第5話 婚約破棄
ちょっとカッコ悪いけど、ライラを呼び止めて問題点を教えましょうか。元同級生だし、放っておくのも『契約』的にマズそうだし。
私がライラに声を掛けようとすると――文官が近づいてきた。王太子殿下からの伝言があるらしい。
すぐに来いとのことなので、私は少しだけ後ろ髪を引かれつつ文官のあとをついていったのだった。
◇
「――ミライン・ガンドベルク公爵令嬢! 貴様との婚約を破棄する!」
部屋に入るなり叫んだ王太子殿下だった。あ、はぁ、そうですか。
部屋の真ん中に陣取るのは(一応)私の婚約者である王太子殿下。そんな彼に抱き寄せられているのは――たしか、男爵令嬢のリリーナちゃんだ。
そんな二人の周りには殿下の側近候補である騎士団長の息子や魔導師団長の息子やらが集まっていて……。う~ん、無駄に豪勢な面子であった。暇なのかしらこいつら? 将来的にこの国を担っていく人材なのだけど。
「ふん! 驚きのあまり声も出ないようだな!」
いや、まぁ、ある意味驚いてますが。
「ならば説明してやろう! リリーナに対する数々の嫌がらせ! この私が知らないとでも思ったか!」
リリーナちゃんを抱きしめる腕に力を込める殿下であった。
嫌がらせ、というと『殿下が取られちゃう!』的な嫉妬による犯行と?
…………。
それ、大前提として、私が殿下に恋していないと成り立たない理屈なのでは?
もちろん私はそんなことをしていない。
むしろ殿下をもらってくれるなら応援したくらいである。
私に冤罪を受け入れる趣味はない。
でも、いい機会なので利用することにした。
「はぁ、つまり、婚約破棄でいいんですね?」
「そう言っているだろう! まったく、知識はあっても元々の鈍さはどうにもならんな! それにくらべてリリーナの何と聡明なことか! 彼女は常に私を立てることを忘れず――」
惚気に付き合う趣味はないので、さっさとことを済ませてしまいましょう。
アイテムボックスから契約書を取り出す。私と殿下の婚約と、その他諸々の約束事が記されている。元々は先代国王に頼まれて結んだものだ。
神殿で交わした正式な契約書なので、大賢者である私でもノーリスクで破り捨てることはできない。
でも、双方の同意があったなら話は別だ。
「じゃあ、さくっと終わりにしましょうか」
契約書を魔法の炎で燃やす。色々と制約の多かった契約書は、今までの我慢が解き放たれたように一瞬で燃え尽きてしまった。
あまりにもあっさりと婚約破棄を受け入れたせいか、騎士団長の息子や魔導師団長の息子らは目を丸くして驚いている。
ただ、王太子殿下にはご満足いただけたようで、『リリーナ!』『殿下!』と喜び抱き合っている。
「……お邪魔なようなので、私はこれで」
また面倒くさいことに巻き込まれる前に部屋を脱出した私だった。
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