第10話 旅立ちの日


 なにやらセバスさんが忙しくしているので、のんびりお茶を飲みながらさらに今日の詳細を語った私である。


「……つまり、キミの悪い癖が出たわけだ」


「悪い癖?」


「損切りが早すぎるというか、諦めが良すぎるというか……他人にまったく期待していないというか。そういうの、意外と他人には分かってしまうものなんだよ?」


 酷い物言いもあったものである。今回の私は完全無欠の、疑いようのない100%同情に値する被害者だというのに!


「まるで悪びれない……。今回の件、原因は自分にもあるかもしれないとか、考えてみたことは?」


「ない!」


「そういうところだぞ?」


「どういうところよ?」


「他人を無意識に小馬鹿にしてみたり。権力者に遠慮なく正論を吐いてみたり。敵対心を抱いている人間の存在そのものに気がつかなかったり……。そういうのが数十年積み重なっての、今回の出来事だと思うのさ私としては。むしろ巻き込まれた方も可哀想だよね」


「親友。あなたはどっちの味方なの?」


「もちろんキミの味方だよ親友。そして、親友だからこそ耳の痛い指摘もやってあげるのさ」


「素晴らしい親友に恵まれて幸せだなー私はー」


「こいつ、まるで反省していない」


「そもそも反省すべきことがないからね」


「私もキミみたいに図太く生きてみたいものだよ」


「大丈夫、あなたは十分図太く生きているわ」


「喧嘩売ってる?」


「先に売ってきたのはそっちじゃない?」


「…………」


「…………」


 あはは、うふふと胸ぐらをつかみ合っていると、セバスチャンが戻ってきた。一通りの準備は終わったらしい。

 いや早くない? 事業ってそんな簡単に売り払えるものなの?


「相場より少し安くすれば、考え無しの商人が飛びつくものなのさ。……これでもう少し賢ければ怪しさに気がつけるのだけれどね。ま、自分の鼻の悪さを呪うといいさ」


 この親友、鬼畜である。いやまぁ吸血なんだけど。


「さて。じゃあ私も旅装を整えようか」


「りょそう?」


「どこの国に行く? 近場で済ませるなら大聖国だけど、吸血鬼とは相性が悪いよね。となるとレイリッヒ王国がおすすめだけど……そういえば近くにエルフの自治国家もあるんだっけ? そこも面白そうだよね」


「もしかしてだけど……ついて来ようとしてる?」


「当然じゃないか。こんな面白そうな――ごほん、あなたは知識があっても一般常識がないからね。私が側で支えてあげないと」


「せめて本音はもうちょっと隠してくれない?」


「というか……事業を畳んだ以上、私は無職なんだよ? 無職になった親友を見捨てるつもりなのかい?」


「金は持っているんだから無職というか有閑階級でしょうが……」


 律儀に突っ込みつつ、まぁ断ってもついて来るだろうなぁと早々に諦める私であった。……なるほど、こういうところが『悪い癖』らしい。



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