第12話 計算外だった勇者

「それじゃあ新たなパーティメンバーを祝して握手でもするか、はい」


 俺は手を出したのだが、一向に握られる気配は無い。どうしたんだ?


「あ、いや、その。……ちょっと緊張で手が汗で濡れていて、ごめんなさい」


「そう? じゃあ仕方ないけど」


「…………流石に、握手でもしたら手の豆でバレてしまいかねないからね」


 さっきから妙にブツブツ言ってんなこの子。

 いや、よそう。人にそれぞれ他人に言えない事情ってもんがある。

 誰も居ない空間に話し掛けたり、急に腕を苦しそうに抑えたり。そういう経験に覚えがある人間も多いだろう。


「何はともあれこれでパーティ結成ですわ。これからは二人、二人三脚で頑張って行きましょうね!」


「いやはや、可愛らしい事言ってるところ悪いけどさ。……俺もう別の相手とも組んでるから三人なんだな」


「ほえ?」


 物凄く間抜けな声を上げるお嬢さん。そんなに意外だったか?

 一人フリーズしているお嬢さんを余所に、受付を終えたらしいラゼクが戻って来たようだ。


「お待たせ。って、このお嬢さん誰? 何で固まってんの?」


「その、理由は知らんけど。俺達のパーティに入りたいんだってさ、駆け出しで心細いんだって」


「ふ~ん、アタシは構わないけど。何ていうお嬢さんなの?」


 お、そういえばまだ名前聞いて無かったな。

 俺はまだ固まってるお嬢さんの肩を揺らしながら、名前を尋ねる。


「お嬢さんお嬢さん、お名前は何ていうの?」


「……はっ! あ……えと、私はティ……」


「ティ?」


「あ、その、……そう! ティ、ティターニです! よろしくお願いしますね!」


「お、おう」


 何か妙に慌ててたな。まだ緊張してるのかな?

 まぁ駆け出しならこういう事もあるだろう。

 そんな訳で俺達は新たな仲間を加え、三人でパーティを結成したのだった。


「ん? どうしたの私の事ジッと見て?」


「あ! いえ、ごめんなさい。ちょっと獣人族の方に縁が無かったもので」


 これも駆け出しあるあるかな。よし、じゃあ早速出発と行くか!



(本当に驚いた。まさかもう女の子とパーティを組んでるなんて……それもこんな美人。でも胸の方はボクと互角だ、何も焦る必要は無いはずだ!)


 ◇◇◇


 そんなこんなでやって来たぜレッデレア坑道、その前。

 いやぁ久しぶりだなぁ。


「これがお前達にとって初仕事だろ、記念に写真でもとっとくか? ほら入り口に立ってピースピース!!」


「フィルムがもったいないでしょうが。大体アタシはそんなミーハーな冒険者じゃないわよ。ほら、ティターニもこんな馬鹿に付き合わなくていいから。さっさと中に入るわよ!」


「あ、はい」


 なんだよノリ悪いな。


 レッデレア坑道。坑道とは言うがここはもう使われなくなって随分経つ。


 元は坑道の先にある金鉱山へと続く洞窟だが、数十年前にゴールドラッシュが終わり今では人っ子一人寄り付かない。


 鉱山は穴だらけになっていつ崩れてもおかしくない為に封鎖、そこへと続くこの坑道も関係者以外の立ち入りが禁止された。


 つまり、ここは人の出入りの全く無い場所だということだ。

 なので、ここに巣食う魔物達にとっては絶好の住処になっている。


 それはつまり冒険者達にとっても格好の仕事場ってわけだ。


「それにしても、相変わらずジメッとして暗いところだぜ。今や心霊スポットにもなっちまったしな」


「ふん、幽霊なんて怖く無いわよ。もしいたとしても、そしたら退治すれば良いだけの話だしね」


 そう言って腕まくりする仕草をするラゼク。

 なんとも頼もしい限りだぜ。


「……しかし妙に静かですね。いくら入って間もない所とって言っても、少しは魔物の気配を感じもよいものなのですが」


「もしかして、もう誰かが中に入ってるとか? 依頼を受けてるのはアタシ達だけじゃないはずだしね」


「やっぱそんなところか。とっとと中入って片付けるもん片付けようぜ? 取り分減らされちゃあ堪んないからよ」


「はいはい分かったから。急かすんじゃないの」


 そう言うと、ラゼクは俺の腕を掴んで強引に中へと入っていった。

 何すんだよ? ティターニだってキョトンと見てるじゃないか。


「アンタが土壇場で逃げないって保証も無いからね。一応先輩冒険者でしょ? 格好いいとこ見せて見なさいよ」 


「おいおい、俺はチキンじゃねえぞ」


「どうだかね、アンタってホント臆病そうだもの」


 全くなんてことを言いやがる、俺ほどのベテランを捕まえて。これだからモノが分からねえ素人ってのはよぉ。


 心の中でぐちぐちとそんなことを零すが、無理やり腕を引っ張られているので、俺の意思とは関係なく体が前へと進んでいくのであった。


「ちょ、ちょっと!? このままじゃ転んじまうよ! ……あっ」


「あっ」





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