第19話 依頼開始

 胸部の主張の激しい少し年上に見えるお姉さんな受付嬢と話す事も許されず、またしてもラゼクが一方的に話をつける事になった。


 あのお姉さんと話す事がこのギルドに来る最大の理由なのに、全くなんてことしやがる。


「アンタが鼻の下伸ばしてダラッダラとアホみたいな事しか喋らないからでしょ」


 なんて、アイツに言わせればそうなるんだろうが。俺からすれば、ああいう巨乳美女とお近づきになれるかもしれない機会なんだぜ!? 逃せるはずがないだろう!」


「だから、それがダメだって言ってるのよ」


「なんだよお前、人の考えが読めるってのか?」


「ブツブツと口に出してたでしょうが気持ちの悪い。そんなことばかりやってると益々女の子に嫌われるわよ」


「なんだと? 好き勝手言いやがって。だいたいお前戻ってくるのがちょっと早すぎないか? 本当に依頼持ってきたのかよ」


「当たり前でしょ。ほら、これがその証拠よ!」


 そう言うと、ラゼクは懐から一枚の依頼書を取り出して見せつける。

 そこには、こう書かれていた。


『配達依頼。


依頼人:アンメル商会。場所:ウォーランヴィレッジまで。


まだまだ人通りが整えられていない場所にある為、一般の配達業者を利用する事が出来ません。

あの村は旧政権時に開墾されていた場所ですが、今ではあまり人が住み着いてはおりません。


ご存知とは思いますが、開拓計画が数十年前の政権交代の騒動で一旦白紙となりました。その為、未だに道路の整備も行き届いてはおらず、トラック等の使用が不可となっておりますので腕に覚えのある冒険者様のお力をお借りする事で確実に荷物を届けて頂きたいと考えております。


報酬は前金として三万ペレル。成功時には更に追加して五万ペレルのお支払いを約束しましょう。詳しい依頼内容はウォーランヴィレッジへと向かう途中にあるスージュタウンにて。では、お待ちしております』


「ウォーランヴィレッジねえ、……確か山奥にある結構なド田舎だったな。あの辺りは無責任な政策の被害を受けて未だに満足に電気も通って無いって聞くぜ」


「そうみたいね。でも、だからこそ仕事があるんじゃないかしら」


「まあ、そりゃそうだがな。確かふもとまでは線路が通ってたはず、列車で向かった後は山の中腹の町までバスがあった気がするから、そっから歩きだな」


 面倒くせえな、ロクすっぽ舗装されてない山道を歩き続けるとなると体力もそうだが時間も掛かる。

 靴もトレッキング使用に変えなきゃキツいかもな。


「そうそう、それともう一つ。これはアタシ達にとってかなり重要だと思うんだけど」


「なんだよ?」


「依頼主のアンメル商会。聞いた事がある?」


「あん? そりゃあお前、最近よく聞くようになってきたからな。投資家連中が生き生きするくらいには元気な会社じゃねえの」


「それもあるけど、もっと大きな意味よ」


 どういうことだ? 思わず頭を捻っちまったぜ。


「いいから聞きなさい。まずアンメル商会というのは、ここ数年急成長している中堅の運送業社よ。元々小さな運送屋だったらしいけれど、数年前に出資を受けたあたりからは飛躍的な成長を遂げたって噂。それだけの勢いのある会社なんだから、態々ギルドに依頼なんてしなくてもお抱えの人材がいるはずよ。なのにわざわざギルドに依頼してきたってことは……」


「……リスクとリターンが釣り合わないから投げてきたってことか? 冒険者連中に端金渡して行ってもらう方が言い訳も立つってのもあるのかもな」


「そういう事。でも、アタシ達みたいな貧乏駆け出し冒険者はこんなのにでも食いついていかないとやっていけないでしょ?」


「確かにな。ま、ウダウダ考えたってね、仕方ないわな。所詮は餌にありつく犬ですもの、相手が誰だろうと依頼主様には尻尾振らにゃ明日も見えない身の上だからして……。さて、そうと決まれば善は急げだ。早速準備に取り掛からないとな。取り敢えず足周りは固めないと……」


「よしじゃあ、しゅっぱーつ!」


「おっと!?」


 言うが早いか、ラゼクは俺の腕を取ると強引に引っ張って行き、俺はつまずき掛けながらもギルドを一旦後にした。

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