはい」


 サラサラッと署名をし、荷物と書類を受け取る。


 さーてと、んじゃ! 参りますか!


「という事でパス」


「ちょっと!? いきなり何よ?」


「別にいいだろ投げ渡してるわけじゃねえんだから。はい受け取って」


「……全く」

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