第8話 閑話 聡明なる国王は命令する


 国王は聡明であると自負していた。

 自らの頭の良さに自信を持っていた彼は、この国に迫る危機に思い至っていた。


 そう、あの汚らわしいエルフに、権力が集中しすぎるのではないかと。


 ただでさえ発言力の大きい大賢者である上に、先代国王の決定とはいえ王太子の婚約者に据えられている。もしもこのまま次代の王妃になったとしたら……。あのエルフはどれだけの権勢を誇ることになるだろうか?


 危機感を抱いていた彼に、ある日朗報が届いた。――人工妖精の完成。これさえあれば、大賢者などという古くさい存在に頼る必要もなくなるだろう。


 あの女から大賢者の称号を剥奪し。先代国王との『契約』でこの国に縛り付け。王太子妃として酷使し。そして、王太子の子供は側妃にでも産ませればいい。そうすればこの国のために働かせつつ、権力の中心から遠ざけることができると彼は安易に考えていた。


 その完璧な計画が狂ったのは、バカ息子のせいだった。

 なんと愚息はあのエルフを断罪し、婚約まで破棄してしまったという。


 あの婚約は『契約』の根幹をなすもの。

 当事者が自ら破棄したとなれば、付属する契約もまた失効してしまうだろう。


 もはやこの国に大賢者は必要ないが、あの女の知識が他国に流出するのはマズい。


 国王は慌てたが、そこは聡明であると自負する男だ。すぐに対応策について指示を出した。


「あのエルフを拘束せよ! 抵抗するなら殺しても構わん!」


 諫めようとする側近たちを一睨みで黙らせ、国王はさらに追加で命令を下す。


「王都を封鎖せよ! あの女を捕らえるまで、誰一人として出してはならん!」


 利発なる彼の頭脳はさらに名案を思いつく。


「罪状は、将来の王太子妃に対する傷害! その罪をもって、ヤツの資産を没収せよ!」


 自らの命令の素晴らしさに惚れ惚れしつつ、国王は本日の仕事を切り上げて私的な空間へと戻っていた。


 残された側近たちの青い顔になど気づくこともなく。


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