第11話 新たなる女性

 それはそれとして、冒険者にとって装備は命綱そのもの。

 武器は勿論のこと、防具だって重要だし、道具だって忘れてはならない。

 特に俺達は駆け出しなんだから、準備不足が祟って命を落としたなんてことになったら笑えない。


 手持ち無沙汰になったし、その辺りちゃんと確認でもして……。


「あの~、もし」


「はい?」


 リュックの中身を確認しようとした時、どこか透き通るような耳障りの良い女の声が聞こえて来た。


 そちらの方を見やると……これまた残念な感じのスカスカ具合な、ある意味でピンとハリのある胸部装甲が――。


「あ、あの? 何を見てらっしゃるんですか?」


「おっと、これまた失礼。それでお嬢さん、このダンディなお兄さんに何か御用事かな?」


 見ず知らずの女の胸をジッと見るのは失礼、そんなのは先刻承知なのでバレない内に相手と目線を合わせる。

 俺だって無い物をいつまでも見るような酔狂な男じゃないしね。


 しかし、このお嬢さん。

 身形こそお上品なお嬢様然とした、落ち着いた感じの服装だ。


 下はベージュのロングスカートで、上は白いブラウス。

 その上に羽織っているのは紺のカーディガンか?

 一見すると良家のお嬢様って感じだが……身長が俺と然程変わらないレベル、つまり一九〇手前だ。珍しいな。


 じつはかなりの健康家で、休日は食と運動に強い拘りでもあるみたいな。


 髪の色はオレンジで、お嬢様な見た目の割に意外と髪が短いな。


 どことなーく俺を追放した元パーティリーダーを彷彿とさせるが……。

 あんなキザな男と温和なお嬢さんを一緒にするのは失礼な話か。


「はい……実は冒険者の方とお見受けしましたので、少しご相談したいことがございまして」


「ほう、それはまたお目が高いな。俺ほどの実力者もそうは居ないし、それでいてこのルックス。これ程高いレベルでバランスの取れた冒険者もそうは居ない。お嬢さん、人を見る目が一流だな」


「え? ……えぇ、それ程でもありませんが、褒めて下さって感謝致します。それで、その……ご相談したいことが」


「おっとそうだったな。いやこりゃ失敬、お嬢さんが中々可愛らしい反応をするもんだからついつい本題を忘れてしまった」


「……そ、それはどうも……」


 褒められて悪い気はしないのか、少し照れたような仕草をするお嬢さん。


 この初々しさは嫌いじゃないね。

 胸こそ無いがこんな美人さんに頼られるなら悪くは無い。


 どーんと話の一つや二つ聞いたろうじゃないの!


「それで話って? あ、お金の相談なら無理だぜ? 俺も今や持たざる者だからな。でもそれも今だけさ、その内ビッグに成り上がって両脇に美女を侍らせながら金の風呂に入ってやるんだ。……まぁそれは置いておいて金以外の相談なら受け付けよう」


「えぇ実は、その……私は駆け出しの冒険者でして、他にパーティを組んで下さる方を探していたのですが」


「それで俺に声を掛けたって訳か……。成程」


「ご迷惑でしたか? 出来るだけ頼りがいのありそうな方と組みたくて」


 言い分は分かる。この不安でもじもじとしているお嬢さんの気持ちも駆け出しならば仕方ない。


 しかし、こんな大人しそうなお嬢さんが冒険者になるだなんてな。身形も綺麗だし、金に困ってる訳でも無さそうだし。見た目に反してアグレッシブなお嬢さんだな。


 どうせパーティを組むなら今度こそ巨乳の姉ちゃんが良かったが……これも何かの縁だ、引き受けようじゃないの。


「いやいや、迷惑だなんてとんでもない。寧ろ大歓迎さ。どーんと大船に乗ったつもりでサポートしてやるぜ」


「ありがとうございます! 本当に嬉しいですボ……私。それで、あの、お名前を教えて頂いても宜しいでしょうか?」


「おっとそうだったな。俺はエレトレッダ、どうよ名前までイカしてるだろう? ま、様付けでもさん付けでも好きに呼んでくれ」


「分かりましたエレトレッダさん! …………よし、まずは第一関門突破と言ったところか」


「何か言った?」


「い、いえ何も!」


 うん? 何か一瞬雰囲気が変わったような気がしたが、気のせいだろう。

 もしくは俺程の男と一緒に居るんだし、やっぱ緊張でもしてるのかな? きっとそうだな。


 ならばこそ、ここは俺が身構えて安心させてやらねばなるまい。

 これで胸が大きかったら何の文句も無いんだけどなぁ。





 ここまでお読み頂きありがとうございます。

 もし少しでも面白いと感じて頂けたならば、応援、フォロー、★等をしていただけると大変嬉しく思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る