第14話 第三のヒロイン

 それからも俺達はヴェノムスパイダーを狩っていった。ヤツは巨体で中型犬ぐらいはあるが、結局のところ攻撃方法は毒液を出すぐらいしかない。鋭い牙こそ持っているものの、確実に獲物を仕留めた時しか使わないのだ。


 毒液だってすぐに吐き出せるわけじゃない。生産する、溜める、狙う、の三拍子を踏まないと行えない。だから駆け出しの冒険者の獲物にされやすい。

 まあ、俺達にとっては都合の良い相手だ。


「これで五匹目ってね。こんなもんでいいだろ、相変わらず小遣い稼ぎにはちょうどいい相手だったぜ」


「結局、剣を使わなかったわね。アンタ本当に剣士なの? それとも単なるファッションでそんなのぶら下げてんの?」


「んなわけねぇだろ。俺ほどの腕を見せるにはコイツらじゃ雑魚すぎるんだよ。もし俺が剣を抜いたら坑道にいる蜘蛛共を皆殺しにしちまう」


「へぇ~……」


「な、なんだよその目は? 疑ってるな! 俺の華麗な剣技を見せるには勿体ないから敢えてだな!」


「はいはい。わかったから、信じて上げるから」


「まあまあ、お二人共落ち着いて。私もエレトレッダさんのかっこいいところ、見てみたい気はしますが。それはまた後程という事で」


 今日あったばかりだというのに、ティターニは既に俺の良さを分かっている。この子はきっと将来大物になるぞ。


 それに比べてラゼクの奴! 全く信じてねぇな。

 今に見てろよ! 後できゃあきゃあ言わせてやる!


 十分な写真を撮れた俺達は、元来た道を引き返そうとしていた。


 その時だった……。


「あん? まだいたのか、しつけぇな。ほれ、今なら見逃してやるからどっか行け」


 入り組んだ道の脇から飛び出してきたヴェノムスパイダーの一体。

 とはいえもう十分に狩った以上、やりすぎるとギルドに目をつけられる。

 腕を振って追い払おうとした。


 だが……。


「ん? 何か様子がおかしくは無いでしょうか? 心無しか色も違うような」


「う~ん、言われてみればそうとも言えるし。そうでもないとも言えるし」


 ティターニの言う通り、確かにコイツは様子がおかしい。

 どことなく生気がないような、それでいて今にも食って掛かりそうな。


 なんとなくヤバイ気がした俺は、落ちていた木の棒にライターで火を付けて投げつける。

 すると、当然のように燃え上がる毒蜘蛛。


 普通ならこれで勝負は決まるはず、だったのだが。


「あ、あれ? なんかピンピンしているような。………………あ! コイツ、アンデッド化してやがる!!?」


「なんですって!? 嘘でしょう、なんだってこんな所で……!」


「不味いかもしれません。今の我々の装備では太刀打ちは難しいかと!」


(最悪、ボクが力を使うか? だけどあくまで最後の手段だ)


 そうか、だから見た目もなんか薄い色をしていると思った。

 こうなると厄介だ。どんなモンスターでもアンデッドになっちまえば弱点を突かない限り倒せない。


 マズイ! 俺は聖属性の魔法なんて使えないし、聖水の類も持ってきてない。


「一、二の三だ。三と言ったら思いっ切り走るぞ。こんなのいちいち相手なんかしてらんないぞ」


「わ、わかったわ。なんとか入口まで逃げ切って、そこで落ち合いましょう」


「よし。一、二のさ」


 ん! と言い切ろうとした矢先のことだ。


 突然、クソ蜘蛛の体が光に包まれたかと思うと、そのまま光の粒となって消えていった。


 どゆこと?


 このついていけない展開に思わず顔を見合わせる俺たち。



「あれ? エレぴじゃーん。こんなとこで何やってんの?」



 聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 ここは坑道の中でも開けた場所で、ここを起点としていくつもの道に別れている。そのうちの一つから声が聞こえてきた。

 ひょっこりと顔を見せてきたのは、俺の見知った女。


「あ! お前、なんでここにいるんだ?!」


 そこにいたのは聖職者の格好をしていながら、チャラついた口調に浅黒い肌を持った金髪の女。おまけに胸は無い。


 俺が元居たパーティメンバーの一人、ラティーレン・ゲレーダル。

 俺の一つ下の僧侶である。見た目通りのギャルである。黒ギャルである。


 その見た目通り、ノリで生きてるような女である。

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