第7話 冒険者ギルド
さて。王宮から城下町へと転移した私である。
「……とりあえず、貯金を下ろしておきましょうか」
大賢者としての給料はアイテムボックスに放り込んであるけれど、冒険者時代に稼いだお金や収集した素材は王都の冒険者ギルドに預けてあるのだ。昔、あまりにも高価な素材は換金できないと泣きつかれたからね。
生きていくだけならアイテムボックス内の給料だけでも十分。でも、だからといって貯金を放置できるほど私は太っ腹にはなれなかった。
かなーり久しぶりに城下町を歩き、冒険者ギルドへ。この国では珍しい三階建ての建物だ。昔は一階建てだったのでかなり大きくなったと思う。
「…………」
中に入ると、騒がしかったギルド内が一気に静かになった。敵意、とまではいかないまでも『うわぁ』的な感じかしら?
ま、人間の国にいる『エルフ』なのでこういう反応は慣れっこだ。気にすることなく受付を見渡すけれど、見知った顔はいなかった。ただの勤務時間外なのか、あるいはみんな定年を迎えてしまったか……。
しょうがないので手空きっぽい受付嬢に話しかける。
「貯金を下ろしたいのだけど」
ギルドカードを差し出すと、受付嬢は目に見えて動揺しだした。
「あ、あの、大賢者様――いえ、ミライン様ですよね?」
「? えぇ、そうよ」
「大変申し訳ないのですが……ミライン様のギルド資格は停止されていまして」
「うん?」
停止?
最近は冒険者として活動していなかったから、資格停止されちゃったとか? そんな制度あったかしら……?
「あの、その、王宮から指示がありまして。ミライン様のギルド資格を停止し、ギルドで預かっている貯金と素材は王宮が差し押さえると……」
「……はぁ?」
なんじゃそら?
そもそもギルドって国家を越えた独立機関なのでは? それを、王宮の指示があったからといってギルド員の資産を差し押さえるとか……。
あまりにも想定外の事態に私が頭を押さえていると、
「――ふん、貴様に渡す金はない! 汚らわしいエルフめ、さっさと去れ!」
と、受付の奥から男性が一人出てきた。
見覚えがあるような、ないような?
「……ねぇ、あの人誰だっけ?」
私がこっそり受付嬢に尋ねると、奥から出てきた男性にも聞こえてしまったらしい。
「貴様! ふざけているのか!? ライリッシュ王国本部の冒険者ギルド長である、俺の名前を知らないなど!」
いや、知らんがな。
私が知っているギルド長はニックさん……あぁ、彼もそこそこの年齢だったからね。引退したか死んじゃったのかしら?
この男性、ギルド長になれるのだからニックさん時代にもそこそこの地位に就いていたはずだけど……う~ん、思い出せないわねぇ。よっぽど印象が薄かったのかしら?
私が本気で思い出せないことを察したのか、新ギルド長は近くの壁を殴りつけた。
「相変わらずふざけた女だな! 貴様には王太子殿下の新たな婚約者様に対する傷害容疑で逮捕状が出ている! それに伴い資産も差し押さえとなった!」
「……あら、あら。まぁ、まぁ」
また面倒くさいことをしてくれたものである。あのアホ王太子。うんうん、結婚しなくて良かったわぁ婚約破棄してくれて良かったわぁ。
と、私が心の底から安堵していると。ギルドの中にいた冒険者たちが私を取り囲んだ。
「ミライン・ガンドベルク! 国王陛下の命により、貴様を拘束する!」
「……あら、あら。まぁ、まぁ」
おかしくなってついつい笑ってしまう私。ゆっくりと冒険者たちを見渡す私。
「私を、拘束? あなたたちが?」
思わず首をかしげてしまうと、それだけで冒険者たちは腰が引けてしまった。
う~ん、面倒くさし。
このままギルド長をボコって資産を取り戻してもよかったけれども、ニックさんにはお世話になったからなぁ。彼が頑張って立て直したギルドの建物を破壊してしまうのは気が引ける。
というわけで。
残した資産はニックさんへの香典にしたと考えるとして。普通に歩いて冒険者ギルドをあとにした私だった。
「な、何をしている!? お前ら! なぜ追わないんだ!?」
背中からギルド長の叫び声が聞こえてきたけど、冒険者は一人として追ってこなかった。
そりゃそうだ。
冒険者は身体が資本。命は一つ。勝てない相手に向かっていくなど、よほどの命知らずか金に困っている連中だけでしょう。
そもそも。何よりも。
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