第5話 助けたヒーロー

 あ! 胸しか見てなかったけど、よく見たらこの女さっき俺の股間を蹴り上げてくれた女じゃねぇか!! 冗談じゃないよもう。


 そう思って立ち去ろうとしたが、ふと思った。これは恩を売るチャンスでは?


 この俺を蹴っ飛ばした女が頼ろうとしている。これはヤツにとっても屈辱なハズだし俺もスカッとする。その上でこっちの言い分を通す事も出来るのでは?


「助けて上げなくもないけど、それって俺に旨みがあるわけじゃないしなぁ」


「何よ、さっきの事なら謝って上げるから!」


「いや、所詮謝罪なんて口だけだしな。誠意ってのはさ、やっぱ物と行動の中にあるものなわけなのだから」


「~~~っ! アンタの言う事一つ聞いて上げるから!! それでいいでしょ?!」


「へへ、毎度あり」


 俺は即座に駆け出した。


 その姿、まさしく騎士の元へとはせ参じる騎士のようである。もはやそのものと言っても過言じゃない。


 男の前に姿を現した俺に対して、男は挑発気味に話しかけてくる。


「おうおう、一体何の用だあああん? ヒーロー気取りなんかしてると痛い目をみるぜドチビ!!」


 あ~ん俺がチビだぁ? テメェが三メートル近くあるだけだろうがよおおん? こちとら百八十後半なんだよ。


「ああ? 何て言ってんのかわかんねえよハゲゴリラ。町中でウホウホ言ってる暇があるなら、自分から檻に入るぐらいの愛嬌でも見せてみろってんだ」


「んだとゴラァッ!!!」


 ブチ切れた男が殴りかかってくる。だが遅い。遅すぎる。

 そんなパンチなど当たるはずも無く、俺は軽々と回避する。


 全くこれだから、頭の中までウホウホ言ってるような野蛮人はよぉ。


「皆さーん暴漢ですよ! 婦女暴行犯がいますよ、変態ですよ!! お巡りさーん!!」


 俺はありったけの声を上げて叫ぶ。

 すると周囲はざわめき始め、やがて野次馬が集まってきた。


「くそ、覚えてやがれドチビがぁ!!!」


 ありきたりな捨て台詞を残して男はケツをまくって逃げていった。


「見せかけだけの筋肉ゴリラが、ポリ公の名前叫んだだけで逃げて行きやがったぜ。全くダセェな」


「ってアンタも結局他力本願じゃない!」


 なんだよせっかく助けてやったってのによ。やり方なんざ俺の勝手だろうが。


「どんなやり方でも結果は結果だ、約束は守ってもらうぜお嬢ちゃんよぉ」


「……何よ。あんまり無茶は無しだからね」


「安心しろって、俺だって相手は見るんだからよ」


 俺に対する警戒心を解かず、それでいて尻込みするように弱々しい態度の猫耳の小娘。


 とりあえず俺が望むことは一つだ。


 ◇◇◇


「ふい~。食った食ったぜ。いや満腹満腹! 持つべきものは助け人ってか!」


「あ、アンタ。ホントに遠慮しないわね……」


 街中にあるファミリーレストラン。そこの一角を占拠して、テーブルに並べられた皿をすべて空にした俺は満足気に自分の腹を小突いていた。おっと、思わずゲップが出かけた。

 その様子を呆れ顔で見る、助けた胸無しの少女。

 他人の金だぜ? どうして遠慮なんかする必要があるって言うんだよ。


「いいじゃねえか、これで貸し借りなしになったわけだしよ。そちらさんの気がかりが一つ減ったわけで、これもある意味人助けだろ」


「何て図々しい性格なの……。アンタ友達とかいないでしょ?」


「失礼な奴だなぁ。ま、昨日一人いなくなっちまったのは本当だけど」


「?」


 何のことかわからず頭をかしげる眼の前の女。

 実際コイツには何の関わりあいもない話だし、どうでもいいんだよそんな事は。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る