第12話 若いエルフと
私が馬車を降りると、周囲がざわめきに包まれた。ふっ、
「人気者というか、『混雑の原因が来やがった。さっさと捕まれよ王都から出られねぇよ』って感じの視線じゃないのかな?」
容赦ないエレーナのツッコミであった。世知辛い世の中である。
私が世の不条理を儚んでいると、騒いでいた門番とエルフがこちらに気がついた。
「み、見つけたぞミライン・ガンドベルク!」
と、いきなり槍を構えて突進してくる門番。何コイツ、怖っ。
あまりに怖いので風の魔法で吹き飛ばしてしまう私であった。ちょっと手加減を間違えて城壁にめり込んだけど、正当防衛だから是非も無し。
「…………、……そこのお嬢さん、大丈夫? 乱暴されてない?」
と、城壁と門番から目を逸らし、詰問されていたエルフちゃんに微笑みを向けた私である。
「巻き込まれた原因はミラだけどね」
馬車からの親友のツッコミは聞こえなかった。不思議なこともあるものだ。
ちなみにエルフの場合は見た目が少女でも実年齢は違う場合が結構あるのだけど……この少女は珍しく実年齢通りだった。つまりはまだ15歳くらい。同じエルフなので若いかそうじゃないかは何となく分かるのだ。
エルフって(長生きのせいで)子作りとか滅多にしないから、こんなに若いエルフは珍しいわねぇ。
最初は訝しげな顔をしていたエルフちゃんだけど、私が『大賢者』だと気づいたのか目をキラキラと輝かせ始めた。
「み、ミライン様ですか!?」
「あら、知ってるの? 私、エルフ社会とは縁遠いのだけど」
「もちろんです! かつて勇者と共に魔王を討伐した大英雄! エルフでありながら下等な人間たちのために知恵を貸し、この国を発展させた大賢者! その勇気! 慈悲深さ! 当然私の耳にも届いています!」
さらっと『下等な人間』とか言ったわね、この子。
まぁエルフと人間って基本的に仲が悪いし、さっきまで訳の分からない絡まれ方をしていたものね。下等生物扱いもしょうがないか……。
「え~っと、ごめんなさいね? 私のせいで不愉快な目に遭わせてしまったみたいで……」
「いえ! 悪いのは最低限の知的活動もできない
わぁ、この子意外と口が悪いわ。おもしろ――じゃなくて、愉快――でもなくて。
「き、気持ちは分かるけどそんなに乱暴な言葉を使っちゃいけないわ。自分の『格』も下げてしまうからね」
「初対面の私のことをそこまで考えてくださるとは……噂に違わぬ人格者ですね! 感動しました!」
なんかこの子、最初っから私への好感度が高すぎない?
「ミラってほんと純真無垢な子を騙すのが上手いよね」
私が何回も騙してきたみたいな物言いには厳重に抗議します。
「……あ、そうだ」
まだこの子の名前を聞いていなかったわね。
私が改めて自己紹介をしようとしていると――
「――やっと見つけたぞミライン!」
そんな、いかにも野蛮そうな大声が響いてきた。
振り向くと、視線の先にいたのはゴリラ――じゃなくて、オーク――でもなくて、我が国の騎士団長だった。
名前は……名前は……あれ? 何だったかしら? いつも『騎士団長』と呼んでいたからなぁ。心の中ではゴリラと呼んでいたからなぁ……。
「そういうところだよ」
大親友に呆れのため息をつかれてしまった。世知辛い世の中である。
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